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ガチャッ。カツ、カツ、カツ……。「親父!?」「!?ロウ……来ていたのか」
俺の姿を認めて駆け寄った父は、普段と特に変わらないように見えた。後ろからのっそり現れた署長が、第一発見者に向けて腕を広げる。
「ずっとここで待っていたんですよ。とても優しい息子さんですね」
「ええ……この子共々、大変御世話になりました」
親子で深々と頭を下げる。
「いえいえ。こちらこそ遅くまで引き留めてしまい、本当に申し訳ありませんでした。恐らくもうおいで頂く事も無いでしょう。捜査協力、誠にありがとうございました」
続けて現れた捜査員達と共に最敬礼で見送られ、俺達は警察署を後にした。さて、一体何処から質問しようか。そう思案した最中、ロウ、年長者に呼ばれた。
「改めて礼を言わせておくれ。お前が待っていてくれて本当に嬉しかった」
「ちげーよ。うちの顧問弁護士がロクに説明くれなかったんで、単に気になっただけだっつーの」
「ははっ、如何にもビ・ジェイ君らしいな。それでも……ありがとう」
ぎゃあっ!照れ臭さが頂点に達し、慌てて顔を背ける。
「その、あんたがオヤジ狩りに遭うとは到底思えねえけど、一応家まで送ってく。いいだろ、理事長先生」
「え……あ、ああ。そうだな……では宜しく頼むよ、ダイアン君」
既に十時近くを回っているため、住宅街の道路に人通りはほぼ無い。注意すべきは時折角から現れる自転車位だ。
帰路を進んでいると、カツン、磨き込まれた革靴が不意に歩みを止めた。
「済まない。帰る前に少し付き合ってくれないか」
震える拳に意図を察し、ああ、俺は敢えて何も訊かず首肯した。
進路変更した先はラブレ中央公園。どちらともなくブランコへと座り、互いにニヤニヤ。
「こんな夜更けにいい年したオッサンと二人とか、ゾッとするぜ」
「同感だ。さて」
キィ。
「明日は朝一で緊急職員会議だな。その頃には警察からも事件の資料が回ってきているだろう」
「正直にバラすつもりか、疑われたって」
いやいや、父は首を小さく横へ。
「アリバイ云々は完全にビ・ジェイ君の早合点だよ。だが、どうやら要らない誤解をさせてしまったようだね。そもそも私は容疑者扱いなどされていなかったんだよ。何故なら今日の事件は“翡翠蒐集家”、彼の九件目の殺人だったのだからね」
「“翡翠、蒐集家”……?」
宝石泥棒じみた名を告げた親父は腕を組み、眉根を寄せる。
「教育委員会の会合で、噂には聞いていたが……とうとうこの街にも現れたらしい」
筋金入りの連続殺人鬼って訳か。しかし、
「どうして警察は、そいつの犯行だって分かったんだ?分かり易い目印でもあったのか」
漫画のシリアルキラーは壁や遺体にサインを描き、これでもかと自己アピールするのが定石だが。
「犯行の状況が完全に一致していたからだよ。被害者は十代前半の少年で、黒髪と緑色の瞳の持ち主。そして―――今日発見されたジケイド・ベー君を含め、全員の死因は脳まで達す眼球破壊の傷」
「っ!!!?」
唐突な信じ難い名の出現に、一瞬呼吸が止まった。あのサディストの餓鬼大将が……殺された、だって?
「これだけ特徴的な条件が揃っていれば、流石に何処の署でも一目瞭然……ロウ?」
確かにあいつは多少染めてはいたが、立派な黒髪緑目の持ち主だ。だが俺の転校以前から、あいつは護身用だとぬかして常にナイフを隠し持っていた。腕前はさておき、んな不良があっさり殺られる相手。一体どんなサイコパスなんだよ……?
「生徒手帳を見て、まさかとは思ったが……友達、だったのか?」
「いや。あんな奴、ダチでも何でもねえよ」
嫌悪たっぷりの口調で悟ったのだろう。親父は渋面を浮かべ、鎖を強く握り締めた。
「そうか……教育者としては凡そあるまじき態度だが、自業自得かもしれないな」
「そう言えばあんた、弁護士に大まかな死亡推定時刻を教えたらしいな。手帳や携帯と言い、通報前に一通り調べたのか?」
「ああ。親切な通り掛かりの人がいてね、殆どは彼に任せたが」
立派な捜査妨害だぞ。って、このなりでも一応犯罪者だったな。すっかり忘れてた。
ガチャリ。突然親父は遊具から立ち上がり、疲労感からか側頭部を押さえる。
「親父?」「ロウ―――レヴィアタ君には気を付けてあげなさい」「え……っっっっ!!!!???」
今この瞬間程、己の記憶力を呪った事は無い。ほんの少し茶が混じってはいるものの、親友は完璧に被害者の特徴と合致していた。
「う、嘘だろ!!?」
あいつが、殺される……?んな訳分かんねえショタコン殺人鬼に?冗談じゃ、
「明日改めて生徒全員を調べるが、少なくともあの子の一番傍にいるのはお前だ。大会直前で、声楽部も毎日遅くまで残っているとは思うが」
「関係無えよ、んな事!!」
反射で怒鳴り返す。驚く親父を他所に、ブランコを飛び降りた俺はダンッ!地面を強く蹴った。
「勿論こちらが心配せずとも、警察も厳戒態勢で臨んでくれるだろう。だが犯人はこれまで『同じ街で二度』殺人を行っているそうだ。つまり」
その狂ったルールに乗っ取るなら―――近い将来、もう一度ラブレで殺人が起きる。
「ありがとよ。先に教えてくれて」
「何、これでもお前の父親だからね」
苦笑しつつ上着のボタンを外し、皺にならないよう鉄棒へ引っ掛ける。パリッと糊の利いたワイシャツの上からでも分かる程、彼の肉体は鍛え抜かれていた。




