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30 森を抜け、君は世界に一歩踏み出した

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どうぞよろしくお願いします。

 ざわざわと鳴り響くのは、木々の葉が風でこすれる音。


「本当に、よかったの?」


 前を歩くアンナちゃんが、隣の小さな少女に対して話しかける。あの村にいた女の子だ。名前は確か――シルルちゃんって言ったっけ。


 馬のしっぽみたいに跳ねる栗色の髪の毛が、視界の中で揺れている。

 アンナちゃんとよく似たレンジャースタイルの衣服を身に纏い、またその様子もサマになっていて、成る程、確かに小さいながらも戦えると言った言葉の意味がわかる。

 その背中には彼女の体格に合ったショートボウが背負われている。

 何本かの矢を矢筒に背負い、一緒に揺らしている。


「いいのいいの!」


 本当に気にしていないのだろう。

 明るい口調でシルルちゃんは言った。


「う……ん、でも」


「いいのよ! 半分私が言わせたようなもんだったし! それに外ってのも、見てみたかったし」


「う、でも、ほら、ミィル君と別れちゃったんだし……」


「なっ、ばか! あいつがなんだってのよ!?」


「えー、でも仲良さそうだったし……」


 きゃいきゃいと騒ぎながら歩いている二人を見ると、どうにも疎外感を感じてしまう。

 

『はぁ……』


 思わず、ため息を吐いた。


「どうしたのですか?」


『いやね、エミリアさんや、こう女の子同士の話を聞いているのは、中々きついものが……』

 

 隣を歩いていたエミリアさんが、やけに嬉しそうに顔をほころばせながら話しかけてきた。

 またどうしたんだろう。

 しかし、こう、背が大きくなって見上げると、一段とよいものを持っているというのがよくわかる。


「そうなのですか。言葉から見るに、どうもあなたはオスのようなのですね」


 ふんふんと頷きながら、エミリアさんは俺の性別を言い当てる。それは合っているのだが、オスって……いやまあ人間でないからその通りなんだけど。


『その通りだけど……いや。ところでエミリアさんはどうしてそんな嬉しそうなの?』


「それはもちろん、お嬢様にご友人ができたと言う、この事実に感動してしまいまして……」


『へぇ、お嬢様ってくらいだから友達くらいいたんじゃないかって思ってたけど……』


「いえいえ、お嬢様はあまり外に出させてもらえませんでしたし」


 なるほどね。つまりアンナちゃんは箱入りってことだ。


「なので、こうして仲良くしてもらえる友人ができたと言うのが、私としましても感涙ものでございます」


『そうなのか』


「なのですよ」


 頷いた瞬間だ。


「止まってッ!」


 ザ、と音を立てて、シルルちゃんが脚を止める。そして、なにかに警戒するようにして、周囲に対し耳を凝らす。

 じっと、視線を巡らせて視界内を確認する。


「え、と、シルル?」


「静かにッ……なにかくるよ」


 しっ、と唇に人差し指を当て、アンナちゃんを庇うように背中に回す。俺たちもそっと、傍に移動する。

 そして、シルルちゃんの視線の先で、草むらが音を立てる。

 がさがさと何かが移動している音。

 シルルちゃんが背中の弓に手をかけ、ゆっくりと構える。


 そして、それよりも早く、そいつは姿を現した。


 よく見知った大柄な動物が飛び出してきたのだ。


 それは獅子のような身体を以て、こちらに高速で飛び込んでくる。


 シルルちゃんがぎょっと目を丸くし、叫んだ。


「す、すとーむらいがーっ!? ちょ、え、まっ、どうしてここに!? ってか私たち死んだ!?」


 そこまで言う程の魔物なのかなぁ……いや、きっと俺がそう思うだけで、実際はそうなんだろう。

 そのまま一度もスピードを落とさずに、俺の元へと飛び込んでくる。


『おう、ごめんね。ずっと放置してて……』


【ヨイ オウヨ サラニ ツヨクナッタ】


『ああそう、そうだよね。お前はそういうやつだ』


 ぺろぺろと俺の顔――顔なのかなぁ、これ?――を舐めまわしてくるストームライガーをカギ爪のついた手で、なるべく傷つけないように撫でてやる。

 うむ、ずっとこうしてみたかったのだ。

 それに異世界に来てからこいつが一番近くにいたからなんか安心するんだよなぁ……。


「え、あ、え? あ、あの……ストームライガーって、すっごく危険な魔物じゃ……?」


「あー、あの子は別なのよ」


 後ろの方でアンナちゃんたちがなにか話しているけど、ストームライガーが離れてくれない。


「なんかルティアに懐いてるみたいで、ずっとついてくるのよね」


「へぇ……っていうかあなたたち、そのルティア? っていうゴーレムもだし、なんか今更だけどついてく人間違えたかも……」


「でもきっかけ作ったの私よ?」


「そーなんだけどぉ!!」


 むきゃー、と髪の毛をばさばささせるシルルちゃんを尻目に、ようやくストームライガーの拘束から逃れることができた。


『なぁ、お前、いつまでついてくるんだ?』


【オウガ オウニ フサワシクナルマデ】


 その忠誠心は、俺じゃない他の誰かに向けて欲しいよまったく……。

 でも、こいつはいなければ俺はきっとどこかで砕けて死んでいただろう。

 そう考えると感謝しかないけど。


 しばらく歩くと、ようやく木々の間から別の景色が見えだした。


「お、そろそろ森を抜けるよ」


 と、シルルちゃんが口に出す。


 なんだか、名残り惜しいな……初めてきた異世界。初めて目が覚めた場所。初めての出会い。戦闘、進化、魔法――そして、初めて相手を殺したこと。

 いろいろあった。

 いろんなことがあった。

 この森ともお別れだ。

 

 ああでも、俺はこれから世界を見るのだと考えると、わくわくが止まらないのであった。


 さあ! 俺の異世界ライフはこれからだ!

ようやく第一部完です。

やっと森を抜けました。

けど、まだまだ冒険は始まったばかりです。よかったらこれからもよろしくお願いします。

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