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22 いいか俺はかわいい女の子の味方なんだ

(っくそッ! もう一回だ)


 同じように。

 また見えない壁に阻まれて、俺たちはそこを通過できないでいる。

 何度も吹き飛ばされてストームライガーの体はボロボロになっていくし、俺自身も申し訳なく思う。

 けれど、それでも何もしない訳にはいかないのだ。

 さっきそこを通過していった兵士たち。

 彼らの目的ははっきりとわかっている。その会話から、アンナちゃんを殺すことが目的なのだろう。だからこそ、俺たちは――俺は向かわなければならない。


『オウヨ ナゼ アキラメヌ?』


 ストームライガーが問う。その言葉にあるのは困惑だ。どうして同じ魔物である俺が、たった一人の少女の為に必死になっているのかわからないといった風に。

 何故?

 そんなのは決まっている。

 

 彼女は初めて会えた人間なのだ。

 魔物ではない、俺に名前をくれた人間なのだ。

 それだけでも特別だ。

 それだけでも、俺には助けるに値する。


 けどそんなのは建前だ。

 男なら、そんなことはどうでもいいと言わざるを得ない。

 何故ならば。


(決まってんだろうがよォ! 男なら! かわいい女の子にいいとこ見せたいだろォがよ!!)


 欲望というならば笑えばいい。

 けど俺にはそれくらいしか思いつかないのだ。


『リカイデキヌ』


 そりゃそうだろう。お前は魔物で、俺も魔物だけど、その中身が違う。

 俺の中身は人間だって理解している。その感覚に従って、俺は動いている。だからそっちを優先するのは当然なのだ。


(お前にはわからないか……)


『オウノ イウコト トキドキ ワカラヌ』


 やはりストームライガーは首を振る。

 そして、四肢に力を込めると、再度突撃を慣行する。何度も繰り返した動作。何度も行った動き。そして――


 やはり同じように、吹き飛ばされた。

 違うのはただ一つ。


 俺が口から零れたこと。


 何度もぶつかってを繰り返していたストームライガーも、さすがに顎に限界が来ていたのだろう。普段なら落とさない俺を、簡単に離してしまう程度には弱まっていたようだ。

 顎から解き放たれた俺は、当然のように放物線を描き飛んでいく。


(はぇ?)


 そして、ずっとぶつかっていた壁を超えた。

 俺だけ。

 呆然とした、珍しい目でこちらを見るストームライガー。

 困惑する俺。


(え、ちょ、え? ど、どゆこと?)


 わからない。

 わからないけれど。


『オウヨ!』


 ばちこんとストームライガーはやはり吹き飛ばされていく。


(これで、いけるッ!!)


 助けに行くことができると確信できる。


(……ごめんな、ちょっと行ってくるわ。もし帰らなかったら、お前にあとを頼む)


 そんなことを言える義理でないとわかっている。けれど、そうでも言わないといけなかった。

 がりがりと不可視の壁に爪を立てるストームライガーをしり目に、俺は飛び出した。

  

(【浮遊】して【念力】!)


 文字通り、宙に浮いてあとを追う。

 幸い眼前の道は、人が通った痕跡が残されている。すなわち薙ぎ倒された木の枝や、藪のあと。無数の足跡が先へと続いている。どこに繋がっているのかはわからないけど、これを辿っていけば兵士の元に出られる筈だ。アンナちゃんを殺そうとしている奴の元へ。


(無事でいてくれよ……ッ!!)


 こんな時、この体が恨めしく思う。もしも人間のように走れたら。もしも人間のように動けたら。こんな不自由もなく、魔力の残量に気を使う必要もなかっただろうに。

 ないものねだりしても仕方ない。

 今あるもので勝負するのだ。


 今の自分に出せる最高速度で、俺は追いかけた。










 村のようなものを突っ切る。

 騒ぎが聞こえる。

 そして、見た。

 世界がスローモーションに包まれる。

 思考が加速する。


 目の前の光景。

 老人の前に飛び出したアンナちゃん。もはや猶予もなく。即座にその剣はアンナちゃんを切り裂くだろう。騎士はその表情に何を浮かべているのかは知らない、見えない。

 けど、俺にはその光景がどうしても我慢ならなかった。

 もしも歯があれば砕けていた。

 もしも拳があれば血が滲んでいた。

 

 だから調子がいいかもしれないけど、今の一瞬だけは感謝する。

 この体であってよかったと、神様にだって感謝してやろう。

 だから、だから。


(ま、に、あ、ええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ――ッ!!)


 【流星】による加速を奔らせ、間一髪。俺はアンナちゃんの前に立ち塞がることに成功する。

 まさに奇跡的だけど、そんなんじゃない。

 俺が、助けたかったから、間に合った。

 かきん、と俺の体に振り下ろされた剣が弾かれる。

 呆けたような声が、背後から聞こえた。うれしそうな、どこか困ったような。

 

「ルティア?」


 びりびりと痺れる腕に、騎士が戸惑うのが目に見えてわかった。


『ヨカッタ マニアッタ』


 俺の声が漏れる。

 背後で、アンナちゃんが倒れるのが見えた。

 安心しきった表情を見せていて、その緊張の糸が途切れたのだろうと思う。

 ゆっくり寝ていてくれよ、あとは俺が終わらせる。


「なんだ? ミニゴーレムか?」


 兵士の一人があざ笑うように声を出す。

 俺の正体に気づくと、他の兵士も連鎖するように笑い出す。目の前で腕を痺れさせていた騎士も同じだ。


「愛玩用のペット魔物が、こんなところでなにをしている……俺の邪魔をするなど」

 

 余裕なようで、口元に笑みを載せながら、こちらを吟味するように見つめてくる。

 大丈夫。やれる。

 相手は鎧兜に武装もしている。それに人数だって多い。とても人間だったなら敵わない。

 けど正直相手は俺のことを舐め腐っているし、どうも隙だらけだ。これならストームライガーに無理やり戦わせられた魔物や動物の方が強いし怖い。

 だから、やれる。


『ゼンイン ブチコロ』


「はっ、吠えるな魔物風情が、やかましいぞ」

 

 剣を振り上げる騎士。


 負ける気は、しない。

お待たせして申し訳ないです。長期の勤務で体調を崩していました。

これからも頑張って続けていくので、感想や評価、ブクマ等よろしければおねがいします。

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