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13.役得

楽しめない状況でも、楽しまなきゃ、ソンでしょ。


「ほっほーう、なるほど。

 つまりお前は、俺と約束していたにも関わらず、

 その後に別の奴と予定を組んじまうバカだったっつー事だな?」



あああ。

やはり怒っている。

盛大に怒っている。


そんなに普段怒らない人が怒ると滅茶苦茶怖いの典型だよぅ。



「まぁまぁ、桂木くん。

 そんなに彼女を責めちゃいけないよ。

 そりゃまあ、僕が同じ事されたらここでは言えない

 アレヤコレヤなお仕置きをするに決まってるけどね」


「はぇ!?

 あ、アレヤコレヤってなんですか!!」


「えええ、なんでそんなに慌てるの?

 そりゃピーっ(自主規制)な事して、ピーっ(自主規制)な・・・」


「おいオッサン。セクハラなら余所でやれや。

 んでもってさっさと帰れ!!」


「やだなぁ、そうカリカリして。

 カルシウム不足かい?

 小魚食べるといいらしいよ、

 ああそうそう、ここのレストラン街に美味しい

 お店があってね、ああでもキミみたいな貧乏学生君には

 ちょっと値段がなぁ~」


「ああ!?テメェ、喧嘩売ってんのか?

 よし、上等だ、てめーには1発ぶちかましてやりてぇと思ってたんだ、

 表へ出ろ!!」


「あああ、もうやめて~!!

 あたしが、あたしが悪かったの、ゆるしてぇぇえ!!」


一体なんのコントなんだか。

駐車場に停めた小林の愛車の車内では、犬も食わない

一人の女性(千津)を巡るバトルが繰り広げられていた。




















朝、目が覚めると日付は7月15日。


記憶が途切れたのは6月19日。


約1ヶ月のタイムラグが発生している。




落ち着け、落ち着け、あたし。


引き出しの鍵を探し、鍵を開けると日記帳がある。


この日記帳とスケジュール帳を見比べて、今までの記憶を補完してゆく。


日記帳のアイデアは自分が彼らに提案した。


そうすれば、言った事やった事見た事聞いた事の「なにそれ?」が

なくなるし、スケジュールも書いてさえもらえればあとは何とかなる。


今日はそーちゃんとお買い物か。


あれ?でも、小林さんとも会うって書いてる。


なんで??


もしかして、あの人達、ダブルブッキングしちゃったのー!?















あたしは絶望した。


まさか同日に二人の人と約束を重ねて入れてしまうなんて。


うーん、こうなったらそーちゃんにわけを話して午前中で切り上げてもらうしかない。


うん、そーちゃんならわかってくれるでしょ。


そうと決まれば、お弁当作りレッツゴー!!














・・・・・・ショッピングモールに行くのにお弁当持参って、

NGだったのかなぁ?













なんか二人してすっごい微妙な顔してお弁当食べてます。









「お、うまいねー、さすが毎日作ってるだけあるねぇ。

 このきんぴらと煮物もすごく美味しいよ。

 あ、桂木くんパセリは君にあげるよたんと食べるといい。」


「いやパセリてめーが食えないだけだろっ!?

 そっちのから揚げよこせ、千津のからあげは宇宙一うめーんだからな」


「へー、そーなんだー(パクッとな)

 あ、ホントだぁおいしー♪」


「!!て、てめぇ~最後の1個を~!!

 許さん、やっぱ表へ出ろぉ!!」


「も~!!だからなんでこーなっちゃうの~!!」







お弁当を食べるのも一苦労だ。


テラスコートは外だからまぁまぁ他人と距離あるからいいものの、

やはり大声を出すと注目されてしまうわけで。。。



「もうっ、そーちゃん、また今度作ってあげるから!!」


「。。。ホントだな?」


「ホントホント。

 なんなら明日の部活はお弁当あたしが作ってあげる。」


そう聞くなり、ふふんと蒼士は幼馴染としての特権を

小林にあてつけた。


「まぁ、俺はいつでも千津の手料理を食えるしな。

 風呂も洗濯も一緒だしな。」


「!?!?」


「ちょっと!!そんな言い方したら語弊があるでしょ!!

 部活の物洗うのとか汚れた後のお風呂とかそーちゃんの

 お家と使い分けてるだけじゃない。

 みーちゃんだって一緒だし。」


両者一歩も譲らず。

この戦いに決着は着くのか!?











結局、本屋さんに行くと言ったら、活字嫌いのそーちゃんには辛かったらしく

先に帰ってトレーニングするわと言ってお弁当の空箱を持って帰ってしまった。



「ふふん。粘り勝ちってとこかな♪」


「?」


「いやいやこっちの話。

 さて、千津さんはどのコーナーに行くの?」


「あ、今度漢検を受けようと思って。。。」


「へえ、ちなみに何級を受けるの?」


「あ、準1を。2級は中学在学中に取ったので。」


「すごいじゃないか。2級はたしか高校卒業レベルじゃなかった?」


「はい。でも、昔から好きだったので。受験にも役立ちました。」


「英検とかは持ってるの?」


「はい、それも2級まではもう取りました。

 TOEICとTOELFは挑戦はしてみたんですけどなかなかスコア

 伸びなくって。

 今年はちょっとお休みして、エレクトーンのグレード検定

 の方を進めてみようかと思ってます。

 2級に前回落ちちゃったので。」


「そうなんだ。

 すごいな、多才じゃないか。」


「いえ、全然・・・

 私ぐらいのレベルの人はゴロゴロいます。

 むしろ、一つの目標が見定まらないからあれこれいろんなものに

 手を出してしまうのかもしれません。

 何か一つを極めて、その道のプロになれる人を尊敬します。」


「そんな事はないよ。

 自分の可能性は自分で勝手に狭めちゃいけないよ。

 何が自分の一番になるかなんて、そんなの僕位の年齢になっても

 わからないでいる人が大半だよ。

 わからないながらももがいて苦しんで努力する君の方がよっぽど大人だよ。」

 


大人。


そう、私ははやく大人になりたくて、生き急いでるのかもしれない。



小林さんと話してるうち、自分の気持ちがふっと軽くなっていくのを感じた。






本屋ではたくさんの参考書があり、とても選び甲斐があった。


小林さんは演劇や演出の本を選ばれたらしく、私の分の参考書代も一緒に出してくださった。





「これは大人として努力する若者へ応援してますという気持ちだから、受け取って。」


と。



ショッピングモールを出る頃には、すっかり夕焼け空になっていた。



帰り道、またしても送ってもらい、家まで着いたときあたしは深々と頭を下げた。



「小林さん、今日は本当に失礼な事をして申し訳ございませんでした。」


「いいよ、今日のところは許してあげる。」


「ホントですか!!

 ありがとうござ・・・」


ぐいっ。


「!!!!」


ちゅっ。



右頬にリップ音と同時に柔らかい何かが触れた。




「~~~~~!!!!!」


「はい、ごちそーさま。じゃ、またね♪」










あなどれない。

やっぱりこの人、油断ならないわ。


あーあ、黒縁眼鏡おじさん大暴走ですね。

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