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 まだ先客の体温の残る席に座り、広げたナフキンを膝の上へ敷く。

「さっき聞いたよ。声楽部、予選通過だそうだね」手を叩き、「良かった良かった。ところで決勝戦は応援に」

「手前には関係無えだろ」

 開口一番その話題かよ。もうちっと話す事あるだろーが。

 青菜に塩状態も、顔馴染みのウエイターが現れた途端、復活する威厳。差し出されたメニューを優雅に眺め、では、人差し指で示す。

「私はこちらの赤ワインを。この子には烏龍茶をお願いするよ」

 程無くドリンクと前菜が運ばれ、ディナー開始。先に沈黙を破ったのは、赤緑のトマトジュレを掬っていた俺だ。

「あいつは滅多に会えねえんだよ、親父さん。だからあんたの誘いに乗った訳じゃねえぞ。そこのトコ勘違いすんなよな」

「ああ……うん。分かっているよ、ロウ」

 傍目にも不器用な親子。それでも母不在の溝を埋めようと、ぽつぽつ会話を交わす。

「ちゃんと食事は摂っているのか?」

「ああ」

 主に支度は爺さんだが、休日は俺も下拵えを手伝っている。尤も、今でも自力で調理するのは袋タイプのラーメン程度。親友に言わせれば手抜きも手抜きだ。

「親父は、メイドでも雇っているのか」

「いや。忙しい時はデリバリーも頼むが……他人を家には上げられないからね。一人でどうにかやっているよ」

 だろうな。うっかり秘密がバレでもしたら大事だし、用心に越した事は無い。

(だから、余計に割り切れねえんだよな……) 

 懲役五百年を食らった極悪犯のスポンサー。しかし一方では、一生の尊敬に値する好人物。武道百段の達人にして、秘匿すべき特殊体質の持ち主。それが俺の父親、コンラッド・ベイトソンと言う男だ。

(これならいっそ、普通の悪人の方がよっぽど分かり易かったのによ)

 何時の日か、このモヤモヤを断ち切れる瞬間は訪れるのだろうか。一介の学生でしかない子供には、そんな遠い未来など欠片も想像が付かなかった。




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