31 港に着いたけど、あれこれって反対じゃね?
ここから第二部です。
考えながら書くって難しい。
『おお……これは』
「海……ですね?」
「海なの!?」
俺たちの前に広がるのは、海であった。
森を抜けた先は、小高い丘になっていて、そこから先の光景がよく見渡せる。森から一番近い道を辿った先にあったのは港街だった。遠くからでも、船が出入りしている様子が伺える。小さな港であるにしても、異世界に来て初めて人がいる街だ。
テンションが上がらない訳がない。
いやまあ、森の中にも村のようなものがあったけど、あれは言っちゃ悪いけど小規模過ぎてどうにも異世界って感じがしなかった。ある意味異世界らしいんだろうけど。
ここから見える景色の中でも、行き交う旅人のような人たちや、正体不明の生物に引かれた馬車のようなものとか、なんだかようやく自分が違う世界にいるんだなと実感できる。
「いやあ……そこまで驚いてもらえるなら、案内したかいがあったよ」
えへへ、とでも言いそうな感じで後頭部をかいているちっさいシルルちゃんが嬉しそうに言う。
ああ、俺はこれでいいさ。
だって異世界って思えるし、なによりもすっげぇって思う。
現実離れした光景にわくわくや胸の高鳴りを感じる。
いや、俺の胸ってどこのことなんだろうって思うけど。だって頭のすぐ下に三角錐の身体だぜ? 人間じゃないのは今さらにしても、内臓とかないんだろうな。そもそもどんな仕組みで動いているんだかわかんないし。
さておき。
約一名にとってはそうでもなかったようで。
「海……海!? え、海ですか!? 待って! 待ってください!」
「……エミリア? どうしたのよ」
長い紫色の髪を振り乱して叫び始めたエミリアさんを見て、アンナちゃんは不審げに首を傾げる。
「どうしたって! お嬢様、地理やりましたでしょう!?」
「地理……?」
「ああもう!? いいですか!? 私たちは国へ帰るのでしょう!? 海ってことは、反対側ですよこれ!?」
「え……ええ!?」
えーっと、つまり、この森林を挟んで反対側に目的地があって、ここはその反対側ってことか!?
「……とか言われても、私、こっち側しか来たことないし……」
そんなこと言われても、と人差し指をつんつんと突きながら小さくなっているシルルちゃんがそこにいた。
がふ、と小さく喉を鳴らしながら、ストームライガーがその肩を尻尾で叩いている。
「ふぅ……いえ、まあいいのです。帰るのが遅くなるのは、別にもういいです。でもですね。この周囲の地図を簡単に説明するのですね」
がりがりと、近くに落ちていた枝を持って、地面に線を引いていく。
大きな楕円を描き、その左側にさらに大きな円を描き、その中に小さな円を記す。
「だいたいこの位置が私たちの目的地です。そして」
その反対側に小さな円を描くと、そこに点を打った。
「で、ここが現在の私たちの位置です。そしてこの地形で厄介なことはですね……」
大きな楕円の上下に、さらに円を描いていく。
「こうして、森林を挟むようにして、山が存在しているんですよ。なので、帰る為にはこの山を越えなければならないのです」
「もう一回森を抜けたらどうなの?」
「ああ、それは無理ですはい」
「なんで?」
「おそらく迷います。私たちがシルルさん達の村に入れたのは、奇跡といってもいいでしょう。道案内のない状態であの森を走破するのはおそらく無理です。頼みの綱のシルルさんは、こちら側しか来たことがないと言っていましたし……」
「そうなんだよね」
復活したシルルちゃんが、話に加わる。
「こっち側じゃない方は、もっと危険な魔物とかいるし、ストームライガー……この子みたいなのじゃないけど、巣もたくさんある。だからこっち側で暮らしてたんだけど……」
どうしたものかと考え込み始めた女性陣を置いて、俺はストームライガーに話しかける。
『……難しい話だねぇ、ストームライガーよ』
【オウヨ ドウスルノダ?】
『さぁ? 俺としては、あの港に行ってみたいけど……』
【ニンゲンノ マチダ オウヨ シヌノカ?】
『死なんけどさ』
俺の傍でじっと考え込んでいたアンナちゃんが顔を上げる。
「……考えてても仕方ないわ」
「……ええ、まあ、そうですね、はい」
その言葉にやっぱりかと言わんばかりにエミリアさんが肩を落とした。
「ひとまず、街へ向かいましょう? それから、私たちは山を越えればいいのよ」
「……確かに、森の中を通れないとなれば、山を越えるしかないですが……ですが、お嬢様、山越えなどできますか?」
「う……あー、で、できるわよ!」
「本当に?」
「うぅ……か、考えてても仕方ないじゃない! とりあえず休みましょうよ! 私もうくたくたよ! 早く街で宿をとりましょう!!」
腕を振り上げ、ぶんぶん振りながら、アンナちゃんは先へ進みだす。
その背中に、エミリアさんはふ、とため息を漏らした。
「……まったく……考えなしなのかどうなのか……いえ、まあいいんですけど」
お待ち下さい! と、その背中を追った。
「……えー、とルティア? だっけ、どう思う?」
『行ってみたら? 俺はついてくだけだよ』
目的もなしに旅をしても詰まらないってね。今の目的は、彼女たちについていくこと。だからこそ、俺は、その為に強くなる。
とりあえずの目的はそれでいい。
それから、この世界を楽しめばいいさ。
『よっしゃ行くぞストームライガー』
「ガウ」
スライド移動するように、俺の身体は前に進みだす。
旅はまだ始まったばかり。
そして、やはり旅と言うものは理不尽上等なのである。
「きゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッ!!!!」
『悲鳴!?』
遠くから聞こえた悲鳴に、俺たちは顔を見合わせ、走り出す。
一難去ってまた一難、ってか……。
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