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 そうやって急ぎ駆け付けた一時間後。午後九時、警察署受付にて。


―――何も心配は要らないよ。もう少し事情を聞いたら、お父さんは解放する。

―――それと先程、弁護士の先生からも電話があったよ。あの人、前職は探偵でもしていたのかい?この短時間で、よくあれだけ精密にアリバイを証明出来たものだ。


 説明に現れた署長の計らいに因り、俺はカップコーヒー片手に養父を待つ事となった。時間帯故、必要最低限の照明しか灯されていないロビーには、俺と受付職員以外無人だ。署内全体もしーんと静まり返り、ちょっと不気味な雰囲気。

 カタン。ドアの開く音に、反射で立ち上がる。だが廊下の奥から現れたのは親父ではなく、一見何処にでもいそうな中年夫婦だった。泣き崩れる妻を支え、休日出勤だったのかスーツ姿の夫は足早に入口へ向かう。途中で彼は俺に目を留め、小さく一礼。悔やみの気持ちを籠め、俺も大人に倣う。

(今のが被害者の家族か……いたたまれないな)

 未だガイシャの素性は不明。それも含め、この後親父から訊き出すつもりだ。

(そう言やこの事件、もうマスコミには情報流れているのか?)

 俺の知る限り、ラブレでの殺人事件は十五年振り。例の『S事件』絡みの夫婦以来の筈だ。まず確実に明日の一面を飾る事となるだろう。

(待っているだけってのも暇だし、電話してみるか)

 携帯を取り出し、電話帳を開く。相手は五コール目で出た。

「もしもし、俺だけど」

『詐欺ならお断りですよ。じゃなくて』

 親友は傍にいるらしい同居人に聞かれたくないのか、ねえ、声を潜める。

『君に訊くのもおかしな話だけどさ、理事長先生に何かあったの?一時間位前だったかな。アラン先生に電話が掛かって来たんだよ。ボソボソした喋り方の、男とも女とも付かない人で、アリバイがどうとか』

 流石は辣腕弁護士。仕事が早え。

『キュー先生の所にも、ほぼ同時刻に同じ用件の電話があったらしいよ。尤も、そっちは快活でお喋りな男性だったそうだけど』

 お喋り男?あの若作りババア、助手なんていたのか? 

「ふうん。で、先公共は何て答えたんだ?」

『キュー先生の方は分からないけど、アラン先生は割と詳しく言っていたよ。体育祭の副責任者だったし、裏方で色々走り回っていたから』

 競技以外の場所でもちょいちょい目撃してたって訳か。

『で、本当に何が』

「明日になりゃ嫌でも分かるさ。ところで、ニュースではまだ何も言ってないのか?」

『ちょっと待って』

 カタン。ピッ、ピッ……カタン。

『特にそれらしい事件はやってないみたい。オルテカの動物園でパンダの赤ちゃんが初御披露目とか、タイムリーなのはそれ位かな』

 お手本のような平和な休日だ。が、明日は恐らく、

「……そっか、教えてくれてありがとよ。あと悪かったな、こんな遅くに電話して」

『あ、一応気にしてたんだ。別にいいよ。どうせまだ寝る時間じゃないし』

 フッ。短い吐息の音に、状況も忘れ胸が高鳴った。

『詳しくは明日にでも聞かせてもらうよ。出て来られそう?』

「ああ、問題無え。ところで明日の一限って、確か数学だよな」

 週初め一発目から仏頂面対面と言う、普段なら非常に憂鬱な時間。だが、


「よっしゃ!」『意味は分からないけど、取り敢えず今凄まじく不謹慎な事言わなかった?―――まあいいか。じゃ、また明日』「ああ、お休み」


 ピッ。通話を切り、俺は静かに目を閉じる。そして、声にならない声で―――愛してるんだからな、断絶の先へそう囁いた。




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