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18.いわばこれじゃシーソーゲーム

たいせつなものをまもるって、どうすればいいんだろう。


どっちつかずなんて思ってなかったけど、優しさや気遣いが時として諸刃の刃になるって事、知らなかった。



本当は、ちょっと期待してたんだ。


もしかしたら、あたしのことを見てくれるんじゃないかって。


でも、そんなはずなかった。


当たり前だよね。


あたしがそうであるように、あいつの一番はずっとずっと変わらないんだから。






ふー、っと息をつき、リハーサルを終えたあたしは椅子に腰掛けた。


今日は前日のリハーサル。勿論、衣装を着て舞台上でやれる本番前の最後の日だ。


主役のあたしと蒼士は、お互い普段着ないようなドレスやタキシードに身を包んでスポットライトを浴びたせいか、はたまた緊張のせいか椅子に腰掛けて緊張が緩んだ途端どっと疲れを感じた。


「ようやく明日が本番だね。」

「ああ。」

「上手くやれそう?」

「なんとか。」


真剣なまなざしの蒼士は、いつにもまして格好良くて、やっぱりドキドキする。



「はいっ、じゃー、リハ終了!あとは明日に備えて、ガンバろー!!おつかれさまー!!」


監督の咲が元気よく号令をかけ、あとは各々片付けに動き出す。



「咲ー。衣装、どしたらいい?」

「あ、脱いだら衣装係に渡しといてー。桂木くんもおつかれ!

 二人ともさすが、息バッチリ合ってたね!台詞も完璧!

 言うことナッシングだよー。」

「あー、なんとか本番間に合いそうで良かったわ。。。つか、藤原元気だな、おまえが一番疲れるだろ?総監督。」

「え?いやー、いい演技を観るとやりがいがあっていいね!

 疲れもどっか吹っ飛んじゃうよ!!」


そんなやりとりをしていると、どこからか「咲ー、まだー?」という声が聞こえてきた。


「あ、陸くん」

「あー、ごめーん!もうちょっと待ってー、これ片したら帰るー」


咲とそっくりの男の子、陸くんは咲の双子の弟だ。

声と髪型以外は背格好までそっくりで、変装したら見分けがつかない気がする。


「よー、蒼士。かっけーじゃん、その衣装!」

「言うな…俺は大道具とかが良かった…球蹴れなくて死にそう…」


陸くんと蒼士は同じサッカー部同士。

陸くんはクラスの役が当たらなかったらしく、普通に部活動に参加しているらしい。試合が近いんだそうだ。

蒼士もGKというポジション的には練習しなくちゃいけないんだろうけど、ここのところ劇の練習でなかなか部活に顔を出せていないからウズウズしてるんだろうなー。と思う。


あたしも全然空手の練習いけてないからよくわかる。

要するに、二人とも根っからの運動バカなんだ。多分。

動けないと発狂しそう。


「お、みなっぺ、本当オヒメサマみたいだね!きれーじゃん!」

「蒼士の後に言われてもねー、おべっか丸出しじゃん!」


陸くんはわりと遠巻きにする男子と違い、咲と仲の良い私に遠慮なく話しかけてくれる数少ない異性の一人。

なぜか愛称で呼んでくるし(笑)

だからクラスは違うけどなんだかんだ喋る機会は多い。

こんなに気軽に喋れる同級生の異性は、蒼士以外では久しぶりかも。


「とりま、着替えてくっか。陸、おまえも片付け手伝えや。」

「えー、オレクラスの手伝いすらしてねーのに!ま、いっか。他ならぬ蒼士クンの頼みなら聞いちゃう聞いちゃう!」

「言ってろ、バーカ。」

「ごめんねー、桂木君。不出来な弟だけど役に立つならジャンジャンこき使ってやってー」

「ハァ!?咲、てめー覚えてろよ!しまってあったポテチの命はないモノと思え!!」


なんだかんだ言って蒼士とも仲が良い。

ワイワイ言いながらも裏表のない性格は、今ここにいない幼馴染のあの子を彷彿とさせる。



「そういえば、千津大丈夫かな?結構痛そうだったけど。。。」

「うん、さっきメールきてたけど、骨は折れてないって。

 ただ、利き手だから何かと不便だし、この後家に寄るつもり。」

「そっか、よろしく言っといてね。乳母役はそんなに動きは派手じゃないけど、無理しないように。」


千津は今朝方、顔を合わせた時から少し顔色が悪かったのだが、そんな中道路を飛び出してきた猫を車から庇って利き手を捻挫してしまったのだ。


で、朝から蒼士が連れ立って保健室寄ってからの登校だったもんで、お調子モノのわったんに略奪愛だー、とか騒がれたので〆ておいた。



略奪も何も。

最初っから、蒼士の一番は千津だけだ。

物心ついたときから、ずっとずっと。

蒼士の瞳には、千津しか映してないのだ。


私が蒼士を想っているように。



奪うとしたら、それは、私の方だ。


千津は気付いていないみたいだけど。


またあの子は、蒼士じゃない違う人を想ってる。



報われない恋。

そう、決して相容れられないロミオとジュリエットの家同士のようだ。




衣装を脱ぎながら、私は噛み締めそうになる唇を無理矢理開いて代わりに溜めていた心の闇を吐き出すように深く呼吸した。




















「なー、蒼士。」

「ん?」

「おまえさ、ちづっぺとみなっぺ、どっちが好きなん?」

「はっ!?」


着替えていた俺は思わず声が裏返ってしまった。


「それともうちのアホ姉?やめとけやめとけ、ありゃ天下稀に見る雑女だぞ、いやそもそも女じゃないな。悪い事は言わねーからそれだけはやめとけ。」

「いやそれはない、申し訳ないが。ってか、どれもねーよ!なんだよ急に!千津も美波もただの幼馴染だっつーの。。。」


そう、二人ともただの幼馴染。

何度、何十へん、いや何百ぺん繰り返してきたであろうか。このフレーズを。

そのたびに、俺はちくりと刺す胸の痛みを見て見ぬ振りをしているのだ。


ふーん、と納得してるのかそうでないのか、よくわからない態度の陸に、少々イラついて返す。


「そういうおまえはどうなんだよ、仲いいみたいじゃん。千津はともかくあの人見知りの美波があだ名呼び許してるのお前くらいだぞ。」

「え、マジ?いえーい、俺も幼馴染’sの仲間入り~!!」


くるくるくる~と手持ちのサッカーボールを指回ししながら、陸は嬉しそうにボールをつつく。


「いやさ、最初は咲の友達だっつーからどんな子かな~って思って。したら、二人ともめちゃくちゃイイ子じゃん!おまえみたいな無愛想にもったいねーくらい。」

「言っとけ。だがまぁ、前半のくだりに関しては肯定する。だけどな、別に俺のもんっつーわけじゃねーからな。」

「じゃ、どっちかに俺が告白しても、おまえ黙って見てられる?」


ピシッ。

空気が割れたような感覚に陥った。


黙って見ていられるか?


リフレインした一言が、やけに重くのしかかる。



「…当たり前だろ。俺には口出しする権利なんて、ねーし。」


辛うじて、捻り出した台詞に、激しい動悸が襲い掛かる。



「嘘だよ、嘘。おまえ、台詞と顔が合ってなさ過ぎ。

 そんなんじゃ、いつかバレちまうぞ。」


ハッと見上げた陸の顔は、いつものおチャラけ顔とは全く異なる真剣な表情だった。


「なんで隠してんのか知んねーけどよ。

 どっちつかずだと、どっちも離れて行くぞ。」


二兎を追うもの一兎も得ず、ってな。


そう呟いて、再び陸はニカッと口角を上げ、いつもの調子に戻ってさらに続けた。


「ま、オムツもとれてねー内からの付き合いって、踏み出し方わかんねーよな。だってよー、人生の殆ど一緒なんだろ?じゃあ家族みたいなもんじゃん。家族愛とどう違う?って聞かれたら、上手く答えらんねーよな。ハハッ、いーよなー、一目ぼれだとか応援に来てたあの子かわいいとか、見ず知らずの他人を好きだって言える奴。オレ、そんなん無理だわ。よくわかんねー奴好きになんてなれねーもん。」


陸の投げやりな、だけどどこか自分自身に言い聞かせるような口ぶりに、俺は彼の秘めた想いを垣間見た気がした。


「陸、おまえ、もしかして…」

「おっと、蒼士。言うなよ。口にしたらいけねーことって、世の中にはいっぱいあるだろ。」


知らなかった。

俺より辛い想いの秘め方をしてる奴が身近にいるなんて。

ましてや、同じ屋根の下でいて、どうやって隠し通せているのだろう。


「…悪い。そんな簡単に言っちゃいけないことだよな、確かに。」

「おうよ。ま、そんな気持ちに気付いちまったオレが一番悪いんだけどな。気持ち悪りぃと思った?」


俺はゆるく頭を振った。

そんなこと、思えるはずもない。


俺だって、同じ穴の狢だ。

ほとんど離れた事のない、家族のような存在にずっと想いを寄せてきた辛さがわからないほど、野暮ではない。



「おまえら三人見てるとさ、なんていうか、そのままでいて欲しいっつー気持ちと、いつかバラバラになっちまうのかな、って心配な気持ちとあるわけよ。余計なお世話だけどな。

しんどいよな。終わりが見えそうで見えない未来ってよ。

しかもそれが地獄か天国かわかんねーって。

真っ暗闇の中で踏み外したら落ちそうな釣り橋渡ってるような気がする時あるんだ。

今までこんなこと、言えなかったけどよ。おまえ、なんとなくわかってくれそうな気がしたからつい言っちまった。」

「…壊さないように、してる。少なくとも、俺の我侭で壊していいモノじゃないって事だけは確かだよ。」

「わかってるじゃん。」


杞憂だったな。悪い、忘れてくれ。


そう言ってくるりと背を向けると、静かに教室のドアを閉めて陸は出て行った。


一人教室に取り残された俺は、陸の言った事がずっと頭の中に響いたまま、のろのろと荷物をまとめるのだった。






















文化祭当日の朝。

千津を迎えに行くと、やっぱり冴えない顔つきの彼女がそこにいた。


「千津、本当に大丈夫?眠れなかったの?」

「ううん、痛み止めのせいか昨日は良く眠れたよ!ちょっと薬が切れると痛むけど…大丈夫!本番の前に飲めばちょうどいい具合に効くと思うし!」


この子は絶対どんなときでも自分の責任を投げ出したりしない。

それは昔からの付き合いだから良く知ってる。

だけど、今はなんていうか、何か考えたくない事を考えずに済むようにひたすらに頑張ってるような、どこか危うい印象を受けた。


「さっ、行こう!そーちゃんも待ってるし、早く行かなきゃ!!」


私達の出番、早目だしね、といつものニコニコ顔の彼女が、少し涼しさを感じられるようになった秋の始まりだと言うのに汗をかいていたことに、気付かなかった自分の鈍感さに後から後悔した。





















そして、幕は上がった。


まさか、千津の悩みの種である張本人が来るとは思ってなかったけど。それを気遣う余裕は残念ながらその時のあたしには、無かった。


一気にUP。

裏に追いつけるよう頑張ります。

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