23 お前は俺に勝てるのかよ?
ひゅん、と鋭い音を立て、剣が俺のすぐそばを通り抜ける。
う、おおおこえええ!
人間と戦ったのはこれが初めてだけど、武器って思ったよりも怖い!
動物や魔物のそれは、殺すためなのと食うためが両立しているけど、人間の武器は違う。
最初から相手を殺すことを目的としているからだ。
だけどそれでも――
(速度なら獣の方がずっと速かった!!)
俺の目にははっきりと見えている。
まるでハエが止まっているようだとは言わないけど、それくらい思える程度には遅い。
目が慣れたとも言う。
次の一撃。
横薙ぎの払い。
自分の身体を上に飛ばして躱す。
そして前のめりの兵士の顎を目がけて――
(食らえッ)
「なっ!!?」
俺の目に映っているのは、顔いっぱいに驚愕を張り付けた兵士の表情だ。
考えてみて欲しい。
目の前で、体勢を崩した状態で、高速で飛来するこぶし大の石礫。
躱せるだろうか?
少なくとも、人間だった頃の俺には考えられない。
つまり、俺の【流星】は躱されることなく顎を撃ち抜いた。
「――ごッ!?」
顎を砕かれ頽れる名もなき兵士。
ふわりと一瞬、空中で静止してしまう。その瞬間を、敵は逃さない。
俺の背後から氷の矢のようなものが飛んでくる。俺の目のない場所を狙ったのだろうが、それは間違いだ。俺には全て、360度が見える視界がある。
身体を固くして、なるべく衝撃が来ないように祈る。
ガゴンッ!
凄まじい音が響き、俺の身体に衝撃が奔る。
けれど俺の身体を砕くには足りない。痛いことは痛いけど、我慢できない程ではない。
痛くない痛くない。
恰好くらいつけさせてくれ。
『アマイッ!』
思わず声が出てしまう。
余裕そうな顔でこちらの状況を伺っていた兵士が顔を驚きに変える。
飛び散った氷の破片に向けて【念力】を発動する。
飛び散った破片の一つが兵士に矛先を向ける。そしてそのまま、俺を飛ばすのと同じ要領で。
(はっ! 森の魔物と戦った時、石でもぶつけなきゃ危なかったんだよなぁ……)
思い返せば、複数のフォレストウルフに囲まれたこともあった。その時もこの視界を有効活用した訳だが、それでも限界はある。俺は、それでも自分を振り絞った。
結果、そこらへんの石でも一つくらいは飛ばせるようになったのだ。
まあそれでも、自分よりも小さな大きさのものしか飛ばせない。威力もない。
だけどこれはどうだ。
氷の破片。
もちろん、その先端は尖っている。
人間ならば触れたくない刃のようなその切り口で、まるでカミソリかなにかのようにあっさりと兵士の首を傷つける。大動脈まで達する深い傷は、勢いよく飛沫を跳ね上げる。
自分の身体から飛び出す血液量に顔を青くし、兵士は失神する。
そして。
(左右からの挟み撃ち、けど本命は俺の背後で準備してやがる)
どうにも刃物で殺すことは諦めたのだろう。
なによりも的が小さすぎるのだ。
それならば、大規模に巻き込んだ方がいいに決まっている。
俺を殺す。
けれど、それを諦められたら終わりなのだ。
だからこそ、注目を集めるようにしなければならない。
放っておいたら危ないぞと、危険でなくてはならない。
だからこそ俺は、負けられない。
負けてしまったらそれこそ、アンナちゃんも終わりだし、この村も終わりなのだ。
だからこそ、俺は危険でなくてはならない。
ミニゴーレムのようにみえる何かでなくてはならない。
見ろ、あのリーダー格の兵士の表情を。
にやけ面から驚愕に変わってやがる。
(それだけでも!)
浮遊し、左右から飛来する炎と水の渦を回避する。
真下でぶつかり合い、盛大に蒸気を噴き上げる。
そして本命が俺にさらに魔法をぶつけようと照準を合わせるように剣を向けていたのが見えた。
(させねぇよ!)
落下速度を【念力】で加速させ、【流星】を追加してさらに速度を上げる。本当の流れ星になったように、兵士の頭を狙い一直線。目を見開いた兵士は、即座に魔法を完成させる。俺に向けて走るのは岩の礫だ。
俺に向かって、俺よりも巨大な岩石が殺到する。
けどなぁ。
(俺の方が堅いんだよッ!)
そう、【堅牢】を使った俺の方が堅いのだ。
落下速度も含めた、俺の最強攻撃にただの岩程度が敵うはずもないのだ。
俺の身体は、岩石をぶち破り、兵士を脳天から撃ち抜いた。
ばたばたと地面に落ちた俺の上に、血の雨が降り注ぐ。
ざり、と足音が聞こえた。
後ずさりする音だ。
俺を恐れているのだ。
あと少し。
だってのに――
(くっそ、魔力が全然足りねぇ!)
足りない。
この程度じゃ、全然足りない。力が足りないのだ。この状況を打開するには力がいる。
こんな可愛らしい姿じゃない。
もっともっと強くならないと。
「……ふむ、どうやらただの魔物ではないようだな」
と、今まで傍観していた男が口を開く。
部隊を率いる騎士である。
『オマエラ ヨワイ』
ワザと挑発的な言葉を吐いた。
「知能もある。少しカチンときたが、その強さ、是非とも役立てたいな。どうだ、こちら側につかないか? なに、お前が身体を張る理由などないだろう。何故、この村を守ろうとするのかね?」
『ムラ マモル チガウ アンナ マモル』
「ほう、このお姫様を護ろうと言うのかね? 忌み子である彼女を?」
『ドウイウ……?』
「おっと、知らないのか……いや、まぁいい。ならば仕方ない。死ね」
言葉を切ると同時、ひゅ、と男の姿が消えた。
そして――
「気の毒だ。そのような知性がありながら、くだらないことに消費するなど」
俺の背後で既に構えを解いていた。
なにを。
なにをされたのか、さっぱりわからない。
だって、兵士なんてものじゃないぞ、こいつ。
だって、だって。
ずるりと俺の身体が二つにわかれる。
視界が滑り落ちて。
(――俺は、)
死ぬ?
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