7 能力確認と進化
名前を頂いた。
これは嬉しい。素直に嬉しい。何度か心の中で噛み締めてみる。ルティア、ルティア。幸運を意味する言葉らしいけれど、俺自身の幸運値はそうでもない。それを知っていたとしても、俺は嬉しく思う。何故なら俺は、この世界において名無しなのだから。
名前のない俺は、これでようやく、世界に対してはっきりと俺自身であるといえるのだ。
かつての名前はすでに思い出せないけれど、それで構わない。
今の俺には名前があるのだから。
種族:大きな丸い石
名前:ルティア
年齢:0
性別:
称号:【異世界の住人……もの?】【百獣の王】【殺人者】
Lv:20 進化可能
HP:65/65
MP:40/40
体力:25
攻撃:16
防御:30
魔力:17
速度:10
幸運:2
スキル:【堅牢 5】【異世界語 1】【念力 4】【流星 1】
あ、MP回復してる。
ステータス画面も更新されて、俺の名前がちゃんとある。
これから俺はそう名乗ろう。名乗る場面があるのか知らないけれど。
次に俺の能力だが、まあステータス値はなんとなく理解できる。けれどこの称号とはスキルはまだわからない。ゲームなんかだと、今までの実績から習得できるものだし、たぶんきっと似たようなものだろう。
【異世界の住人……もの?】は、まあ、俺自身がいた世界のことだろう。人じゃなくてもの扱いなのがちょっと悲しいけど。
【百獣の王】は、ストームライガーの王を殺したことによって手に入れたのだろう。残酷なことをしてしまったようだ。
【殺人者】は、もうあれだよね、これ。目の前で死んでるこいつだよね。あーもう、なんか、今まで全部気絶してたり見えなかったりしてたから全然実感わかない。けど……俺が殺したんだよな……。
はぁ、感傷に浸っててもしょうがないや。次、次。
スキルについても初期に比べて増えているし、使ってみた実感で見ていく。
【堅牢】は、これは文字通りの固くなるスキルだな。某有名モンスターゲーム的にいえば「かたくなる」だろうか。おそらくスキルLvによって強度が変わるのだろう。
【異世界語】は、俺がこの世界の言葉を理解できていることから翻訳スキルみたいなものだろうか。
【念力】は、一番使っている気がするけど、俺の念じたものを動かすことのできるスキルだろうか。まだ俺自身しか動かしたことはないけれど、いずれはものを浮遊させて撃ち出すなんてことができるようになるんじゃないかと思いたい。かっこいいし。
【流星】って、これはふざけているのかわからないけど、落下攻撃なのだろう。俺、それでしか相手を倒したことないし。しかも全部偶然だし。使うと威力が上がるんだろうか? 一応覚えておこう。
うーん。こう見ると、俺って自分でいっさい攻撃できないのな。
いいけどさ、見ることしかできないし。
……ん、あ、進化可能ってあるじゃん! 進化できるんじゃん俺!
(進化……うーん。でも進化っていってもあれだろ? どうせ大したことないんだろ?)
いや、でもうん。確認しよう。確認だけでも。
(進化先を確認したい)
【現在、「大きな丸い石」に対応している進化先は以下の通りです。
1 巨大な丸い石
2 ミニゴーレム
3 パペット】
(おっとー!? ここにきて石から解放されるのか!?)
巨大な丸い石って……また石かよ。それにしてもミニゴーレムやパペットは、石シリーズじゃなくてちゃんと名前がついてる。ってことは、ある程度魔物として認識されている存在ってことだ。
(い、一応、進化先がどんなんか教えてくれ)
【巨大な丸い石は、およそ10メルに及ぶ巨大な丸い石です。山道を歩いていると突然転がってくることがありますが、だいたい落ちて割れるので自然現象と思われています。
ミニゴーレムは、掌サイズのゴーレムです。小さく可愛らしいことから愛玩用としても人気があります。また耐久力に優れています。
パペットは、小さな人型の人形になります。泥をこねて作ったような形からあまり、強度はありません。しかし機動性に優れています】
(び、微妙……)
どれを選んでも全然強くなれる気がしない。
しいていうならミニゴーレムだけど。これもなんか愛玩用とかついてるし……あ、でもお嬢様とか呼ばれてたし、女の子についていくにはいいんじゃないのか、これ?
可愛いっぽいし。
なんか男としてどうかと思うけど、今の俺は性別ないし。
うん。
(ミニゴーレムに進化しよう)
どうせ先のことなんかわからない。それならせめて傍に置いてもらえる形態になろう。
【かしこまりました。それでは「ミニゴーレム」への進化を開始します】
「な、なに? ルティアどうしたの?」
名前をつけたと思ったら、いきなり身体が輝きだした。私の手の中で、眩しい光を放っている。まるでこの周辺だけが昼になったみたいに光ってる。
「ね、ねえ、エミリア! 光ってる! めちゃくちゃ光ってるわ!」
「これは――! 魔物の進化! 初めて見ました!」
「そ、そうなの!? これ進化してるの!? なんで? なんで急に?」
「さぁ……? お嬢様が名前を付けたせいではないでしょうか?」
「わ、私のせい!? 私のせいなのね!?」
「いえ、わかりませんけど……」
そういってエミリアはきれいな顔を、こてんと傾げてしまう。
ああもう! 私よりも年上な癖してそんな可愛らしい動作をするんだから! ってどうでもいいわ! 今はこの子の状態が心配よ!
なんか、ストームライガーなんてすごく期待するようにこっちを見上げてるし!
「ど、どうしよ……? これですっごく気持ち悪いのとか出てきたら……私、この子を愛してあげる自信がないわ……」
「今、心配することですかそれ!?」
「そうよ! だっていきなりスライムみたいなのが溢れてきたら、私きっと泣いちゃうわよ!?」
「泣いちゃうんですか!?」
「キモくて」
「キモくて!?」
そうこう話していると光が最大限に強くなって、目も開けてられなくなる。
段々と光が弱くなるのを瞼越しに感じると共に、手の中の感覚が大きくなるのがわかった。よかった。どうやら固形物みたいだ。
そっと目を開ける。強い光の感覚がまだ残っているのか、何度か目を瞬かせる。するとようやく目が慣れてきたのか、月明かりの優しい光で夜を見通せる。
自分の掌。
そこでなにかが動いているのがわかった。
「あ、かわいい」
思わず声が出た。
そこにいたのは、掌大の大きさの丸い石に小さな豆粒のような目が二つ。私とおそろいの真っ赤な目。そして身体? の横から小さな腕のようなものが生えていた。腕といっても、人族のように細かな動作を行うような腕ではなく、ちょっと出っ張りが出ているような感じだ。それが嬉しさを表すように、ぴこぴこと動いている。
なんだか小動物みたい。
「ほほぅ……いや、魔物を使役する術があるのは知っていましたが、このように小さな魔物もいるのですね。なんというか、庇護欲を掻き立てられるといいますか」
「あ、エミリアもわかる? なんかほっとけないわよね?」
「ええ……あの、お嬢様。私にもちょっと手に……」
「え、いや」
「そんな!」
エミリアが絶叫する。
うん、どうやらリラックスできたみたいだ。こんな状況だもの。少しくらい気を抜かないと死んじゃう。
「ね、それはいいとして、エミリア。そろそろ移動しましょう?」
「それはいいとしてっ!? あ、まあ、いいんですけど……移動するのは、あまり得策ではありませんね。今は深夜ですし、下手したら魔物に襲われて死にかねません。その、ルティアが、ストームライガーを味方だといったって、確実にそうであるという
保証はありませんし……」
「でも……」
私は周囲に転がる死体に目を向ける。騎士の死体と、馬車の御者台で手綱を握ったままの御者の死体。
二人の死体と共に一夜を過ごすのはちょっと。
「幸いにも寝床はあります。馬もいませんし……食料には不安が残りますけど、まだ生きられます」
馬……食べるつもりだったんだろうか。
よかったね。どこかで達者に暮らしてくれよ。あ、でももう、食われてるかも。うわあ。
「なによりも生きなければいけません。お嬢様の願いを果たすためには。その為に、今日はしっかり睡眠をとり、明日から行動を開始すべきです。このストームライガーは、守ってくれるのでしょう?」
「そうなのかな?」
私は掌のルティアに話しかける。
『タブン』
「たぶん!?」
不安を煽る言葉で返された。
ルティアがその目をストームライガーに向けると、小さく頷いたように見えた。
『ダイジョウブ』
「だって!」
「……信用しすぎるのもよくないかと……ああいえ。もうこのストームライガーに頼るしかないのですね。生きる為には。博打になりますけど、勝負をかけましょうか」
いって、エミリアは馬車を指さした。
「さ、夜明けまで時間もないですし、睡眠をとりましょう。よく寝て、明日から頑張らないといけませんよ」
「うん……」
馬車の近くまでいくと、ストームライガーはその前に丸くなって、寝転んだ。まるで護衛でもしてくれるかのように。
「ありがとう」
私がそう語り掛けると、ストームライガーはその顔を背けて、小さく鼻を鳴らした。
馬車の中は、私が目覚めた時のままだ。狭い床に二人並んで座り込んで、小さな毛布が置いてあるから、それを羽織るようにして肩からかける。ルティアを胸元に抱き寄せて。目を瞑る。
「ね、エミリア、私、生きられるのかな」
「さぁ、わかりません。ですが、ずっと一緒にいますから」
「そっか、それなら安心かな……ねぇ、エミリア。寒いよ」
「なら、もっと近くに」
「うん……眠るまで……」
暖かな掌が、私の髪を撫でる。頭を撫でられながら寝るなんて、いつ以来だろうか。でも、こんな状況でも、安心した。
安心できるから。
ゆっくりと、暖かな中へ意識が落ちていく。