11.ダブルブッキング
ひとつ、できないやくそくは、しない。
ひとつ、だれかとやくそくしたあとは、ほかのだれかとやくそくしない。
うちの生徒が援助交際してるらしい。
高級車に乗り込んでいく姿を見た。
背格好は平岡に似てた。
まさか?あの品行方正な平岡やろ?
いやいや、ああいう純情ぶってるいい子ちゃん風の子の方がって言うやん!
ガンッ!!!!!!
おもむろに蹴り上げた空き缶が、ベコッ!!と凹んで回転しながらゴミ箱にシュートイン。
さすがはサッカー部の正GK・・・
周囲はシン、と静まり返り、その様子にチッ、と舌打ちしながらきびすを返す蒼士の姿があった。
違う!
千津はそんな奴じゃねえ!!
そう、全校生徒に向かって叫びだしたい気持ちでいっぱいだった。
己の好きな相手がいわれのないことで陥れられようとしているのに、自分には何もできないのか。
うらめしそうに見上げた先は、先ほど千津が呼び出された生徒指導室だった。
「・・・そう、全く謂れのない噂と言うことで間違いないのね?」
「はい。
もし心当たりがあるとするなら、先週体調不良から明けて登校した初日に
下校時やはり気分が悪くなりまして、父に迎えに来てもらった事があるんです。
父は車のディーラーでして、たまたまその時商談用の車に乗ってきていて
それがもしかしたら高級な外車だったかもしれません。
ちょっと父に確認を取らないと確かな事はわかりませんが・・・」
「ああ、あの日ね。
そうね、私も授業であなたを見かけたけどあまり表情がさえなかったものね。
その後すぐ病院には行ったの?」
「はい、でも点滴を打っていただいたらかなり良くなりました。
どうもご心配・お騒がせしてすみませんでした。
以後このような事がないよう気をつけます。」
「いいのよ、むしろ途中で倒れたりしなくて本当に良かったわ。
やましい事がないなら今までどおり堂々としていなさい、
もし困った事があれば遠慮なく言って頂戴ね。」
「はい、ありがとうございます。
では、失礼いたします。」
ガラガラガラ、ガラン。
ふう。
言い訳をさも正論のごとく言うのもなかなか疲れるものだ。
しかし、やはり学校の近くで待ち合わせるのは危険すぎるな。
これからは一定以上距離を取った場所での待ち合わせに変えないと。
あと、着替えだな。
困った・・・あまり私服の持ち合わせがないからバリュエーションの幅がない。
今度美波にでも買い物に付き合ってもらうとするか。
そうこう考えながら生徒指導室を後にすると、ちょうど自分を呼びとめる声がした。
「千津!」
「ああ、蒼・・・そーちゃん。
なに?どうしたの?」
「おまえ、大丈夫だったのか?」
「なにが?
あの変な噂の事なら、事実無根ですって言ったら信じてもらえたよ。
もう、背格好が似てるとかすごい強引だよねぇ、
あたし部活とバイトと家と図書館ぐらいしか行くとこなんてそうそうないのに。」
ケラケラと明るく笑いながら言ってはいるが、普段から品行方正で通っている千津が
援助交際疑惑などという不名誉な疑いで呼び出されたのはショックだろう。
俺がこいつを守ってやらねば。
ぐっと握りこぶしに力を込め、切り出した。
「なあ、今度の休み、新しくオープンしたショッピングセンターに行かないか?
おまえの好きそうな大型の本屋も入るらしいぞ。」
「え?そうなの、知らなかった!
今度の土曜日なら部活もバイトも休みだし、いいよ。
じゃあ、みーちゃんにはあたしから言っとくね、何時待ち合わせにする?」
「いや、美波とはまた別の日に。
・・・おまえと二人で行きたいんだ。
ダメか?」
ぐ、そうきたか。
ただの幼馴染と思って油断していた。
コイツ、チヅに気があるのか。
長年一緒の相手にとはなかなか勇気があるな。
考えあぐねた末、ここで拒否すると変に疑われるのも面倒なので、OKすることにした。
うし、じゃあ、土曜日10時な。
寝坊すんなよ?
そういい残し、心なしか上機嫌で戻っていく蒼士の後姿に、少々の憐憫の気持ちと詫びの気持ちを持って見送った。
すまん、蒼士よ。
相手が僕で。
ブッー、ブッー。
お風呂上がり、机の上に置いておいたケータイの着信を見て、パアッと明るい気持ちになった。
「ああっ、賢さんだぁ~www」
急いで電話をとる。
「もしも~し、賢さん?
あたし、はじめましてぇ、カエデっていいます!
カエちゃんって呼んでね!!」
電話口の向こうはちょっとビックリしたみたいで、
ああ、よろしくねってダンディなお声で返してくれました。
にゃぱっ☆
「あれ?でも、賢さんこんな時間にかけてくるなんてめっずらしいね!
どっかしたの?」
<うん。もしかしたら君に会えるかも、と思い立ってコールしてみた。
見事的中だったね。>
「にゃはー!うっれしー、あたしのことそんなに想ってくれてたにゃんて!!
いやーん、お風呂上りのスッピンさんじゃなかったら会いに行ったのにー」
<いやいや、君いっつも化粧してないでしょ。
・・・それとも、キミはする派なの??>
おやおや、賢さんたらっカエちゃんのことチョー気にしてるジャン!
「えっへへー、もししてる方がいいっていうならするおー、
あとはPPT!にあわせて!かにゃ☆」
<・・・うん、それを言うならTPO、かな。>
おっつ、おバカ発言でいきなりトーンダウン!?
もしや、賢さんおバカ女子はおキライなのっ!!
「やだ、あたしってば、お恥ずかしい。
もっとおベンキョしなくちゃ」
<まあ、それはそうと、今度はいつ会えそう?
土曜日とか、どうかな??>
「えー、土曜日?
うん、ちょっと待ってくださいー、
カレンダー見たらバイトも部活もおやすみなので、
okですよっ☆」
<そっか、じゃあ、今度オープンしたショッピングモールなんてどうかな?
そこの本屋さん覗いてみたいんだ。
14時に迎えに行くよ。>
ん?
あれ、なんか忘れてるよーな気がする。。。
<もしもし?カエデさん?>
「あっ、はい!14時ですね!!
あ、でも、その時間だったらあたし、先に見て回りたいものあるんで
現地しゅーごーでもいいですかぁ?」
<ああ、うん、ごめんね。
午前中稽古でさ。
もちろん。そういうことなら、悪いけど先に行って待っててくれないかな。>
「はいっ、全然だいじょーぶですっ!
それじゃ、またっ!!どよーびに!!」
<ふふふ、うん、声聴けてよかったよ。おやすみ。>
プッ。
ツー、ツー。
はあああああ、キンチョーしたあ!!
携帯の着信画面、賢さんで埋まってるなぁ。
幼馴染’Sとは学校でも家でも会うからわざわざ携帯を使って連絡をとることないし、
なんかシンセンッ☆
アタシ、断然賢さんがタイプだなーっ☆
悲しいかな。
クリフがした約束はあくまで共有できていないので、
結果的にダブルブッキングになってしまった土曜日のデート。
無事に二つともこなせるのだろうか!?
いやー、こんなんされたら男性側は涙目ですよねぇ。