表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/20

1

※この話は『花十篇 カーネーション』の続篇です。

前作のネタバレが多分に含まれますので、先にそちらを御一読頂けると助かります。

また、『前十篇』シリーズはオムニバス形式の作品です。

読む目安は、赤→灰→緑・蒼・白・黄→金→イレイザー・ケース→虹・黒となります。

可能であればその順番でお読み下さい。



 キーンコーンカーンコーン。「うにゃぁ」「よしよし」


 ランチタイム開始のチャイムをBGMに、俺は腹上のタマ(俺命名)の背を撫でる。寝そべった芝生もふかふか。これで空腹さえ無ければ即眠気の虜だ。

 俺の名前はロウ・ダイアン。ラブレ中央学園の中等部一年生兼、中庭の暫定主だ。少し前までは図書室を根城にしていた。が、タコ理事長(親父)に見つかり、泣く泣く移住を余儀無くされたって訳。


―――あ、待ちなさいダイアン君!?

―――うっせー、このお節介野郎が!


 養子で似ていないとは言え、勿論学園内で俺の立場は秘密だ。尤もあのいけ好かない冷血担任、ベーレンスの野郎には知らされているだろうがな。

「……チッ」

 分かっている。母さんが死に、あいつは今や俺の唯一の保護者だ。家出の上、転校の甲斐無く授業へ出席しない息子の心配位、するに決まっている。

(昔っからそうだ。父親のくせに甘えんだよ、あのチョビ髭は)

 虐め程度で不登校になった情けない子供に、喝の一つも入れやしない。血が繋がっていないからって、他人行儀に接する必要なんて無えのに、

「にゃー!」

「ああ、悪ぃ」

 つい頭を撫でる手に力が入っていた。獣族の握力は人間より強い。握り潰す程では無いが、非礼を詫びる。

「(擦り擦り)バーガーは一応二人分買っといたけど、流石に今日は『あいつ』来ねえよなぁ……」

 ハイネ・レヴィアタ。昨日、突然この楽園に現れた俺のクラスメイト。人見知りのタマが一発で懐いた上、筋金入りの転校生&料理男子と来てる。しかも俺と同じく母を亡くし、父親とも諸事情に因り現在別居状態だ。

 居候先は本校中等部の体育教師、アパート住まいのアンダースン家。何が悲しくて先公の所なんてと思うが、しっかり者のくせに何処か抜けている当人は特に気にしていない模様。

(二日続けてクラスの連中を撒くなんて暴挙、普通に考えなくても有り得ねえ)

 ラブレでは腰を据えて学業に励むと言っていたし、立場的にも今日は教室で和気藹々モードだろう。加えて、あの手製弁当。きっと今頃女子共に囲まれ、キャーキャー言われているに違いない。

(……ま、しゃーねーよな)

 閉鎖コミュニティで巧く立ち回るには、社交が必須。俺みたいな不良に構っている時間なんてそうそう、


「おーい、タマー!ロウー、いるなら返事してよー!?」ズルッ!「っなっ!!?」


 枕代わりの根瘤からずり落ちた頭を押さえつつ上半身を起こし、周囲の樹々を見渡す。果たして数十秒後。幹と幹の間、約二十メートル離れた地点でキョロキョロする奴を発見した。

「こっちだ、ハイネ!あと、やたらに俺の名前を呼ぶんじゃねえ!!」

 また親父に嗅ぎ付けられたら面倒だ。

「あ、御免。って言うか、今日はそこにいたんだ。昨日の場所にいないから、てっきり今日は休みかと思ったよ」

 ザッ、ザッ。昨日と違い、現れた友人はやや古びた茶色いランチバッグを提げていた。

「にゃーん」

「こんにちは、タマ。ちりめんじゃこ持って来たけど、食べる?」

 言いつつ鞄から乾燥稚魚入りの小袋を取り出し、掌へ中身を開ける。にゃーにゃー、ぺろぺろぺろ!食いつきヤベえ!!

「ふふ、くすぐったいよ。―――はい、今日はこれで終わり。また今度ね」

「にゃぉん❤」

 満足し切った白猫は俺達の間で丸くなり、早々におねむの体勢。本当現金な奴だぜ。

「ってかお前、何しに来た!!?」

「え?」

 きょとん。ん?こいつ、近くで見るとちょっと可愛い?

「何って、ロウ達とランチしようと思って、ベルと同時に出て来たんだけど……(きょろきょろ)今日も現れていないの、飼い主の先生は」

「阿呆か!」

「はぁっ?」

 俺は懇切丁寧に、若干過去の苦い実体験も交えつつ、クラス内でのコミュニケーションの大切さを説いてやる。が、当の本人は「はぁ、それで?」空恐ろしい程ちんぷんかんぷんな様子。

「だーかーらー!んな態度してっと、今にハブられるぞ!!」

「あぁ、別にそれ位いいよ。今までの学校も、友達らしい友達はいなかったし」

 そこで何故か首を傾げた。

「あ、でも今回は少なくとも一年はいるから、名前位は覚えた方がいいのかな。苦手なんだけどなぁ」

 な、何なんだ、こいつ……擦れているにしては妙に天然だし、はみ出し者にしては人嫌いな風でもない。敢えて当て嵌めるなら無関心、か?だがそれなら何故、こいつは俺の所なんかに来たんだ?

「まあいいや、取り敢えず昼食にしようよ。僕、もうお腹減って減って」 

 言ってランチバッグを開き昨日の弁当箱を、続いて色違いの同サイズを取り出す。箸入れも今日は二つある。極自然にワンセットにし、はいロウ、クラスメイトは俺に差し出した。

「……は?」

「いや、だから君の分。どうせ今日もハンバーガーで済ます気だったんだろ。材料の都合上、量は少し足りないかもしれないけど」

 理解した一瞬後、カァッ、耳まで広がる頬の火照り。

「何で」

「え?」

「俺達、昨日会ったばかりだぞ。なのに、どうしてここまでするんだよ?」

 確かに多少突っ込んだ身の上話はした。だが、同情など真っ平御免だ。

 するとハイネは少し考え、自分の分の蓋を開く。

「うーん、そうだな……君が美味しそうに食べてくれたから、かな。僕、父さん以外に弁当作った事無くてさ。あの人もよく上手だって言ってくれるけど、所詮は家族だろ」

 今日のメニューは色鮮やかな生野菜のサラダに、豆腐とヒジキのハンバーグ。主食は砂糖醤油で炒った、じゃこ入りの三角お握りだ。どー見ても立派な女子弁である。

「具体的に褒められた事も無いしさ。ま」溜息。「頼んでないから当たり前か」

 ?何だ、この妙に余所余所しい反応。単に思春期で冷めているだけ、にしては変にザラザラした感じだ。

 遅ればせながら弁当箱を開け、瓜二つの中身と御対面。そこでレタスを抓んでいた友人が呟く。

「でも持って来てて良かった。それ、父さんの弁当箱なんだ。向こうでは要らないからって預かってたんだけど」もぐもぐ。「早速役に立ったね」

「そっか、じゃあ精々大切に使わせてもらわないとな―――頂きます」 

 神妙に手を合わせ、握り飯を両手で持ち、ぱくり。米と海苔、甘辛い炒りじゃこが口内で渾然一体となった瞬間、俺は反射的に目を見開いた。


―――そんなに慌てて食べなくても、ちゃんと沢山作ってあるからね。

―――ほら、言った傍から!背中叩くわよ。


 ハッ!我に返り、掌中の白い塊を眺める。有り得ねえ。だが、紛れも無くこれは―――俺が幼い頃から慣れ親しんだ、ランファ母さんの味だった。

「ロウ?」

 何故、昨日の時点で気付かなかったのだろう。こいつの味付けは彼女そっくりだ。優しくて、温かくて、食べる人を静かに労わるような薄味の……。

「な、何でもねえよ!」

 残りを半ば無理矢理口へ押し込み、俺は溢れそうになる物をどうにか堪えた。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ