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9.俺は誰なんだ?

知らなくていい事も


知らなきゃいけない事も


自分が望まない限り、知らされなくてもいいだなんて


それこそ傲慢だと思わないか?


「なあ、霧島ぁ。お前に会わせたい子がいるんだけど、今度の木曜夕方、練習いけるか?」


なんだよ、会わせたい子って、まぁその日は空いてるけどさ。


「すげー面白い子なんだ。くるくる表情が変わって、感情豊かで友達想いのいい子なの。」


でさ、と前置きが入る。

なんだよ。


「その子も。俺と同じ、多重人格者なの。」


がんっ、と。

突如振り下ろされたハンマーに、俺は冷や汗が止まらなかった。


話したのか?その子に。


「うん。で、もう二度と来るな、次は殺すってすごい剣幕で追い返されちゃった。」

ケタケタと笑う相方に、俺は頭を抱えた。


ダメだ。

こいつ、後先考えてなさ過ぎ。


あのな、普通の反応だから、それ。少々過激かも知んないけど。


「いやー、あれは男の子の反応だったね。あと数人いるんだけどさ、なかなか姿現してくんなくてカマかけたら見事に釣り上げちゃったw」


はぁぁぁぁぁぁ。

盛大なため息をつき、俺は大げさにかぶりを振った。


おまえなぁ、ちっとは場所と時をわきまえろよ。仮にも有名人なんだから。


「大丈夫だよ。変装してるし。彼女のいる店はそーゆー系の人が行かないような店だから。」


無自覚すぎる。

頭痛しかしてこない。


とにかく、その彼女にきちんとお詫びをしなきゃな。

名前、なんていうの?その子の。



「千津ちゃん。平岡千津ひらおか ちづちゃん。」
















俺、霧島刃きりしま じんは、高校の同級生の小林賢治こばやし けんじと、学生時代にお笑いコンビを組んだ。


小林は所謂優男風イケメンと言う奴で、でも中身はお祭り好きな頭の回転も速いやつだったから男女問わず人気者だった。


そんな小林を、いいなぁ、リア充は。

と、冷めた目でガリ勉を装い遠巻きに見てた俺。


普通なら接点のなさそうな俺達が何故コンビを組む事になったのかと言うと、文化祭の出し物でクラスの出し物が体育館の舞台を使わねばならないという制約があり、そこでお祭り男の小林が「じゃあ、俺が脚本書くからみんなで寸劇的なやつ、やろーぜ!!」なんて言い出した。

人前に出るのが苦手な俺は大道具にでも立候補するかと思っていたら突然小林から「ってなわけで、俺が脚本書くから配役も俺の独断で決めるよ!!今から黒板に名前と役名書くから、書かれた奴は前に出てきてくれー」と、スラスラとクラスメイトの名前を書き出し、なぜか俺の名前も書かれてしまった。


「は!?なんで俺!?しかも、漫才師って・・・」

「霧島は俺とコンビ組んでる漫才師役!!だいじょーぶ、俺も監督兼役者として出てサポートするから!!」


お祭り男の小林の熱意とやる気にほだされ、あれよあれよと言う間に俺は小林の相方役としてデビューする事となった。


お笑いなんて俺の柄じゃない、降りさせてくれと何度懇願しても小林は首を縦に振らなかった。


「霧島。俺はお前がやる相方役とじゃなきゃダメなんだ。他の誰でもない、お前の力が必要なんだよ。」


お前の力が必要なんだよ。

その甘い戯言に付き合って、ここまできちまった。


もう、親よりも、妻よりも子達よりも長い時間を共にした相手。


俺は元々異性愛をことさら重要視しない性質たちだったらしく、気がつけば小林のいない自分は成立しないことを自覚していた。


小林は相方であり、親友であり、俺にとっては、愛する人になっていた。


無論、あいつにそんな気持ちを見せた事はない。

だからこそお互いいい時期になったら結婚して子供もそれぞれの伴侶との間に設けた。


でも、それと小林を求める魂の叫びは、別物なんだ。


それはお互いに不可侵の領域だと思っていた。

思っていた、はずだった。



あの子が小林の前に現れるまでは。








俺はずっと、独りだった。


家族も気の置けない友人も妻も子供もいるが、ただただ満たされない「乾きと飢え」がつねにべったりとはりついていた。


それはひとえに俺の性質、いや性格には「人格」の多さによるものだった。




















物心ついたころには、俺はただひたすらに静かに黙々と絵を描く子供だった。

だがそうかと思えば、お祭りやイベントごとには熱狂し和の中心にいつのまにかいる。


けんじくん、こないだのおまつりのときすごかったねー、なんて言われて、俺は疑問符しか浮かばなかったが、答えを自分の中で見出すと「あ、う、うん。」なんてどもりながらもなんとかはにかんで答えるのがやっとだった。


ひょっとして俺には俺の知らない俺がいるんじゃないか。

そんな疑問がずっと頭の隅にあったまま大きくなった。


親や兄弟はまーあんたは相変わらずお祭り男だねぇ、それ以外は静かなもんなのにと笑ってるだけで特段疑いもしていないようだった。


ちなみに弟が一人いるが、弟にはそんな二面性は全くない。

ごくごく普通の野球少年だった。


親も両親共に温厚で、祖父母も穏やかで言い争いなどしたことのないような落ち着いた人達だった。


では、俺のこの情熱はどこから来た物なのか?

長年疑問に思いながらも、明確な答えには出会えずにただただ日々は過ぎていった。

















転機が訪れたのは、中学のときだ。
















文化祭の出し物で、クラス全員で劇をやることになった。


題材はロミオとジュリエット。

いわずもがな、シェイクスピア原作の悲恋の話だ。


それを日本ver.に書き直した、オリジナルのロミジュリをしようだなんて話になってしまった。

おいおい、誰がそんなクソめんどくさい脚本書くんだよ・・・と思っていたら、演劇部の幽霊部員である俺になぜかお鉢が回ってきた。


は!?なんで俺!?

別に国語の成績いいわけじゃねーのに。


とにもかくにも、俺はまんまとクラスメイト達に日本ver.ロミジュリを書かされる事となり、それはもう死に物狂いで寝る間も惜しんで脚本を書き上げた。


その時気付いたのだ。

俺は、脚本を書くときの記憶が全くない。

だが、字は俺の字体のようなそうでないような、よくわからないけど俺じゃないとは言いきれないような感じで書いてある。

だが、記憶だけは不思議な事にそれを書いた時はまるっと抜け落ちてる。

しかしその脚本は見事に登場人物の揺れ動く心情を書き現しており、苦心の末書き上げた「江戸時代版ロミジュリ」の上演は大成功をおさめ俺は名脚本家の称号を手にしたのだった。



それ以降は幽霊演劇部員から熱意のある本部員へと見事に復活を遂げ、来る日も来る日も脚本を書き続けた。






そして高校時代、またしても文化祭で脚本を書く機会に恵まれ、その舞台にクラスメイトだった霧島を巻き込んだ。

あいつは一目見たときから、あ、俺の同類だ、と思った。

誰の同類か、とは言わない。


俺の中の誰かの同類だ。










その舞台は見事に最優秀賞を獲り、ますます俺は自信をつけたのだった。











このセンスは、誰のものなのか、疑いもせずに俺の味方をしてくれるものとして。












だが、人生そうは問屋がおろさないってもんだ。











なぁ。

ん?

おまえさ、時々おかしいときなくね?










まっすぐに見つめてくる坊主の眼鏡骸骨男、霧島の目は高校生活3年間すら見逃してはくれなかった。










観念して俺は事の次第を洗いざらい喋った。

何故だか霧島は俺の事を(俺自身の事を)裏切りはしないと思っていて、また誰彼とやかく吹聴するような奴でもないと言うことが判っていたからだ。


すべての話を聞き終えた後、霧島は、そうかぁ、ようやく腑に落ちたわと長い嘆息を漏らした。


「なんかさぁ、時々お前が俺の事見てくる目とか雰囲気とか違ってる時あってさ、アレなんか賢治機嫌わりーのかなー位に思ってたんだけど。いやそれにしちゃ人変わりすぎだろ?って感じだったし、俺が話してる内容とかもなんか初めて聞いたそれみたいなリアクションする時よくあってあれは素でやってるよなと思って色々調べたんだ。」


そう言って、霧島はドサドサと大量の本を俺の目の前に落としていった。


トランス状態、躁鬱、ADHD、解離性健忘、解離性同一性障害・・・あれよあれよと積み上げられていくメンタルヘルスに関する本。


解離性同一性障害。

その一文に、目が留まった。
















そうだ。


おまえは、多重人格者なんだよ。




















頭の片隅に、低くどす黒い塊のような闇がたしかに笑ったのを、霧島の後ろに見た気がした。



賢さん&刃さん目線。


まだまだ続きます。

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