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14.お父さん、バイバイ。

いつかは離れなきゃいけない存在。


それがちょっと早まっただけだよ。


そう。


たったそれだけ。



父がいなくなった。


と言うより、追い出した、が正しい。



20代の若い社長令嬢と再婚を目論んだけど、浮気性&二股&借金と数々の悪行を実の娘に暴露されてしまった父は、再婚(予定)相手のお父様に飼い殺されることとなったから。



そして借金は任意整理し、父の給料分は今までどおりの額を社長令嬢のお父様が全額あたしの口座に振り込んでくれることとなった。さらには社長令嬢の給料まで。こちらは慰謝料と言う名目らしい。本当は一括で用意するのは簡単だけど、それだと社長令嬢へのお仕置きにならないから、と彼女のお父様は言っていた。


たぶん、全ての事が片付いたら、父は身一つで追い出されるのだろう。

案外あの人と一緒になっちゃうのかな。それはお父様が許しそうにもないけど。

解放されたとてこちらには帰って来れはしないだろう。自分の事を裏切るなんて夢にも思っていなかった娘にあれだけの事をされたのだから。



あたしと妹はというと、結論から言うと父の戸籍から母の戸籍へと転籍した。

つまりは、親権が母へと渡ったのだ。

こういうことに強い弁護士さんを社長令嬢のお父さんがつけてくださったお陰で、異例のスピードで親権変更と転籍が認められ、あたし達は平岡から安友やすともへと苗字が変わる事となった。


苗字を変えたいと強く希望したのは、あたしだ。


<いいの、千津ちゃん?私は千津ちゃん達は平岡の姓のままでもいいと思ってるよ、使い慣れた苗字を変えるって大変なことだし・・・>


いいの、お母さん。

もう、平岡、って、堂々と名乗れないことしたから。あたし。


<でも、あれは・・・>


自分で決めたの。

これは自分への戒めなの。

お父さんを裏切った事への。


<千津ちゃん・・・>
















そうして、父の代わりに母が戻ってきた。


そーちゃんやみーちゃんのお父さんやお母さん達は、泣いて、おかえり、と私達母子を出迎えてくれた。


ただいま。

ごめんなさい、勝手な事をして。


「いいのよ。私達こそ、力になってあげられなくて、ごめんね。」


みーちゃんのお母さんは、ずっと泣きながらあたしを抱きしめてくれた。


「万里子さん、すまない。今更だが、あの時、どうしてもっと君の話をきちんと確かめなかったのかと・・・そうだったなら、こんな目には・・・」


「桂木さん、それは違います。私がもっと、桂木さん達を信頼して恥を忍んででもお話すべきだったんです。あの人の幼馴染のあなた方が、私を信用してくれるはずもないと壁を作っていたのは私です。いつだってあなた方は、私達のために心を砕いてくださっていたのに。・・・若いからしょうがない、とか、思われるのが怖くて。本当にすみませんでした。

それがあんな風に娘を追い詰めてしまい、私は母親失格です。

もう許してはもらえないと思いますが、これからは逃げないでここで踏ん張っていきます。

この娘達のためにも。」


お母さんはお父さんと離婚した後、実家に頭を下げて出戻り、あたしの出産で断念した学位を改めて大学へ入りなおして取得、大学院も出て修士を取った後さらに博士課程へと進み東京の博物館で学芸員として働いていたそうだ。

そしてあたしがお父さんの借金の事で相談したくて貯金を崩し一度こっそり上京した後は、親身になって借金の返済行脚にもつきあってくれ、先日の件でようやく目処がついたので、学芸員を辞めこちらへ越してくることとなったのだ。


「これから就職活動頑張らなくちゃ!」と、明るい表情で言った母に、あたしはどうしてもっと早く勇気を出して会いに行かなかったんだろうと後悔した。


















そんなこんなであっという間にもうすぐ夏休みが終わろうとしていた。







小林さんに会う事もないまま。













ブーッ、ブッー、ブッー!!


最近すっかり鳴る事がなかったiphoneがメールの着信を知らせてくる。


誰だ?


今日は宿泊先のホテルで公演後は缶詰すると言ってあるから、送ってくるとすれば相方ぐらいか。


と思って画面を見やると、そこには久しぶりに見る名前だった。



「小林さん。お元気ですか?

最近はご無沙汰してしまってすみません。

マスターからお仕事でしばらくこちらには来られないと聞いたので、

邪魔しないようにと思ってメールも控えていたのですが、

ちょっと聴いていただきたい事があったのでまたご都合のよい時にご連絡ください。

お待ちしています。


P.S 今日はみーちゃんと一緒にベア―ズの応援に来ました。

みーちゃんのハトコが逆転サヨナラHR打って、なんとホームランボールをGETしちゃいました!!

実は菊原選手はちっちゃな頃からの知り合いで、今日もチケットをくれたので応援に来たら勝ったので勝利の女神だと言ってくれました。

勝利の女神だなんて大げさだけど(笑)、

優勝がかかってるので今度も球場で応援したいと思います。


千津より」


へえ!ベアーズの菊原選手は彼女の幼馴染の親戚だったのか!

写真が添付されていたのでスクロールしてみると、そこには満面の笑みで3ショットで写っている彼女と菊原選手、そして幼馴染の女の子だった。


こうして見ると、本当に彼女はまだ高校生なんだなぁ、と思ってしまう。

しかもよくよく見ると、その3ショットの後ろに先月彼女を取り合いバトルした幼馴染君と、菊原選手と仲の良い牛丸選手や田代選手たちが変顔をして遠目に写りこんでいた。


ふふふ、なかなかこれはいい画だなぁ。


そうだ、またこの話を膨らまして脚本に書けないかな。

またそれは彼女に許可を得ないとな。


「千津さん。お久しぶりです。

気を使わせてしまって申し訳ない。

僕はどうも集中しすぎてこういう時筆不精になるたちで、それで君をがっかりさせちゃいけないかなとマスターに伝えていたんだけど、連絡をもらうのはとっても嬉しいよ。

だから遠慮せずに、これからも君の事をもっと教えてくれたらいいな。

ベアーズ、勝ったんだね。僕ももちろん生粋のベアーズファンです。

しかも菊原選手はお気に入りの選手の一人だから、とっても君がうらやましいよ。

またその話も今度聞かせてね。

今度の日曜日には一旦ここでの千秋楽を迎えるから、月曜日の晩に電話してもいいかな?


小林より」


ああ、メールだけでこんなに心安らげるのは、本当に俺は君でいっぱいになっているんだなぁと思うよ。



コンコン。


「どうぞ」


「よお。飲みモン買ってきた。飲む?」


「ありがとう。もらおうかな。」


丁度今休憩しようと思ってたんだ、と、iphoneを置いて霧島の投げてよこしたビールを受け取る。


「ようやく名古屋ももうそろそろ終わりだなぁ」


「そうだね。次の北海道はちょっと期間が開くし、そこからはそんなに長丁場にもならないから少し身体は楽になるんじゃないかな。さすがにアラフォーの身体に2ヶ月丸々ぶっ続け公演はきつ過ぎるからさ。」


「おめーな、この1ヶ月だけでも充分きついっての!限度を考えろよ限度を!

・・・まぁそれだけ、俺らの公演待ってくれてるお客さんが入るって事の裏返しだけどな。」


「そのとおり。

望まれてるうちは、こっちもくたばるわけにはいかないからね。

アラフォーおじさんの意地だよ。」


「・・・さては、彼女からなんか連絡あったな?

頬が緩んでるぞ、賢治。」


おおっといけない。

相方には嘘はつけそうにもない。


「ああ。これ。彼女、ベアーズの試合観に行ったんだって。

菊原選手と写ってる写メ」


「なんだこれ!すげーじゃねーか。知り合いだったのか?」


「ああ、しかも幼馴染のハトコらしいよ。

それ、遠目に写ってるの、彼女を好いてる幼馴染君。

なかなかイケメンだろ?彼。」


「あー、なんかいかにもスポーツマン!!って感じだな。

この中にいてても違和感ねーや。

つか、この変顔してるのって・・・」


「牛丸選手と田代選手だろ。あと、手とか足だけだけどたぶん他の選手も写ってるね。

サインもらいに行った時に撮ってもらったんじゃないのかな。」


「つーかよー、この美少女も千津ちゃんの幼馴染なわけ?

オイオイこれすげーな、この三人並んでて騒ぎにならないわけ?

そんじょそこらのモデルとかより綺麗じゃん。顔面偏差値高すぎだろ!」


「お前がそれを言うなって。元モデルの奥さんに失礼だろ」


霧島の奥さんは元モデルの旧姓吉田由実。

結婚と同時に芸能界を引退し、今は家庭に入り子育てに専念している。

彼女は妻とも仲が良く、息子達はうちの娘ともよく遊んでいるらしい。

そういう意味では娘達も幼馴染と言えなくはないな。


「・・・なんでそこで由実の話が出てくんだよ。

いーなー、お前はこーんな美少女達とキャッキャウフフ出来て。

俺なんて視界にすら入れてもらえなさそ。」


ため息をつく霧島に、俺ははぁ?と呆れ顔で返す。


「何言ってんの。霧島だって女性ファンいっぱいいるじゃん。

こないだだってなんかサイン頼まれてて鼻の下伸びてたくせに。」


「のーばーしーてーねー!!

つかおまえ、それ嫁や子供らに言うなよ!!またイジられるから!!

それネタに脅してくるから!!マジで!!」


あー、由実さんは結構嫉妬深い一面があるからなぁ・・・

霧島と付き合ってるときから、何度相談されたかわからない。

基本あいつはモテたいだけで実際踏み出すようなアホじゃないから大丈夫だと言って後は妻任せだったが。


「たいへんだなー、お前も。

わー、次に由実さんに会うときが楽しみだ。」


「てめー、この裏切り者!!」


こんな冗談言って飲んで笑ってられるのも、相方とだからか。

やっぱり、霧島とじゃなきゃ、ここまでやってこれなかっただろうな。


「霧島。ありがと。」


「ばっか、そこはこれからもよろしく、だろーが!」






名古屋の千秋楽を終えて、俺達は一旦地元に帰った。


のんびり、のんびり。


書いてて楽しいです、二人のやり取り。

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