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6.彼とあたしの秘密の共有

人は秘密や思い出を共有したがるものなのか。



いつだって、守ってきた。


彼女が生まれたその日から。


僕の大事なお姫様。


ねえ、どうして泣いてるの?


どうすれば君を笑顔に出来る?


僕が守るよ。


すべての痛みと苦しみから、君を。


君だけを。
















僕はクリフ。

クリストファー・ロメオ・グランドライン四世。


大層な名前だが、僕は母が愛のない政略結婚で生まれた跡継ぎとして、何不自由なく育てられた。


母は僕を生んだ後、産後の肥立ちが悪く僕はすぐ乳母に育てられ母とは殆ど面識がなかった。


だが廊下に飾られた家族画から、僕は母親に瓜二つなのだということは知っていた。










そのまま母の容態は安定せず、良くなったり悪くなったりを繰り返していてはいたが、

貴族の一族の長として多忙を極める父と病弱な母とは関わりがないまま僕は乳母や家庭教師たちに見守られ、健やかな少年時代を送った。
















そんな折。


なぜか多忙なはずの父が帰宅し、母の眠る部屋へとすごい物音をたてて駆け込んだ事があった。



「エリーゼ!!貴様、一体何を考えているのだ!!

 あんな野蛮な民の男と密会なぞ、この家によくものうのうと居座れたものよ!!」




野蛮な民。


僕らの言うそれは、夜の民と呼ばれる者達のことだった。


僕達の国は昼の民、夜の民という2つの種族に分かれていて、昼の民は金髪碧眼で長身痩躯、丸い外耳を持ち主に朝日が昇ってから日が沈むまでが活動時間で夜になると自然と眠りについてしまう性質を持った種族。

対して夜の民は、銀髪銀眼で尖った外耳を持ち、日が沈んでから朝日が昇るまでが活動時間で昼は眠る種族だった。

この2つの種族は主に住む場所も活動時間も寿命でさえも異なるため、通常は触れ合う機会もなくお互いの事は文献や画家達が描いた画でしか知らない存在であった。















それが、母エリーゼはなんと突然変異の遺伝子を持つ夜の民の種族と密会し、さらに子まで成してしまったという・・・我が一族と母の生家は衝撃を受けた。

















もし、この事が王にばれてしまっては領地の没収、一族離散の危機を迎えてしまう事になる。

それだけは避けなければならない。


父は一族の長として、母を許すわけにはいかなかったのだ。














母は住み慣れた家と国を追われ、生家に戻る事も叶わずひっそりとその姿を消した。















母よ。

なぜあなたは、私と父より野蛮なる民の男の手を取ってしまわれたのだ?
















母よ。


母よ。

















ママ!!

















どうして、ママ!!














ガバッ!!





















「す、すみません!!あ。あたし寝てました?」














なんだろう。

さっきまで、よくできた童話のお話みたいなのを読んでたような、違うような懐かしい夢を見てた気がする。







くすくすとこらえきれないように黒縁眼鏡おじさまは口元を左手で隠しながら、


「いや、大丈夫だよ。

ほんの4,5分だけだから。」


おなかいっぱいだと眠くなっちゃうよね?


あああ。

小林さん、その優しいまなざし向けるの反則です。


しかしあたし。

普通あんなすごい高級ディナーに誘われて(しかもおごり)、来れなかったお友達用にとお土産用のプリンまで持たせてもらった上に小林さんの車で家まで送ってもらっておいて、その道中で涎垂らして寝るかフツー!?


女子力低すぎるだろ。

ありえん。

仮にもこんなダンディなお方の前で恥さらしな・・・





うんうんうなってる内にもうすぐ着くよと声を掛けられ、あ、すみません!と慌てて荷物を確認しようと小林さんの方を向いた瞬間、急に引き寄せられたかと思うとあのバリトンボイスが耳元で静かに奏でられた。



次は、表に出ておいでね。

クリフ君。

















え?

それ、どうして小林さんが。

















確認する間もなく、車は目的地に到着し、まだ明かりが灯る我が家から見慣れた2つの影がこちらに向かって駆け寄ってくるのが見えた。














「ほら。お友達待たせちゃ悪いよ。

名残惜しいけど、また、ね。」















あたしは小林さんにお礼を言って外に出ると、「千津!!」と、切羽詰ったように駆け寄ってくるみーちゃんとそーちゃんに抱きしめられた。











「ぐえっぷ!み、みーちゃん!!く、苦しいよ!!」

「だってあんたってば、すぐ帰るって言っておきながら30分経っても全然帰ってこないし、ケータイは出ないし、変な奴にでもさらわれたかと思って。。。ひえっ。。。ぐっ。。。」


泣いてる。

あの負けん気の強いみーちゃんが、泣いてる。



え?

でも、小林さんはほんの4、5分だって言ってたのに。



そーちゃんもホッとした顔で、心配させんな、バカ。と、いつもより数倍優しい顔で頭を少しだけこづいてきた。







「ごめん、ごめんね二人とも。

 あたし、送ってもらってる途中でつい居眠りしちゃったみたいで・・・」


「普段からハードワークすぎるからよ!もう、千津のアホ!!」



みーちゃんはとにかく無事に帰ってきて良かった、と何度も抱きつきながら離れようとせずにいたが、そーちゃんはいつの間にか帰っていた小林さんの車が過ぎ去るのをじっと見つめていた。



「そーちゃん?どうかした?」



「いや、なんでも。それより千津、おまえ美味しそうな土産持たせてもらってるんだし、中で食おうや。俺小腹減ったわ。」




















ふうん。

彼女の騎士ナイトは、クリフ君っていうのか。











今回は面白い物が書けそうだ。


シュボッ。


ライターの炎がゆらめき、黒縁を照らして消える。


彼女の前では我慢していた煙草を一服、煙を燻らせて俺は長い息を吐き出した。













あれから数日が過ぎ、GWは何事もなく過ぎた。














妹の佐緒里はよほど楽しかったのか、姉にどれぐらい毎日おもろいことをして過ごしたのか帰ってきてから寝るまでずっと喋り倒していた。


うんうん、と寝床に入った佐緒里の話を聞きながら、頭の隅に引っかかるのはあの時の小林の言葉だった。





「次は、表に出ておいでね。

 クリフ君。」
















なぜ、小林の口からクリフ、という名前が出てきたのだろう。

あれは自分の夢の登場人物の名前だったのではないのか。


もしかして、あたし、寝言まで言っちゃってたわけ!?


あああああああ恥ずかしいことこの上ない。

もういっそ穴を地球の裏側まで掘って掘って地底の底で静かに冬眠したいくらいだ。






あー、休み明け、小林さんに会うのが気まずいなぁ。


誘いになんて乗らなきゃ良かった。


















すう、すう。


いつの間にかお喋りはやみ、静かな寝息だけが聞こえていた。











やっと寝たかぁ。

今日は結構時間かかったな~。



時計をみやるともう10時半を過ぎていた。

まずい。

早く米をセットして、洗濯物を干さねば課題をやる時間がなくなってしまう。




そうっと佐緒里の部屋から電気を消して抜け出すと、リビングでは既にタイマーがセットされた炊飯器と洗濯物を干したり乾いた洗濯物を畳む蒼士と美波の姿があった。



「わわわっ、二人とも!そこまでしなくていいよ!!後はあたしがやるから!!」

「何言ってんの。この連休中、お世話になったのは私達の方なんだからこれくらいさせてよ。」


「ごめんね。なんか気を使わせちゃって。。。」

「アホ。今更気ぃなんか使うか。これは礼儀や、礼儀。」


一宿一飯の恩義、ちゅーやろ。


ぷ。

まさか、そーちゃんの口からそんな言葉が出てこようとは。



「あはは、そーちゃんもあたしに遠慮すんなって言うけど、自分はするんじゃん!」

「なっ、俺だって一応そういう常識は持ち合わせとるわ!」




幼馴染達との楽しいプチお泊まり会もあとわずか。


明日からは日常が戻ってくる。


普段は静かなこのリビングで、三人やいやいとレンタルしてきたホラー映画やアクション映画を観たりゲームをしたりと時間を忘れるほど楽しい連休を過ごせたのは彼らのおかげだ。









ねえ。みーちゃん、そーちゃん。


「なに?」


あたし、二人の幼馴染で、よかった?


「今更。」


だよね。

あたしも、二人以外考えられないや。



「千津。

 ・・・また、やろうよ。

 次は夏休みに。

 まだまだ、高校生活始まったばっかなんだしさ。

 いっぱい思い出作ろう。

 私、この連休二人といてホント楽しかったよ。ありがとう。」


みーちゃん。

こちらこそ、ありがとう。


「千津。

 寂しくなったら、すぐ呼べよ。

 つか、来い。

 絶対。

 ・・・一人で、泣くなよ。頼むから。」


うん。

そうする。














あたしは、幸せ者だ。



黒縁さんはなにをたくらんでるのでしょうか。

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