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 そんな外食日からしばらく後の、六月二日。今日は体育祭翌日の日曜日だ。

 珍しく朝から隣街まで足を伸ばし、久々にラーメン屋へ行った。昔、よく母さんに自転車の後ろへ乗せられて行った思い出の店だ。


―――へえ、あの別嬪のおっかさんがなぁ……そいつはさぞや辛かったろう。

―――うん。けどいい加減前向かねえと、親父とかに余計な心配掛けちまうから。

―――そうか、坊主は強い子だな。良し、今日は俺の奢りだ!遠慮せず食って行けよ。


 誘いは嬉しかったが生憎帰路もマラソンのため、替え玉二つで店を出た。心地良い汗を熱いシャワーで流し、Tシャツ一枚で帰路に買ったチョコミントアイスを開ける。甘い!そして美味い!

(ま、偶にはこう言う休日もいいよな)

 また一つ過去を乗り越えよう、心境の変化の原因は当然あいつだ。君の力がどうしても必要なんだ!なーんて、可愛いお願いしてくれちゃってさ。俺が断れる訳無いっつーの。

 吹っ切った衝動で、昨日は久々に暗くなるまで爺さんに組み手の相手をしてもらった。それでも足りず、本日のラーメンマラソンを決行した次第。

(けど、味が変わっていなくてホッとした。キューの先公も誘って、今度は三人で行くか)

 確か豚骨が好きって言ってたな、あの先公。ハイネは何派なんだろ?ツラ的には塩っぽいが、明日訊いとくか。

「さってと」

 今夜のメニューは男所帯にも簡単、夏にピッタリ冷やし中華だ。麺を茹でて卵を焼き、食材を切って乗せれば完成。料理初心者の俺にも楽勝だ。まだ爺さんは帰って来ていないようだし、偶にはのんびりさせてやろう。

 携帯をジャージのポケットに仕舞い、外階段伝いに一階へ。合鍵で老人の居住区に入り、台所の冷蔵庫から食材を取り出す。と、キィ。家主の御帰宅だ。出迎えるため居間へと顔を出す。


「ああ、お帰り。今日は俺が準備するからさ、テレビでも見ながら待―――っ!?おい、どうしたんだ爺!!?」


 力尽きるように畳へ座り込んだ老人は、虎毛の上からでも分かる位顔面蒼白だ。それでも唇を震わせ、いや、何でもない……掠れた声で気丈に囁いた。

「その面で何でもねえ訳ねえだろ!?具合悪ぃのか!!?救急車は」

 慌てて携帯を取り出しかけると、いや、いち早く家主は俺を制した。

「大丈夫だ。出先で、年寄りには些かキツい物を見てしまっての……しばらく休めば落ち着くじゃろうて」

 そう言って壁に凭れる彼の憔悴具合は、素人目にもヤバい。本人はこう言っているが、とても夕食までに回復するとは思えなかった。布団敷いて寝かせるか?

(いや、待てよ。確か台所の戸棚にブランデーの小瓶があったよな)

 この間商店街の抽選で当てた、酒の詰め合わせセットに入っていた一品だ。生憎爺さんもお裾分けに預かった近隣住民も皆焼酎派なので、未だ開封していなかったのだが。

「爺。心臓が平気なら、気付けにあのブランデーでも含んでみるか?気分の問題なら、あれで多少は楽になるかもしんねえし」

「そう、じゃな……済まん、頼めるか」

「ああ、すぐ持って来る」

 速攻で台所へ行き、戸棚から小洒落た茶色の瓶を手に引き返す。早速琥珀色の液体をコップに三分の一注ぎ、半開きの口元へ持って行く。

「うっ!思った以上にキツい臭いじゃの」

 ぼやきつつ、乾燥気味の唇を湿らせるように舐める。アルコール約四十度は伊達ではない。見る見る内に頬が紅潮してきた。気分も上向いてきたらしく、とろんと目尻が緩む。

「ありがとう、ロウ……もう平気だ」

 数ミリ中身を残したコップをちゃぶ台へ置き、深い溜息を吐く。

「いいって事よ。けどよ、本当に何があったんだ?」

 沈黙。

「おい」

「済まん、ロウ。相手方と他言無用を誓ってしまっての、仮令お前でも」

「……チッ。わーったよ」

 孫と祖父程年が離れていても、そこは男同士。約束事が如何に大事かは分かる。現に俺も未だにハイネの性別を秘密にしているし、お互い様だ。




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