2.あたしとあいつとあの子の共通項
人前で泣いたのはいつのことだったか。
もう、思い出せもしないくらい遠い過去の話だ。
「でさ、俺、君と仲のいい彼女の事が一目見たときから――――」
はいはい。
でもさ。
いい加減、この状況、そろそろ人前でも泣いてもいいですか?
神様。
平岡千津、15の春。
これで失恋100連敗中記録更新でございます。
中肉中・・・いや、小背か。
大好きな本屋さんでいつも中段以上の棚には手が届かず、たまたま代わりに本を取ってくれた本屋のお兄さんに100回目の恋をした私。
用もなく本屋をうろうろしたりして、お兄さんに会えやしないかなぁとわくわくして通いつめた日々。
念願の志望校に合格して、その報告に来た私に下されたのは甘酸っぱい片思いの不合格通知だったわけだ。
特筆するほどの特徴のない顔。
友達からは男女問わず「こけしみたい」と言われる事多し。
モデル体型でもなく足は短くて大根だしバスケしてるから女の子だけど足のサイズは24.5。辛うじてLサイズが入るか入らないか位。だけど上半身は肩幅もちっちゃくてSサイズの服着ても心もとない胸元で全然ごつくないからすごくアンバランスな体型。
「あれっ、千津~。今帰り?」
キタコレ。本人登場。
今、玉砕した相手の男が途端に慌てだしたのが目線上げなくても手に取るようにわかる。
マズイ。
非常に、気まずい。
「み、美波さん!お、僕、君の事が前から――――」
「・・・あんた、私の千津に何したの?」
「え」
「千津、困ってるじゃない。何あんたみたいなでくの坊が私の大事な千津を困らせてくれちゃってんのよ」
「で、でくの坊ってそんn」
「目障りよ、消えて。今すぐ。光の速さで。さもないと私がぶっ飛ばすわよ。それ以上の速さで。さっきまで道場だったから、まだ身体あったまってるし。」
サッと構えをとり、彼女が好戦的な視線を向けた途端、本屋の彼は「し、失礼しました~~~~!!」と、逃げ出してしまった。
ああ、私の100回目の片思いも、儚く散った。。。
物騒な発言はともかくとして、対して私の幼馴染、坂上美波ことみーちゃんは実は空手の府大会優勝者。
インターハイにもでていて、同学年では敵なし。
光速蹴りの空手小町なんて愛称がつくほどで、その実力と相反した美貌と細身ながら鍛え抜かれた長身と腰まで伸ばした淡い栗色の髪は光に透けると金にも見え、色素の薄い空色の瞳は彼女のおじいさまの出身国である紳士の国の血を彷彿とさせる。
そんな(黙っていれば)美少女を男共が放っておく訳がない。
が、残念ながらこの美しい幼馴染は、極端に人の好みが変わっており、どこからどう見ても彼女に釣り合わない私のような人間が一番だと言い張る。
「千津は私の神様だから」
と言うが、神様になれるほど、すごいことを彼女にした覚えはまったくないのだが。
しかし神様。
どうしてあたしを美波ちゃんの幼馴染にしたんですか?
おかげ様で、どういうわけか周囲の男共は皆彼女を好きになってしまいます。
「はぁ・・・今すぐ生まれ変われるなら壮絶の美女になりたい・・・」
「なにそれ?絶世じゃなくて?(笑)そんなんにならなくても千津はかわいいじゃない、誰よりも。」
「そんな風に言ってくれるのはみーちゃんだけなんだってば~」
さっきの人だって、と言いかけた途端、バシン!!と、背中に衝撃と痛みが走った。
誰だ!
こんなこと無言でいきなり仕掛けてくるのは、あいつしかいない!
「そ~う~ちゃ~ん~!!」
「よ。なんだ、小さすぎて見えんかったわ。」
桂木 蒼士。
もう一人の、幼馴染。
昔からみーちゃんと三人、親同士が仲良くて家も近所だからってよく遊んでた。
切れ長の一重にいつも一文字に結んだ薄い唇、がっしりした体型、プロを目指してサッカーに励む長身浅黒のいかにもスポーツマンです風イケメン(らしい。。。)
「お間抜けな顔をさらに間抜けにして背中丸めて歩いてるから、まっすぐに治してやろうと思ってな。シャキッと歩けよ、中身は違うんだったら余計に。」
「なんでよ!!あんたに言われなくったってねぇ、あたしが間抜けな顔してるってことぐらいわかってるわ!実際、間抜けな出来事に直面したとこだし!!」
「ああ、あの行きつけの本屋の兄ちゃんに片思い100連敗シュートでも決められたからか?」
「・・・・・・・・」
「あ、悪い。図星だったか。」
「蒼士、いくらなんでもその酷い推理はないでしょ、あんなでくの坊になんて私のかわいい千津が惚れるわけなんてないじゃない。」
「みーちゃん。。。」
「え、なに?まさか本当にそうだったの!」
「もういいよ。。。。今さっきしっかりふられたとこだから。。。」
このモテモテイケメン&美少女たちにはわからないのだ。
あたしのような普通すぎるくらい平々凡々に生まれた者の悲哀なんて。
昔からずっとそうだった。
そーちゃんはあたし達の前では結構喋るけど、人見知りで他の人の前では目を伏せて返事くらいしかしないもんだから、「クールでかっこいい」なんて女子にもてはやされ、「スポーツ万能で頼りになる奴」と男子からは一目置かれる存在。
みーちゃんはその類まれなる美貌と竹を割ったかのような性格はさながら「女子の憧れ」であり、男子達からは「高嶺の花」と言われていた。
そんな二人に挟まれて、特に頭がいいわけでもなく(よくてクラスでせいぜい3、4番手)、中学から続けてるバスケも上背も特筆すべきテクニックもないので地区大会ベスト16どまりがやっと。
高校ももちろんバスケは続けるつもりだけど、実は進学先の高校はどちらかというと進学校の部類なので今からついていけるのかどうか不安だ。
そんな中二人はほっといても勉強ができる方らしく、テスト勉強なんてしなくてもいつも学年トップクラスだし高校も三人一緒のところにと二人から熱烈な指導を受けてようやく合格したあたしとは元々頭の出来が違うのだろう。
ああ、お父さん、お母さん。
私もどれかひとつくらい、二人の隣に並んでも誇れるような長所が欲しかったです。
桜吹雪の堤防を並んで歩くあたしたち。
このときはまだ、あたし達をばらばらに引き裂く事件が起ころうとは夢にも思っていなかった。