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29 ようやく寝間着から解放されたわ

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「どうぞ、大したもてなしはできませんが」


 そう言って、エシルさんが案内してくれたのは小さな部屋だが、一応は応接室と言える様相だった。そう思ってしまうのは、俺がかつて人間で、ここではない別の世界に住んでいたからで、実際にはそう粗末なものでもないかもしれない。

 

 俺は言われるがままにソファに腰かける。腰ってどこだろう?

 ぽふ、と隣にアンナちゃんが腰かけ、その隣にエミリアさんが立っている。


 そして、奥から出てきた小さな女の子が、俺たちの前にお茶の入ったカップを置いて去っていく。


「さて、改めてお礼申し上げます。あなたがいなければ我々は全滅していました。本当に、ありがとうございました」


 言って、エシルさんは深々と頭を下げた。

 どうも、こう、歳を重ねた人に頭を下げさせると言うのは居心地が悪い。


『それはもういいのですが……』


「いえいえ、こういったことは、何度言っても足りないものです……せめて何かお礼ができればよいのですが」


『ふむ……』


 お礼……お礼と言えば金銀財宝等の資金や伝説の武器や、何か役に立つ道具だったりするのが定番だろう。

 金銀財宝は、この村の様子から見て期待はできないだろう。

 伝説の武器や防具なんかも、あるのならそれでいくらでも対抗できただろうし。

 役に立つ道具……具体的にどういうものか浮かばないけど、あるのなら欲しいが……それを催促するのはいかがなものだろうか?


「見ての通り、ここには財産のようなものはありません。あるのは、生きる為に必死な人たちだけですとも」


 申し訳なさそうに、顔に刻まれた皺を歪ませるエシルさん。


『いえ、そんな』


「しかし申していただければ、出来る限り応えたいと思います」


 これはややこしいぞ……相手はどうしてもお礼がしたい。しかしこちらにお礼をしてもらいたいと言う意思もない。


「……だったら」


 俺の隣で沈黙を貫いていたアンナちゃんが口を開く。


「私、服が欲しい……」


 そういえば、確かにずっと寝間着だったし、その薄い服は今ではすっかり薄汚れて、まるでボロ布のようになってしまっている。

 確かに、彼女の問題は切実だった。


『俺は、いいので、彼女のお願いを聞いてあげてください』


 俺に欲しいものはないし、うん、アンナちゃんのお願いを聞いてもらおう。


「ふむ……大した服はないですが」


「構わないわ。これ以上に大したことない服なんて、ないだろうから」


 言って、恥ずかしそうにアンナちゃんは顔を伏せた。











「ほら、こっち来なさい」


「わ、わ、ちょっと待って!」


「いいから! 確かにその通りだわ! 私、あなたが好きでその恰好してるのかと思ってた!」


 盲点だった! と言わんばかりにシルルは額に手を当てる。


「そ、そんな訳ないじゃない!」


 私はシルルに手を引かれ、奥の部屋へと連れていかれた。

 そこは、なんというか、殺風景だけど、よく片づけられた部屋という印象だ。壁際に備え付けられたタンスへ走り寄ると、シルルは中を引っ掻き回す。

 ぽんぽんと衣服が舞い飛んで視界を染める。

 

「ちょ、ちょっと、そんなに散らかして、怒られないの?」


「いいのよ、ここ、私の部屋だから」


「……え、ここ、住んでるの?」


 なんていうか、女の子の部屋って感じがしない。

 私の部屋なんて、もっときらきらしてて、ピンクって感じだけど。ぬいぐるみも何もない、本当に生活するだけの空間だ。


「そうよ」


 言葉少なに、シルルは言う。そして、一着の服を私に投げ渡した。


「それ、着なさいよ」


「……え、でも、シルルのサイズじゃ私……」


「大丈夫だから」


 くる、と後ろを向いて、シルルは座り込んでしまう。

 早く着替えろ、と言うことなのだろう。私はボロ布に手をかける。

 静かな空間に、衣擦れの音だけが響く。


「あのね」

 

 そんな静寂を破るように、シルルが口を開く。


「それ、私を助けてくれた人の服なの」


 そんな、唐突な話に、私はなにも答えることができず、着替えを続ける。耳だけは傾けて。

 向こうも、そんなことは承知の上と独り言を続ける。

 

「私、昔、奴隷だったって話は、前にしたでしょ?」


「うん」


「その時ね、助けてくれた人がいたんだ。私よりも背のおっきい、冒険者だった。すごく強くて、綺麗な人だったの」


「この服、その人の?」


「うん」


「その人は……?」


「さあ、わからない。私をここに預けて、しばらくお世話してくれて、気が付いたらどこかに消えてた。村長も答えてくれないし、誰も知らない。もしかしたら幻なんじゃないかって思うけど、でも本当に、あの人はここにいたんだ」


 そう語る声は、どこか震えている。


「だからさ、私、その人のこと、探しに行きたいの。でもね、私一人じゃこの村を出ることなんてできない。だってほら、あなたは知ってると思うけど、ここの魔物、強いでしょ? ドワーフなんてちっこい私が行ったら、食べられちゃう」


 あはは、と力なく笑う。


「村長ももちろん知ってる。だからあんなこと言ったんだ」


 覚えている。シルルと共に逃げろと言ってくれた言葉を。


「あの時は、みんな死ぬかも知れなかった。でも今は、たぶん、大丈夫だから。ね、連れてってくれない?」


「シルルも一緒に?」


「うん。あの人が見つからなくても構わない。けど、私は、あの人の語った外の世界ってやつを、見てみたいんだ」















『おお! よく似合ってる!』


 しばらくして、再度部屋に入ってきたアンナちゃんは、先ほどまでのボロ布とはまた違った装いに着替えていた。

 動物の皮を鞣して作られたのだろう。上下の革の服に小さな胸当てを取り付けられている。動きやすさを重視してか、スカートの丈は短い。例えるならエルフのレンジャーって感じだ。付き添うようにして、先ほどの小さな女の子がちょこちょこと後を付いてきている。


「ありがと、シルル。ルティアも褒めてくれてありがとう」


 女の子――シルルにお礼を言って、こちらを見てにっこりと笑みを浮かべる辺り、褒められるのは慣れているのだろう。

 そして、アンナちゃんはエシルさんに向き直る。


「よい服だ。それなら長旅にもある程度耐えるだろう」


「エシルさん、ありがとう。それと、もう一つのお願いを聞いてもらってもいいかしら?」


「いいでしょうとも」


「あのね――――」


 

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