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翌日登校すると案の上、ホームルーム前の学園は騒然としていた。当然、俺の在籍する1-Bの教室も、だ。
(ま、朝のニュースでそればっかやってたしな。さて、後は何処まで情報が漏れているかだ……)
熟睡する老人に配慮し低音量で確認した範囲では、ほんの触り程度の情報だった。ただ、携帯を常備する学生ネットワークは侮れない。恐らく更にディープな所まで漏れているだろう。
(つか、何気に俺が先に登校って初だな)
そう思いながら真後ろの空席を一瞥し、机に突っ伏す。
「ねえねえ。殺されたの公立校の生徒らしいよ」
「怖いねー」
ほら、早速始まった。寝たふりをしつつ耳を傾け、一言一句聞き漏らさないよう発生源である教壇へ注意を向ける。
「しかも犯人、他の星でも何人か殺してるんだって。だから聖族政府から今度、凄腕の捜査官が派遣されるらしいよ」
「本気?」
「そいつは大事だな。つか、部活の先輩が職員室で盗み聞きした話だけどよ、死体の第一発見者は何と!うちの理事長らしいぜ。何でも散歩中、偶然あの公園を通り掛かったんだってよ。で、公衆トイレで携帯が鳴ってたから、落し物かと思って見に行ったらしい」
ほう、それは初耳だ。確かに記憶にある限り、北公園は遊具同様トイレもボロくて滅多に人が立ち入らない。昨夜訪れた中央公園と違い、丸一日遺体が見つからなかったのも納得だ。
「怖……じゃあさ、あの噂も本当なのかな」
ゴクッ、同時に生唾を飲む一団。
「被害者が皆私達位の年で、黒髪に緑目の男子って奴だよね……」声を潜める委員長。「それってまるで」
うつ伏せでも視線が俺の背の奥、親友の机へ集まったのは容易に察せられた。黒髪は他にも何人かいるが、瞳の色まで該当しているのはクラスであいつただ一人だ。
「レヴィアタなら大丈夫さ。寧ろ逆に殺り返しそうじゃね、あいつ」
嘲ったのは体育祭で二人三脚の相棒だったくせに、本番で食中毒を貰った軟弱者だ。先の発言で分かる通り、名前など覚えてやる価値も無い。
「そう、ね……」
「ああ。間違ってもあいつだけは襲われないさ……」
嫌悪、恐怖、憂慮、いや―――的確に一言で表現するなら、畏怖、か。自分達と別次元の存在に対する、虐める事すら厭う集団的感情。
(チッ。本人がいないからってこいつ等、好き勝手ほざきやがって)
腹を突き上げる感情を覚えた瞬間、シッ!委員長が注意を飛ばす。ようやく俺の存在に気付いたらしい。完全に筒抜けだっつーの!
それからも若干声量が落ちた話に暫し耳を傾けていた。が、素人の推理合戦ばかりで目ぼしい情報は特に無い。ウンザリ感から欠伸を零すと、不意に一瞬の静寂が訪れた。ケッ!つくづく失礼な連中だぜ。
カツカツ、とんとん。「もうすぐベーレンス先生来るよ、ロウ。眠いのは分かるけど、取り敢えず起きて」「あぁ……おはよ」
生命の危機が忍び寄っているとも知らず、肩を叩いた親友は普段通り自分の席へ。遠巻きの連中を殴りたい衝動を抑え、俺は目を擦った。
「ニュースを観て予想はしていたけど、案の定かなりの騒ぎになってるね。アラン先生も暗い内から呼び出されてたし」そこで俺の耳元へ唇を寄せ、「―――で、無事に帰してもらえたの?」
「ああ。元々ツイてねえだけの一発見者だったしな。今日も朝早くから登校している筈だ」
「そっか。なら良かった」
気取りすらしてないんだろうな、こいつは。自分の安堵の表情に、俺が柄にも無くときめいているなんて、さ……。




