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 だが、俺にとっての本当の変事はここからだった。

 夕食後も俺は心配から、しばらく一階に留まっていた。お笑い番組を観つつ、表面上は回復した爺と爆笑していると、不意にポケットが震動する。

「ん?誰だよ、こんな時間に」

 親友なら最高だな。けどま、キューの先公や親父でもそうガッカリではないか。そう思いつつナンバーディスプレイを確認すると、表示されていたのは意外な名前だった。

「悪い、爺さん。ちょっと出てくる」

「ああ。気を付けてな」

 登録の事実に所有者自身驚きつつ、靴を履いて屋外へ。住処の二世帯住宅を離れる事、約二十メートル。八回目のベルが鳴り終わった所で、俺は受話器のボタンを押した。

「―――はい、もしもし?あんたから俺に電話なんて珍しいな、弁護士。こんな遅くに一体何の」

『早急にコンラッド・ベイトソンのアリバイを把握する必要がある。期間は昨日の朝から夕刻まで。君が知る範囲で構わない。なるべくハッキリした時刻を頼む』

「はぁっ!?」

 アリバイだあ!?あのチョビ髭、一体何やらかしたんだよ!!?

「ちょ、ちょっと待ってくれ!?まさか親父の奴、今警察署にいるのか!!?」

『ああ。殺人現場の第一発見者として、現在取調中だ。掛かる嫌疑に備え、先に証言を用意しておきたい。協力してくれ』

「クソッ、そう言う事かよ……」

 ただでさえ叩けば埃がポロポロ出かねない身。先手で潔白を証明するに越した事は無い、って訳か。

「勾留されてるのは、この街の警察署か?」

『ああ。現場は郊外北の児童公園、学園から徒歩三十分の場所だ』

 げっ、しかも直ぐ目と鼻の先じゃねえか!?母さんとも何度か行った、ボロっちい遊具ばっかの……あんな辺鄙な所で殺人が?

「待てよ。今日発見されたって事は、まだ正確な死亡推定時刻は出てねえよな?」

『その通りだ。だがコンラッド・ベイトソンの話では、被害者の携帯に残された最後の通話記録は昨日の朝。死後硬直から言っても、恐らく犯行は昼間の内だろう、と』

 だったら問題無えよ。反射的に指を鳴らす。 

「昨日は体育祭で、親父は一日中学園の敷地内にいた。近くに駐車スペースは無えし、先公共や俺達生徒の目を掻い潜って往復一時間なんてぜってー無理だ」

 それに贔屓する気は更々無いが、親父はああ見えて学園中の人気者だ。そんな男がこそこそ抜け出そうとすれば、必ず誰かが気付く筈。

『なら好都合だ。証言を集め、彼のアリバイを整理したい。君が彼を間違い無く目撃したのは何時だ?』

「そうだな……まず九時の開会式だろ。で、教員対抗のパン食い競争が十一時頃で……」

 何も最高経営者自らジャージで出陣しなくてもいいだろうに。端で見学していた息子としては、羞恥で顔から火が出そうだった。

「あとは閉会式位か。行事自体が終わったのは確か三時頃だ」

 ハイネと並んで表彰台に上がった時の表情を思い出し、思わずクスッとなりながら締め括る。

『?』

「ああ、いや悪ぃ。俺達がトロフィー貰いに行った時、鳩が豆鉄砲喰らったような顔してたからよ、あの親父」

『そうか。それで全部か?』

「俺はな。多分その後は、食中毒や設営の後始末に追われてた筈だ。その辺は先公共に訊けば分かるだろ」

『了解した、協力感謝する。では』

「!?おいこら待て!!?肝心の話がまだ」

 ブツンッ!ツー、ツー……。

「切りやがった、あのムッツリ女……チッ!しゃーねーな!!」

 俺は踵を返し、家主に外出を告げた。その後自室へ取って返し、脱ぎっ放しだった外出着を纏う。最後に羽織ったパーカーへ財布と携帯を突っ込み、錆びた階段を半ば跳ぶように駆け降りた。




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