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 椅子から無様に転げ落ちた不良を一瞥し、まるで何事も無かったかのように親友は着席する。

「遅くなって御免。トイレから出て来たら、入口の方で偶然ベーレンス先生と会ってさ」

 幾分親愛の情の戻った瞳。しかしそこには未だ、殺意や絶望では生温い『何か』がヌルリと居座っていた。

「先公が?」

「何でも非行防止キャンペーンとかで、今日は先生達全員で街の遊び場を巡回しているんだってさ。休日に駆り出されてあの人、相当カリカリしてたよ」

「だろうな」

 学園一の人間嫌いでなくとも、六連勤後のサービス出勤など御免蒙るに決まっている。

「ま、個人的な被害は愚痴位だよ。僕等は別に飲酒している訳でもないし、普通に遊んでいるだけだからね」

 そこでようやく己の横、尻餅を着いたままの同級生に気付いたようだ。汚物に向けるより冷たい視線にゾクッ、背筋が又震える。


「―――ところで、駐車場に停車中のノープレートバイク。もしもあなたの物なら、早く行った方がいいですよ。うちの担任、鬼の形相で鬱憤晴らししてましたから」


 絶叫。脚を何度も縺れさせ出口へ駆けて行く少年に、周囲がギョッ!と視線を向ける。一方、半分転がるように遠ざかる後ろ姿を眺めつつ、あ、やっぱり当たりか、元凶は小さく肩を竦めた。

「他に持ち主らしい人が見当たらなかったから、物は試しで鎌掛けてみたんだけど。全く、休日の生徒まで使うなんて、ベーレンス先生も良い性格してるよ」

「へえ、あいつが頼み事なんて珍しいな」

「『俺はここで張るから、中の怪しい奴に片っ端から声掛けてこい。断るつもりなら、今度の内申は覚悟しておけ』だってさ」

 同時に溜息。

「如何にもあの先公しか言わなさそうな頼み文句だな」

「同感。でもあんなに慌てて出て行ったら、自分が所有者だって宣言しているようなものだよ。どうせ給油タンクは穴だらけの上、タイヤも両方パンクして乗車不可なんだ。僕なら取り敢えず一回スルーして、冷静に様子見するけどな」

「げ!どんだけストレス溜めてんだよ、あの数学教師」

 原因の数パーセントながら、ここはツッコまざるを得ない。

「本当、何処の世界に工具箱持参のパトロール員がいるんだってね」クスッ。「ま、自業自得だよ。ナンバープレートが外されていたからあのバイク、多分盗難車だし。そもそも運転自体十六歳から、あ。そう言えばさ」

 スタンドに置いてあった缶入り烏龍茶を啜る。

「あの人、ロウの知り合い?何か無駄に生き急いでる印象だったけど」

「……いや。知らねえ奴だ」

 あの発狂具合なら、恐らく二度と声は掛けて来ないだろう。少しは復讐心もあったのだが、余りのみっともなさにすっかり気が削がれてしまった。

 俺の返答に、じゃあ何だろ、親友は訝しげに首を傾ける。

「あ、もしかして噂に聞くカツアゲって奴かな。にしては随分見る目が無いなあ。何もロウみたいな喧嘩っ早そうなの、ターゲットにしなくたっていいだろうに」

 ズレた正論を述べ、両手を頭の後ろで組む。

「僕の方がずっと弱そうだし、実際ひ弱なのにね」

 こいつ……ひょっとして気付いてないのか?他ならぬ己が奴を、それも眼光のみで撃退した事実に。うわ。だとしたら俺は、どうやらとんでもない男を親友に持っちまったらしい。

「キュー先生も今頃、街の何処かをパトロールしているんだろうな」

「まぁ、あの先公に限ってサボりは無えだろ」

「だよね。あーあ。事前に聞いていれば、朝それとなくアラン先生へ探りを入れられたのになあ」

 如何にも残念そうな面は、すっかり普段通りの甘ちゃんだ。未だ治まらない、俺の動悸だけを残して。

「大丈夫かな、先生」

「心配すんなって。強面鬼畜のベーレンスと違って新米で女だし、流石に誰かとペア組んでるだろ」

 最悪相手がいなくても、最高責任者の親父がフォローを入れている筈。尤も、あの年齢不相応にお転婆な女の事だ。一人で勝手に突っ走った挙句、相方を振り回している可能性は十二分にあるが。

「ああ、それもそうだね」

(え?)

 心からの安堵の表情を見た瞬間、チリッ。今までに無い不快な感触が胸を走った。チッ。さっきから一体何なんだよ……?

「さて、と……ロウ?」

 不思議そうにこちらを覗き込む緑目。

「さっきから顔が真っ赤だよ。ちょっと、まさか熱があるとか言わないよね?君が今日は目一杯投げるって言うから、三ゲーム分前払いしたのに」

「っ!!?」

 額に伸びた手を反射的に払い除け、そのままズキズキと痛む心臓を押さえる。

「?」

「わ、悪ぃ……急に来るから吃驚して」

 必死に深呼吸し、今にも震え出しそうな唇でどうにか弁解する。

「ああ、僕こそ御免。でも、本当に平気なの?さっきはああ言ったけど、体調が悪いなら帰って休んだ方が」

「大丈夫だって言ってんだろ!次、俺からだったよな!?」

 異常を悟られないよう、わざと大股で球の排出口へと向かう。そんな俺の背に向け、本当は僕の番だけど、まあいいか、下手っぴが疲労混じりに呟いた。



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