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「何だよ、こんなトコ呼び出して」

 人気皆無の体育館裏。俺の呼び掛けにクラスメイト、1-Bの学級委員長は緊張した様子で振り返った。

 机の中の手紙に気付いたのはついさっき、ホームルーム直前だ。


―――ロウ・ダイアン君へ。あなたにとても大事な話があります。放課後、誰にも言わずに体育館の裏まで来て下さい。


 あ、しまったぞ。このシュチュエーション、まるっきり学園ドラマの告白じゃねえか。

 そりゃ自分で言うのも何だが、服の下の獣毛を除いてルックスは結構イケてる方だと思う。だが限定的ながら授業に出席するようになって、まだたったの二ヶ月だぞ?まして優等生、常にクラストップの才女となんて口すら利いた事、

「来てくれたのね、ダイアン君。ありがとう」

「まぁ、あんな意味深な手紙出されちゃな」

 ふむ。今の所告る兆候は無し、と。両手にもプレゼントらしき物は提げていない。ま、プロポーズじゃあるまいし、たかが愛の告白なら何も要らないか。

 如何にもIQ高げな彼女は眉根を寄せ、あの、徐に口元へ手を当てた。

「凄く言い難い事だし、ダイアン君もすぐには信じてくれないと思うけど……」

「勿体振るなよ」

 帰宅部だからって俺も暇じゃねえんだ。買った漫画を読んだり、居候先の煌爺さんの家事を手伝ったり。宿題?んなモン、写せば十分で終わるのにやる必要無えだろ。

「そう、ね……じゃあ手短に」

 委員長はそう言い、大袈裟に肺を膨らませた。


「ダイアン君。彼とは―――レヴィアタ君とは、もう付き合わない方がいいわ」


 付き合わないで、なら分かる。実は私、彼に一目惚れしているの。だからあんたみたいな不良はお呼びじゃない。酷く身勝手な言い分だが、独占欲の強い女なら如何にもぬかしそうな台詞だ。

 若しくは中庭での秘密の共有者、レイテッド先生と付き合わないで、でもまあ理解可能だ。幾ら本人は天然娘でも、彼女の伯母は残虐無比、悪辣権化の『Dr.スカーレット』。正直学内の評判が悪いのは事実。ただその場合、何故こいつが俺達の仲を知っているかが新たに謎となるが。

 或いは聞き間違いで、私と付き合って、なら話は至極単純だ。多少良心は痛むがキッパリ断り、この場を後にすればいい。

 そんな様々な仮定を脳内で巡らせた結果。「へ?」間抜け声が出るのも致し方無かった。

「だから、あんな子と友達なんて止めた方が」

「あの人畜無害のお人好しとか?は、何で?本気で意味分かんないだけど」

 残念ながら冗談では無さそうだ。付き合いは極薄だが、こんな場面でジョークを飛ばすようなキャラでない事だけは分かる。

「実は私、一昨日……コンビニで万引きしたの」

「……はい?」

「最近色々あって、凄くムシャクシャしていたの。それで塾へ行く前につい、ね。一応弁解しておくけど、正真正銘初めてよ。盗んだのだってガム一個だし」

 おいおい、教会でもないのに懺悔が始まったぞ。つーか、委員長の軽犯罪とあいつに何の関係が? 

「ま、まあ、委員長も人間だしな。ずっと頑張ってりゃストレス位溜まるさ。で?」

 慣れない慰めを入れ、話の続きを促す。

「店を出た所で、偶然レヴィアタ君とバッタリ会ったの。まさかクラスメイトが通り掛かると思わなくて、物凄く吃驚して」

 まあ普通はな。

「でも彼、全然私に気付いていない風だった。だからこっちも証拠品を鞄へ仕舞って、普通に挨拶でやり過ごそうとしたの。だけど―――」


―――これ、ついでに返して来るよ。丁度牛乳買う所だし。


「反論どころか、瞬きすら出来なかったの。ああ……今思い出してもゾッする。気が変になりそう……!」


―――それと、僕が言うのも何だけどさ、もう止めといた方がいいよ。幾らリベラルな校風だからって、万引きは立派な犯罪だ。


「か、彼、絶対普通じゃないわ!あんな、あんな怖い眼差し……!!」

 おいおい。この女、SAN値ヤバいんじゃないか?俺、精神分析なんて持ってねえぞ。

「罪の意識で偶々そう見えただけだろ。ってかその話だと、悪いのは全面的に委員長じゃねえか。他人を貶す権利なんて無えだろ」

「そんな事、言われなくたって分かっているわ。でも、ダイアン君!」

 持ち主の動きに釣られ、ポニーテールが激しく左右に振られる。

「私、あなたが心配なの。罷りなりにも彼と友達のあなたが、本当に」

「だからあんな恋文紛いの手紙で呼び出して、親切で教えてやったってか?―――ケッ、大きなお世話だ!」

 ああ、気分悪ぃ!こんな下らねえ用なら来なきゃ良かったぜ!!

 怒りに突き動かされるまま場を後にしかけた俺へ、本当なの、信じて!尚も叫ぶ委員長。

「五月蝿え、あいつは俺の親友だ!これ以上悪口言うなら、仮令女でもブッ飛ばすぞ!!」

「お願い、話を聞いて!ダイアン君までおかしくなったら私、私……!」 

 懇願を無視し、正門へと歩き出す。遠ざかる啜り泣き。勿論、俺は一度たりとも振り返らなかった。



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