表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/20

5.有無を言わせない外堀を埋める大人のテクニック

たぶん、どこかでわかってたんだ。


この人に深入りしちゃいけないって。


だけど、自然と目が追うの。


彼の指が、口元が、目が語るすべてを見逃すまいとあたしは全神経を張り巡らせている。

慌しく四月が過ぎ、黄金週間に入った。


さすがに日中にバイト先で妹を預かってもらうわけにもいかず、そーちゃんみーちゃん家族が毎年行くという避暑地へ一緒に連れて行ってもらう事になった。



ちなみに部活組のあたし達三人組は、あたしの家で過ごすことに。

部活後にバイトに入らねばならないあたしに代わり、みーちゃんが家事をしてくれることになった。



「みーちゃん、ごめんね。帰り遅くなるから先ごはん食べて寝てていいからね。」

「今更。帰りは蒼士に迎えに来させなよ、まぁいつもほっといても番犬のように待ってるだろうから心配ないと思うけど。なんかあったら連絡頂戴。」

「うん、じゃあ、行ってくるね!」





GW中はお客さんの入りも多いので、夕方までの部活じゃない日は昼間からラストまで入る事になっていた。


かきいれどきだー!!



晴天の空に向かって、気合のガッツポーズを繰り出す。






実のところ、アルバイトを始めた理由は他にもある。














離れたかったのだ。


幼馴染たちから。


彼らのいないところで、あたしだけを見てくれる環境に飛び込みたかった。












とは言っても、蒼士のおじいさんの行きつけの店だから、来るお客さんは大概あたし達の事知ってるんだけどね。



でも、中には小林さんのように、全く知らないお客さんもいる。


それが単純に嬉しかった。























カランコロン。


涼しげな鐘が客の入りを知らせてくる。


気がつけばもう、夜の帳が落ち始める時間だ。



「いらっしゃいませ」

「こんばんは。」


あれ?と、長身の黒縁眼鏡さんはあたしの顔を見て不思議そうにする。


普段なら金曜日は部活が遅くまで練習のため、この時間帯にはまだ店にいないのだ。


「GWなんで、学校休みなんです。」


なるほど、そっかぁ。

日付の感覚なくなってるから、一瞬夢でも見たかと思っちゃったよ。


あはは、白昼夢ですかね。


和やかな時間が流れるここでは、変に気負いせず接客できるようになってきた。


「うん。僕の希望が現実になって現れた白昼夢。」


希望?


君にいつも会いに来てるから。


うお。

どストレートに来たな。

これが大人のヨユーってやつですか。


「やだなぁ。もう、小林さん。」


お上手ですね、と話を切り上げ、別のテーブルの注文をとりにいく。


しばらくあたしの後姿を眺めた後、また小林さんはいつも通り何かを熱心に書き始めた。



ホッ。



あれが始まれば、安心だ。




彼は作業中には切り上げるまで決して声を掛けてこない。

おおよそ1~2時間。


それの切り上げる頃合を見計らい、マスターは小林さんへいつものエスプレッソを淹れ始める。











ううん、と伸びをして彼が作業を切り上げた時、「おつかれさまです」と、エスプレッソを差し出した。





「ありがとう」



すぅっと流れるような動作でカップを口元に引き寄せ、いつものように瞼を伏せてとても美味しそうに中の液体を運ぶと、さも今日は暑いね位の軽い挨拶をするように話しかけてきた。





「ねえ、今日この後空いてる?

 美味しいイタリアンの店見つけたんだ。

 一緒にどうかな?」



「ふぇ?あ、あたしとですか?」




「勿論。君と、がいいんだ。

 今日は妹さん、いないの?」




「あ、GW中は幼馴染の家族と旅行に・・・」


「そっか。なら、そこを気にする事もないよね?

 すぐ近くだから。帰りも送るよ。」


「そんな、申し訳ないです!」


「いいんだ。送らせてよ。

春先は変質者とかも出たりする事あるらしいしさ。」



でも、帰ったらきっとみーちゃんが美味しいごはんを作って待っていてくれてるはず。

蒼士ももうすぐ迎えに来る時間だし。


どうしたものか、と考えあぐねていたら、マスターはもう店じまいだしちょうどいい、方付けはいいから送ってもらいなよと言い出す始末。


えええ、とまだも返事に窮していると急にポケットに忍ばせた携帯がブルブルと震えて着信を知らせた。


なんだろう。

こんな時間に。


「出てもいいですか?」

「大丈夫だよ。」


見るとそこには、その幼馴染の名前が表示されていた。


「もしもし、みーちゃん?」

「あ、千津。ごめんね、まだバイト中?」

「ううん。今終わったとこ。どうかした?」

「あのさ、蒼士が今日これから部活仲間とこに寄って食べて帰って来る事になっちゃったらしくて、千津のお迎えに抜け出したいけど無理そうって泣きが入ったの。

どうしよう?私行こうか?」

「えええ!そんな、ダメだよこんな時間に一人で出歩いちゃ!」

「いいのいいの、どうせコンビニでも行こうかと思ってたし、ついでよついで。」

「なにいってんの、みーちゃんは綺麗で誰もが振り向くくらいなんだから一人で出歩いたりしたら格好の餌食になっちゃうってば!!あたしはなんとかして帰るから、家で大人しく待ってて!!じゃ!!」

「なっ、ちょっ。」


ツー、ツー。


しまった。

つい勢いに任せて言ってしまった。


つつー、と嫌な汗が背中を流れるのを感じながら、振り向くと黒縁眼鏡ダンディさんはにっこり笑って満足そうにたずねてきた。


「じゃ、決まりだよね?」











ああ、神様。


蛇ににらまれた兎とはこのような状況をさすのでしょうか。


それとも、飛んで火に入る夏の虫でしょうか。


どちらにせよ、20も上の大人の男性を上手くかわすコツなんてもの、今からでもご教授いただけないものでしょうか。。。。



あたしは観念して、控え室へと着替えに向かって行くのであった。

動き出す二人。


大人の男っていいですよねぇ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ