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19.学園祭の観劇の仕方について物申す

こんなことなら、無理にでも引き止めるんだった。


そんな後悔をしてももう遅すぎると理解わかっていても。


ロミオ、ロミオ、ああロミオ。

あなたはどうしてロミオなの。



綺麗に巻かれた金髪が地毛だと、一見誰も思わないだろう。

美しい少女はその長い睫毛を伏せて、想い人の名を切なく呼ぶ。


お嬢様。



黒髪のおかっぱ頭の、メイド姿の少女に今度はスポットライトが当てられる。



1つだけ、あなた様方の恋を成就させる方法がございます。この薬を飲むのです。


差し出したのは液体入りの小瓶。

仮死してしまう薬を飲み、死んだふりをして葬式にロミオが来たら逃げ出すのだと諭す彼女。


へー、なかなかやるじゃん。

高校生のお芝居、なんて思ってたけど、俺らも似たような感じだったな。あの時は。

脚本もおそらく手直しがされているのだろう、自分の知っている原作よりもストーリーが簡略化されているがそれでいてわかりやすく観劇初心者でも充分楽しめる展開になっている。


主役を務める美少女も、噂に違わぬ美人だ。

おー、あっちがよく喫茶店にあの子を迎えに来てるやつか。

今日はキメてきてんじゃん。やっぱ男前は絵になるなー。

俺の隣にいて腕組んでじっと舞台を見据えてる奴みたいに。



ってか。気になる点がひとつ。


ぶるん。

皆の視線が豊満な胸をさらに強調したメイド姿の彼女に集中している。


うおー。すげーな、あの胸。

Fカップくらいあるんじゃね?

高校生であの胸の大きさ、犯罪だろ!

喫茶店の制服も胸強調してるから結構盗み見してたけど…普通の男子高校生なら正面きって直視できねーわな。

しかも彼女、肉付きが良いのだ。

(抱き心地よさそー…)

ちらり、と隣を見やると、予想通り嫉妬の炎をメラメラと瞳に湛えた男の眉間にいつもの倍皺が深く刻まれていた。


「おい、賢治。眉間、皺寄ってるぞ。」

「ああ、ううん。悪ぃ。」


いや、俺じゃなく、周囲が引いてんぞ。。。


悪目立ちしないよう、体育館の隅の方に陣取った俺達は、皆舞台の方を見ているから気付かれていないが、賢治が纏う嫉妬のオーラがピリピリ放たれているのを何となく気配で察して通り過ぎる奴らが近寄らないように遠巻きに反対側へと流れていく。


おーい、賢治くんよ。。。

目立たないようにって言ってたの、忘れたのかな?



なんてダラダラと邪念だらけで観ている内に、ラストのロミオがジュリエットの死に絶望して自殺するシーンとなっていた。


おおジュリエット、あなたのいない世界など、なんの未練もありません。

あちらの世界で永遠に共に逝きましょう…


そして仮死状態から復活したジュリエットは死んだロミオを見つけ、全てを悟り自ら死を選ぶ。


その後暗転し、暗闇から一人が現れスポットライトが当たる。

メイドの彼女に。


輪廻転生。

それは、長い長い時を超え果たされる約束。

あのとき果たされなかった夢を、希望を。

二人再び出逢うその日には。

生まれ変わって、前世で果たされなかった恋の続きを。


そう彼女が告げ、指を指したその先に、高校生姿に着替えた幼馴染みくんと幼馴染みさんが立っていた。


おれ、きみとどこかで――

わたし、あなたとどこかで――


そこで幕が降りた。


きっとあの二人は、あそこからまた始まるんだろう、という希望を感じさせるラストになっていた。


なるほど。

高校生の脚本にしては、なかなかいい解釈に仕上がってる。

まぁ賢治が観たがってた理由もわからなくないって感じだな。


ん?


なりやまぬ拍手が続き、暫くして演者達がお辞儀をしに再び姿を現したが、隣を見ると先ほどまでいたはずの男がそこにはもういなかった。





















「千津っ!!」


カーテンコールが終わり、着替えもせず真っ先に飛び出した俺は舞台上で気を失って倒れた彼女がいるはずの保健室のドアを勢いよく開けた。


が、そこにあるベッドはもぬけの殻で、息を切らせて辺りを見渡したが彼女は何処にもいなかった。


「あら、桂木君?どうしたの、君も気分悪くなったの?」


開けっ放しのドアの外からした声の方を振り向くと、保健医の先生が驚いた顔で戻ってきたところだった。


「先生、ひら…安友はもう帰ったんですか?」


全速力で駆けつけたため、ぜーぜー言いながら問う俺に、少々面食らいながら彼女は頷いた。


保護者の方だって、ご親戚かしら?

車で来てるから連れて帰りますって、荷物も持って今し方お帰りになられたわよ。


「それ、眼鏡かけた長身の男ですか?」


ええ。。。って、桂木君!?どこ行くの!?


奴だ。間違いなく、あの男が千津を!!

動きにくい衣装を脱ぎ捨て、裏門へ駆け出した俺が見たのは、見覚えのある高級車が俺達の家とは反対方向に向かっていく姿だった。


「蒼士!!なにしてんの、千津は!?」

「いねぇ、奴に連れ去られた!!ちくしょう、あいつ、許さねぇー!!」


俺が思わず駐輪場へと向かおうとしたら、ねぇねぇ、ちょっと!と、呼び止める声と共にがしっ、と肩をつかまれた。


「ねぇ、君、千津ちゃんの幼馴染の蒼士くん、だよね?」

「だからなんだよ、オッサン!邪魔すんな!」

「邪魔なんかしてないよ、まぁまぁ落ち着いて。

 千津ちゃん、まだ目を覚まさないから賢治が連れて帰ったんだって。たぶん睡眠不足と痛み止めが効きすぎただけみたいだから、救急車呼ぶより車で送ってった方が早いと思ったみたいでさ。

ビックリしたよねー、賢治もホラ、思い立ったが吉日!みたいな奴だから、俺も置いてけぼりくらっちゃってさー。」


男が落ち着いて喋っているのを聞くうちに、冷静になってきた俺は改めて肩をつかんだままの男を見やった。


髑髏顔のぼさぼさもじゃもじゃ髪の中年の男。


「あんた、確か…あいつの」

「うん。相方の、霧島 刃 です。いつも小林が、ごめんね。」


屈託の無い困り顔でひたすら俺に頭を下げているその人は、知る人ぞ知る大人気コンビの片割れだった。


もうちょっとで裏に追いつきそうです。

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