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2 進化


 進化。

 それは魔物が自分の身体を作り替え、さらに戦闘や様々なことに適応していくことを示す。

 

(進化……? って、待て待て、俺はなににぶつかったんだよ!? ストームライガーってどう考えても明らかにやべぇやつじゃねぇか!? 経験値もやばいし……え、こいつもしかして俺がぶつかったせいで死んだの? 間抜けじゃねぇか!?)

 

 考えてみれば、落石にぶつかって死ぬようなものだ。

 奇跡的な確率で彼はストームライガーを殺したらしい。


(えー……いいけど、どんな進化先があるんだよ)


 彼が進化先について尋ねると、どこからともなく落ち着いた機械的な声が響く。


【現在「丸い石」に対応している進化先は三つです】


(三つもあるのかよ……多いな)


【1 四角い石

 2 三角の石

 3 大きな丸い石です】


(石ばっかじゃねぇか!? 俺は石ころになりたいんじゃねぇんだよ!? どれも違いがわかんねぇし!?)


【1 四角い石は側面から生えた両手を以て重いものを持ち上げたりすることができます。また、地面付近にいるため気付かれ難く、また力も強い為掴まれると死を覚悟した方がよいでしょう。魔物がよってきますから。

 2 三角の石は、その強靭な両足を以て、天井にぶら下がっている石です。天井付近にいるため気付かれ難く、気配も薄いため、新米の冒険者が三角の石に殺される事故が多発しています。

 3 大きな丸い石は、その見開いた目を以て、対象を監視します。ひたすら見るだけなのですが、巨大な目には魔眼が薄くですが機能しているため、幻覚や混乱などを引き起こし冒険者を危機へと誘います】


(どれもこれも物騒だよ!? ただの石の癖に!? っていうか、この種族名なんなの!? もっとこう、さっきのストームライガーみたいにかっこいい名前ないのかよ!?)


【現在「石」系統の魔物には種族名がありません。魔物と認識されていないため、誰も名付けていないのです】


(知りたくなかったよそんな情報!? 俺ただの物体かよ!? 魔物だとかそういうの以前の問題だよちくしょうめ!?)


【さて、進化先ですが、どれになさいますか?】


 だが声は非情である。

 一切の感情を感じさせずに、彼の心を突き刺してくる。


(こ、この中から選ぶのかよ……?)


 正直、どれもいやだ。せめて自分の目で見て、歩くことのできる身体が欲しい。

 前世の自分がどれだけ恵まれていたかわかる。

 こんなことでわかりたくなかったが。


【はい】


 どこからともなく聞こえる声はやはり無情である。


(……確かに手足は欲しい。でも見えなきゃ意味がないだろう。俺は見たいんだ、世界が、この風景が。自分がどこにいるのか知りたいし、光がない生活には耐えられない。もう暗闇はいやなんだ! だからこそ俺はこれを選ぶぜ! 「大きな丸い石」だ!)


【かしこまりました。

 それでは「丸い石」の進化を行います】

 

 進化。それはどことなく心が躍る言葉だ。

 その言葉とともに、彼の意識はブラックアウトした。とはいえ、ずっと暗闇だったのだけど。


 そして。


【ステータスを更新します。

 種族:丸い石 → 大きな丸い石

 名前:

 年齢:0

 性別:

 称号:【異世界の住人……もの?】【百獣の王】

 Lv:10  → 1

 

 HP:35/15 → 20/20

 MP:15/ 2 → 6 /6

 

 体力:8    → 5 

 攻撃:10   → 6

 防御:15   → 8

 魔力:6    → 4

 速度:1    → 3

 幸運:1    → 1

 

 スキル:堅牢 1 異世界語 1 魔眼 1】


(なんだ、もう終わったのか)


 彼の意識が目を覚ました。 

 もう声は聞こえない。けれど彼には自分の身体が変わっていることが確かにわかった。

 まず、感覚がある。さきほどまでなかった、瞼の感覚が蘇っているのだ。

 これはうれしい。聞こえなくとも、自分がどこにいるのかを知覚できるのだ。それだけでもうれしい。もう暗闇にいるのはいやだったのだ。


(開け! 俺の瞼よ!) 


 が、誤算だった。

 まさか光がこんなに眩しいとは思わなかった。見開いた瞬間に、圧倒的な光の奔流が彼の目を押し潰した。


(目が!? 目がああああああああああああああああああああああああああああああああああ!?)


 ばしばしと瞼を上下させる。

 痛みはない。痛みはないのだけれど。


(ああ、くそぅ……目の前がチカチカするぅ……そらそうだろう、光に慣れてないんだから……俺はバカかよ。ゆっくりだ。ゆっくりそうっと開けばチカチカしない。大丈夫、俺ならできる)


 そっと、彼は瞼を開けた。

 慎重に、ゆっくりと、一つしかない目を開ける。

 そして。


(な、んじゃこりゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!?)

 

 男の眼前に広がったのは、巨大な白い虎のような魔物の顔だった。 

 というかストームライガーだった。


(そりゃそうか!? そりゃそうだろうさ!? ここで死んだんだからこいつ! ええいくそ! 身体が動かないからこいつから目が反らせねぇ!? どうにか! どうにか身体よ動け!)


 踏ん張っていると、どこかがぴくりと持ち上がる。なにかが身体から抜け落ちて、代わりに、身体が動く。

 なにかの正体はわからないけれど、なにかを使えば身体は動くのだ。

 つまり。


(おおりゃ! どっせい! もう少し!)


 ころん、と彼の身体はストームライガーの眼前から転がり落ちた。 

 今度こそ目の前に景色が広がる。

 

(なんじゃこりゃああああああああああああああああああああああああああああああッ!?)


 再度、彼は叫んだ。

 彼の眼前に広がるのは森だ。彼自身が小さいからか、とても巨大な森に見える。生えている草花も巨大である。いいや、彼が小さいのだ。

 そして目に入るのは、白い毛並みの獅子の群れ。おそらくストームライガーといわれる魔物なのだろう。

 一様にこちらを見詰めている。

 その表情はどこか緊張しているようだ。

 そして、見てしまった。

 彼の瞳を。

 小さな力しかないが魔眼は魔眼だ。微かな力は気付かれることなくストームライガーの奥深くに潜り込む。

 そしてストームライガーの群れは、群れの長を殺した石に一斉に伏せの姿勢をとった。


(え、ええ、うそ……えええ……)

 

 困惑するのは彼だけだった。

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