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10.金の卵

ぞくぞくする。


これから起こる不可思議だけど現実の現象。

梅雨が明け、期末テストも終わると、球技大会と水泳大会と言う2大イベントがある。


期末テストは前回より順位をやや落としはしたものの、規定の評価でおさまりなんとか1学期は平穏無事に追える事が出来そうだ。


球技大会は男女別にサッカー・バスケ・ドッヂボールの種目に分かれ、クラス別トーナメント方式で行う。優勝と準優勝クラスには食堂の食券セットまたはアイスクリーム引換券がもらえる。


水泳大会はこれまた男女クラス別にクロール・平泳ぎ・背泳ぎ・バタフライ・メドレーリレー・宝探しの各競技で争い、賞品は文化祭の場所取りまたはプログラム優先権利がもらえるというもの。


この学校、授業進行保つためにイベントごと分散せずに一気にやっちゃう方針だからなぁ・・・なかなか実行委員や生徒会泣かせではある。


無難に、やるか。
















あれからきっかり1週間で体調を取り戻した千津は、なんだか様子がおかしかった。


なにが変、と言われると、何、という訳ではないのだけど。


普段全然気にしない携帯の着信をやたらと気にしたり、普段ならなんでもない道でしょっちゅう躓いて転けてるドジっ子がなりを潜める。


偶然かも知れない。

いつものように他人に優しいし、こちらに向けてくる笑顔も特別変わった様子はない。


だけど。

何故か胸がざわざわするのだ。


まるで小学生のあの時のように。




「ねえ、千津?」


なに、みーちゃん。


意を決して誘ってみる。


「今日はバイト?」


うん、ごめんね。


「そっか・・・ま、まだテスト終わったばっかだしね!

 夏は長いし!また誘うわ!」


ありがと。

また借りてた漫画、返しに寄るね。


「うん。

 待ってる。」


じゃあ。





遠ざかっていくおかっぱの後姿が、なぜか一瞬だけ黒髪のツンツンヘアーの男性に見えて思わず目をこすって二度見した。


けれど、見間違いだったようで、いつの間にか千津の姿はそこになかった。
















ドサリ。

今日は辞書の持ち帰り日だったので、鞄の重量はいつもの2倍はあるだろう。


普段は使わない裏道を通り、指定された場所で待つ。


ブロロロッロロロロッロ・・・・


特徴のある排気音。


ヤツの車だ。


バタン。


無言で乗り込む。


「ドーモ。ヤイバさん。」

「ウルセー、早く出せ。

 見つかると色々タリーんだよ。」

「はいはい、今日はどちらまで?」

「知るかよ。

 オメーがいっつも勝手に行きてーとこに行くんじゃねーのか。」

「OK。じゃ、任せといて。」


車の中でのBGMはヤツが好きな懐メロじゃなく、何故か流行のj-popだった。


「めずらしーな。

 オマエ、こんなん聴くのか。」

「あれ、千津さんはこういうの聴かないの?」

「アホか。アイツは時代に取り残された化石のような感性の持ち主だぞ、聴くのはもっぱら好きなヤツらの決まった曲しか聴かねーよ。」


そう言い、鞄の中からゴソゴソと取り出したのはMDウォークマン。


ブッ!!

この、ご時勢に、MDウォークマン!?


「んだよ。

 しょーがねーだろ、レトロ好きなんだから。

 これだって高校の入学祝で親から手に入れるまで外出先の音楽プレーヤーは

 カセットプレーヤーだったんだからな。ラジオ付の。」


ブフォフォッツ!!

こらえきれず、噴出す。


いやいや、この子どんだけ面白いんだ!?

あれだけ日中バイトしまくってたらバイト代だって貯まってるだろうに・・・


「貯金だ。

 貯金。

 もしくは妹や幼馴染’Sになんか買ってやるか。

 本も基本図書館だし、服には興味ねーし、そんな時くらいしかこいつ金使わねーよ。」


「へえー。なんか目的でもあるのかな?

 ヤイバさん知ってる?」


「さあな。基本俺らは他人の考えには興味ねーし。

 全部が全部わかるわけじゃねえ。

 身体は一つかもしんねーけど、だからっつって心もひとつなわけじゃねーから

 脳の負荷はどっかでかかってくる。

 それがこないだの寝込みだ。」


なるほど。知恵熱みたいなものか。

彼らの見解はとても参考になる。


「で、千津さんはいつ戻ってくるの?」


「あのな、それがわかりゃオレだってこんなヤローの車の助手席に

 大人しく座ってドライブなんてしてねーわ。」


「そっか。

 交代制なの?」


「まあ。

 各人格のヤル気によるけどな。

 オレは腹が満たされるまで、が目安だが。」


つまるところ、だいたいは3交代制といったところか。

まだ会った事がない人格に会って話がしてみたいものだが、彼の話によると

やはりそれぞれの得意不得意な時間帯やタイミングというのがあるらしく、

まだ俺が会った事がない人格は主に夜以降深夜帯から早朝にかけてがメインらしいので、

なかなか会うのは難しそうだ。


「さてと。

 まずはお昼でも食べて、そっからかなぁ。」


「いいな。

 旨い飯頼むわ。」


ニヤッと笑うその表情。

いいなぁ。

絶対、千津さんじゃできない表情だよ。


俺の金の卵。

まだだめだ。

じっくり、じっくりあたためるんだ。



はいー。

ヤイバさんと賢さんラブラブっすね(え


まだまだ続くよ。

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