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「―――ああ、御免。そのニュース観たの、確か一年後だ」「にゃにー!!!?」
愛情フルパワーで首を絞めつつ、もう片手で頬を抓る。そんな俺をハイネ(幽霊。まぁ俺も、隣で笑うキュー先公もしっかり同類だけどな)は、また始まったかと言わんばかりの冷めた目を向けた。
麗らかな春の午後の一時。色とりどりのカーネーション畑の中、俺達は今日も今日とて現世を漂っていた。
「テレビはおろか、新聞もラジオも無い所だったんだから仕方ないだろ。この文明人め」
「そうよ、ロウ君。あと、携帯も辺境だと案外繋がらないのよね」
「先公まで」
腕を放し、よよよ、哀れっぽく崩れ落ちる。
「うぅ……お前が見てくれてると思ったから、髪型も数時間掛けてバッチリ決めたんだぞ。パンツだって下ろしたてのを」
「何見えないオシャレアピールしているんだ。って言うか、理事長先生のスーツなんだから当たり前だ!」
「おお、可哀相に。あのきゃわいいハイネが、長旅ですっかりやさぐれて……」
再び背後から抱き締め、頬同士をグリグリ擦り合わせる。
「おい、何処触ってるんだ変態!?」
「そう?ハイネ君って、前からこんな感じだと思うけど」
「余計な茶々入れるなよ、先公。うにー❤」
ガンッ!流石にキレたらしく、肘で鳩尾を一撃。拘束が解けた所を素早く転進し、衣服の乱れ(幽霊なのにフツーに脱がせられるんだよな、これ。何処のエロゲだって話)を整える恋人。
「全く、この煩悩霊め。毎回付き合うこっちの身にもなってみろ」
「とか言って、本心ではもっと触って欲しいんだろ?お前は昔から寂しがり屋さんだからなあ」
「おやおや。次は私の番でしょ、ロウ君。―――そうだわ。じゃあ今度はハイネ君がその頃、何処で何をしていたかお話ししてよ。君の旅の話、実は私達まだ殆ど聞いてないんだもの。ね?」
キラキラ輝くアメジストに、そんな、僕の旅なんて大した物じゃ……、親友は一転もじもじと照れる。
「ああ。でもその頃だったら、丁度ヴァッネ王国にいたかな。常夏の島国で、とても綺麗な所なんです」
「ああ、私そこ知ってる!行った事は無いけど、一年中フルーツが食べ放題なんでしょ?いいなー」
ああ、あの国か。俺は都合二度程行ったが、暑いのを除けば正に楽園だ。そう言えばあいつ、しばらく会ってねえけど元気してるかな?
「でも僕の滞在以前はその国、国交らしい国交が皆無だったんです。手紙も文鳥の足に括り付けて、大陸の郵便局まで運ばせていた位で」
「みたいだね。でも、どうしてそんな辺鄙な所にハイネ君が」首を傾げ、「行くにしても船自体無さそうだけど」
「いえ。実は、僕も一年近くも滞在するつもりなんて無かったんです」
らしいな。あいつから端折って聞いたが、本当に偶然の訪問だったそうだ。
「へー!じゃあどうして?」
「まあまあ。慌てなくても、これからゆっくりお話しますよ」
大海のような朗らかな笑みに、絶望の影は最早一片も無い。その事実が何より嬉しく、且つ愛おしかった。
「まずあの頃は旅費を稼ぐため、住み込み船員として客船を転々としていたんですが―――」




