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3 百獣の王


【スキル 念力 1 を習得しました】


 謎の声が頭に響くがそんなことは今は重要じゃない。

 重要なのは目の前に大勢のストームライガーが跪いているってことだ。

 伏せをするように地面に頭を擦りつけてこちらを囲むように向けている。その数は十数体はいそうだ。


 不思議なことといえばもう一つ。

 先ほど進化したのはわかる。視界ができたからだ。けれどその視界がおかしいのだ。なんというか、全方位が見渡せる。人間の視界はありえない、三百六十度を一度に見渡せるのだ。これには違和感しか感じない。


 ……慣れるしかないのだろう。

 しかしこれで、俺には不意打ちをされようがないのだ。

 あ、待って、この視界酔う……。


 いや、まあいい。目の前の出来事に対処していかねばならない。


 跪いている獅子の群れ。


 そのただ中にいる俺こと大きな丸い石。


 倒れたストームライガー。そして俺の称号【百獣の王】から考えるに、結論は単純だ。


 つまり目の前に倒れている獅子、こいつが群れのリーダーだったのだ!

 なるほどそう考えれば納得がいく程度には強面な顔をしている。厳つい面は、俺が人間だったのなら失禁確実であろう。今は石だしそんなものないけど。カムバックマイサン。


(ええええええええええええええええええええええええええええええっ!? ありえんだろ俺!? なにしてくれてんのこの身体!? これアレだろ? 状況から察するにあれだろう? 俺の身体が勝手に転がってってこいつらのリーダーのドタマぶち抜いて殺したってことだろ!?)


 どんな奇跡的な確率だ。

 

「ガフゥ……」

 

 そうこう考えていると、一匹のストームライガーが近寄ってきた。


 そして、俺が視線を向けると、頭を下げた。


 ストームライガーというのは、虎と獅子をミックスさせたような見た目をしていた。ライガーという動物は、俺の元いた世界にもいた。けれど目の前にいるそれは、まるでホワイトタイガーのように白い毛をしていた。白と黒の毛並みが美しくも恐ろしさを醸し出している。さらにいえば、その身体を取り巻くようにスカーフのように発達した触手が、風に巻かれるように靡いている。

 端的にいえばかっこいいしきれいだった。

 

(くっそ俺もなるならそっちがよかったよ! なんだってこんな石ころなんだよ!?)

 

 前世のことなんて、もはやほとんど覚えちゃいないが、けれど自由に動けるのはそれだけで魅力的だった。


(当初の目的は自由になる身体かなー……って、こいつはいったいなにをしているんだろう?)


 そう思っていると、おもむろにストームライガーは俺を銜えた。

 ぱくりと口に銜えて、群れの元へ戻っていく。

 俺を銜えて戻ってきたストームライガーを見て、群れの全員が一斉に吠え猛る。

 まるで歓迎するかのような鳴き声。


(まさか俺を嚙み砕く気かっ!?)


 それが想像の域を出ないことを知っている。だが、俺は【百獣の王】の称号を持っているのだ。そうなったとしておかしくはない。


(これが新しい人生の終わりか……ははっ、もうちょっとまともに楽しみたかったぜ……)

 

 来世は自由に動ける身体が欲しいな……。





――数日後





 あれから数日。

 結論から言えば俺は死ななかった。

 それどころか、結構よくしてもらっている。

 というのも。


「ガフゥ」


 ひょこっと、この小さな洞窟の入り口から、ストームライガーが顔を覗かせた。


(あ、ども)


 ストームライガーが一頭、果物を銜えながら俺の傍へと寄ってきて、果物を置いて一礼して去っていく。


 俺の周囲には数々の光り物やら果物やらが所狭しと並べられている。しかもその中央には、まるで宝物を置くために存在しているような台座があり、そこにあるのが俺だ。

 つまり俺は宝物。

 

(って、んだよそりゃあ!?)


 なにかの冗談だと思う。

 そう思いたいと思う。

 けれど思ったところで変わらない。ここは無情なる世界なのだ。


(いやいや、確かに食われなくてよかったとか、死ななくてよかったとも思ったさ。けどこれじゃあどこにも行けないじゃねぇかよ)


 周囲には見張りだろうか? いつもストームライガーが数体いて侵入者を通したりしないようにしている。

 思ったよりも知能が高いことがわかった。けれどその程度。俺には目を瞬かせることしかできない。どうしたものか。


(こいつら、俺を宝物みたいに扱ってやがる……俺が百獣の王だからそれ相応の扱いをしているってことか……? それにしちゃ様子がおかしいっていうかなんというか)


 群れのボスに対する扱いって訳じゃないのは、ここ数日間でわかった。なんというか、彼らは、本当に俺を宝物として見ているのだ。

 ストームライガー自体動物のようなものだから表情なんかは読めないが、俺に対して尊敬や畏怖がある訳じゃないのはわかった。どちらかというと、感謝と敬いのように感じる。


 感じるなんて曖昧なものだが、少なくとも俺はそう思っている。

 つまり、こいつらは俺をボスとして扱ってはいないってことだ。

 伝わりにくいかもしれないが、アレだ。神社とか祠みたいな感じだな。


(……んあー、考えてても仕方ないや。アレ、練習しよ)


 ここ数日【念力】の練習ばかりして時間を潰している。

 俺自身を多少なりとも動かせたということは、こいつを習熟すれば自由自在に動けるようになるはずだ。そうなればこんな場所、さっさとおさらばして、俺は世界を見て回るんだ。


 そう思ってのことだがこれが案外難しいのだ。

 自分を動かすと、どうにもばれそうなので、周囲に散らばる小石を狙ってやってみている。

 最初の頃は全然動かないし本当に使えているのかこれ、状態だったが、MPは減っていたので使っていると思い込み頑張った。しばらくすると、ぴくりと動かせるようになった。それに準じてMPの消費は増えた。


 最初のぴくりが1だったのに対し、少しだけ転がすだけでも2になった。

 これは習熟しているのだろうか……?


(いや、きっとぴくりってなるのが1の限界ってことだろう。限界を超えろ、超えるのだ俺!!)


 そう思いながら【念力】を使用していると。


【スキル 【念力 1】が【念力 2】にレベルアップしました】


(きたー!)


 これによって少し動かすのに消費するMPは1になった。


 …………成長、しているよな、俺。

 なんだか不安になってきた。

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