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6 ルティア

 へこんだ。

 結構へこんだ。

 いや、なんだろう、ガチの罵倒って結構心にクるよね。


『ワレラガオウヨ ムカエニキタ』


 その時、頭の中にはっきりと音声が聞こえた。確かに、言葉の羅列のように聞こえた。


(え、なに幻聴!? 俺の精神そこまでやられたの!?)


『オウヨ トリミダスナ』


 伏せていた頭を上げ、ストームライガーがこちらに顔を向ける。その頭についた一本の傷は、確かに俺がよく見た一頭のものと同じだった。確かこいつは、見張りをしていたやつだったはずだ。


 待て【念話】のスキルとか声が聞こえてたぞ。

 ということは、話せるのか?

 声を、届けるように指向してみる。


 念力の練習してる時に、ある程度魔力の操作はできるようになったから、その応用だ。MPを消費して、魔力で道を作って声を届けるのだ。

 意味はわかるけど理屈はわからない。でもできるんだからいいじゃないか。


(あー、えっと、お前はいったいなんの用だ?)


『サキホド コタエタ ムカエニキタ』


 どういうことなんだって……待てよ、俺のステータスを確認してみよう。


 

 種族:大きな丸い石

 名前:

 年齢:0

 性別:

 称号:【異世界の住人……もの?】【百獣の王】【殺人者】

 Lv:20 進化可能

 

 HP:65/65

 MP:39/40

 

 体力:25

 攻撃:16

 防御:30

 魔力:17

 速度:10

 幸運:2

 

 スキル:【堅牢 5】【異世界語 1】【念力 4】【流星 1】



 なるほど、レベルも大きく上がっているし、能力値もあがってる。

 そしてこれか! 称号【百獣の王】! これのせいか、こいつの言葉は!


(あー、待てって! 俺はそんな器なんかじゃないってのに!)


 そもそも、この称号を手に入れた時だって、偶然なのだ。たまたま転がっていった先にストームライガーの王がいて、たまたま倒してしまっただけなのだ。つまり偶然王になってしまった奴がおれなのだ。そんなの詐欺みたいなものじゃないか。


なによりこんなんが王でいいのかよお前らは!


『ソンナコトハナイ ウツワデナイモノ ショウゴウ ヤドラナイ オレ ウツワデナカッタ』


(え、それこそおかしいだろうがよ!? こんな石ころのどこにそんなもんがあるってんだよ!?)


『オウノタマシイ ツヨイ オレノアニ キットコウカイシナイ』


 しかも兄なのかよ! 最悪だろう俺は! 

 兄弟をそんな偶然で殺して……意思疎通できる相手なのにだぞ。それをそんな偶然なんて……。


『ダイジョウブ オレタチ オウ キタエル オウ ツヨクナル』


(いいのかよ……でもなあ)


 俺は未だに不安そうにしている少女を見上げる。まだ幼さの残る容姿をしていることから鑑みるに、まだ十代なのだろう。そんな子がこんな場所にたった二人だ。傍に死体も転がっていることから、なにか厄介なことが起こっているのは事実。これを知らなかったのなら、こいつらと共にいるのも悪くはなかったのかもしれない。


 けれど知ってしまったからには、放っておけない。

 それが人間であった俺の、最後の意地だ。


(俺はこの人たちについていきたい。なにもできないかもしれないけど、なにかできるようになりたい)


 そうだ、俺はここにきて、まだほとんどたっていないのに、こんなにもスキルを覚えているじゃないか。それなら、いつか力にだってなれるかもしれない。


 いうなればこれは、転機なのだ。

 この世界で、変わっていくための転機なのだ。

 逃してしまったら、次はいつになるのかわからない。このまま置物みたいになって過ごすよりも、絶対そっちの方がいいと思う。


 どれだけ生きられるのかもわからない身だからこそ、精一杯頑張りたいのだ。


『コロス?』


 グルゥ、と首を傾げながら、牙を剥き出すストームライガー。俺を握る力が強くなり、ぎゅっと胸元に引き寄せられた。おうう、柔らかな感触が、全身に。


 それでも、なお。

 俺は少女を見上げる。この状況でも、まだ諦めていない。目は前を向いている。なにかあるはずだと考えている目をしている。意思を感じる瞳。強い、瞳だ。

 怖くて震えて、それでもまだ、少女は立っているから。


(よせってば! あーもう! 俺はこの人たちについていくよ! それは今決めた! まだなにも話してないし通じるかもわからない。でもそう決めた。断られるかもしれないけど、俺は見たいんだよ! この子の行く先を!)


 それは美少女だからかもしれない。

 綺麗な子のそばにいたいだけの下衆い理由なのかもしれない。

 だけどそう決めた。


『ナラ オレ ツイテク』


 そんな声が聞こえた。


『オウヨ オレガ オウヲミマモロウ オウデナクナレバ オレハ オウヲ クダコウ』


 そして、獅子は崖の上に向かって吼えた。

 その咆哮は甲高く、まるでどこまでも響いているかのようで。

 崖の上から気配が消える。まるで安心したかのように、飛び去ってしまったように。


(は、はは、よろしく)


 俺は内心冷や汗を流していた。

 けれど、別の意味では心強い味方なのだ。


 獅子は静かに頭を垂れた。











 な、なんだったのかしら? 

 突然吼えたかと思うと、また頭を下げて……なんなんだろう、このストームライガー。


「なあ、エミリア。ストームライガーというのはこのように平伏す種族なのか?」

「いいえ、お嬢様。彼らは非常に誇り高く、群れの王にしか従わないといわれています」

「じゃ、じゃあ、なんで私たちなんかに……」

「いえ、お嬢様。そうではないのでしょう」


 エミリアが私の方を見ている。いや、正確には私の持っている石ころを見詰めていた。


「……なに? これがどうかしたの?」

「いえ、どうやらあのストームライガー。私たちではなくこの石を見ているような気がして……」


 確かに視線を辿るならばこの石に辿り着く。

 けれどどうだっていうのだろう。

 目がついているだけの、ただのでっかい石だ……意思があるのだろうか、これは?


「ねえ、エミリア。これって魔物なの?」

「……なんとも言い難いですね。このような魔物、見たことがありませんし……」


 ころんと、手の中でその石が動く。

 まるでこちらを見上げるようにして、目をぱちぱちとさせている。

 ……ちょっと可愛いかもしれない。キモような、可愛いような……


『オレ キミタチ ツイテキタイ』


 そう思っていたら、頭の中に声が響いた。片言のように聞こえるそれは、意思だけを伝えているのだとわかった。


「エミリア、聞こえた?」

「ええ、これは念話でしょうか? 以前、同じようなことをされて執事長に笑われた記憶があります。それと同じ感覚ですね、これは」

「この石から?」


 ついていきたいってことだろうか? 

 うーん、ちょっと不気味だけど、私たちの命の恩人っちゃ恩人なのよね……元々持って帰って幸運のお守りとして手元に置いておこうかと思ってたんだけど。

 でもなんかこうして話されると不気味というか……


「どうしようか?」


『イマナラ コイツモ ツイテクル』


 黒目の部分が動いて、首を垂れるストームライガーを見やる。

 ……確かに、ストームライガーはBランクの魔物。仲間になるのなら、相当の戦力だし。そもそも、エミリアと二人でこの森を抜けるってのも、ちょっと無茶かもしれない。

 それに、お父様に真意を聞くまでは死にたくない。

 死ぬ訳にはいかない。

 だったら、答えは決まってる。


「ねえ、あなた。一緒に来たいの?」


『ウン』


「その子は、あなたに従うの?」


『ウン』


「そっか。だったら、私たちを襲わせないこと。そして守ること。それが条件よ」

「お嬢様! いくらなんでも危険が過ぎます……ッ!」

「でもさ、結局私たちじゃこの森を抜けられない。きっとどこかで死んじゃうのがわかってる。なら、私は、少しでも生きる可能性がある方を選択したいの。私はね、お父様に聞きたい。どうして私を捨てたのかとか、知りたいこと、いっぱいあるの。それを知るまで、死ぬ気はないの」


 エミリアを見つめる。

 揺れる瞳は、けれど私のいうことをわかっているように感じる。 

 正体不明の石と魔物。不安なのはわかる。でも、私たちは弱いのだ。この場所で。こんな場所で、守るものもなくなってしまえば、残っているのは死だけ。それは当然なのだ。エミリアもきっと理解している。

 はぁ、とエミリアは小さく息を吐いた。

 私にもわかる。これはため息だ。


「……仕方ないですね。同行を許可しましょう」

「ありがとう、エミリア。生きて帰りましょう?」


 私は笑ってそういった。エミリアはぷいとそっぽを向いた。むう……素直じゃないんだから。


『イイノ?』


 不安げな、声なんだろうか。どうも平坦で感情の乗っていない声だからかわからないけど、そう思った。


「いいわ。あなた、名前は?」


『ナイ』


「そっか、うーん。せっかく話せるんだし、石じゃ味気ないわよね……幸運……ルティア……うん、ルティアってのはどうかしら? 旧い言葉で、幸運って意味なのよ」


『ルティア……ウレシイ』


 嬉しいんだろうか、この声は。

 よくわからないけれど、まるで噛み締めるように何度も名前を呟いているのを聞いていると、どこか自分のことのように、うれしく感じるのだった。

 さぁて、生きてやるわよ!


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