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1 いし

 目が覚めた。

 真っ暗な中でそれは目を覚ました。いや、真っ暗というのは語弊がある。何故ならそれに目はなかったのだから。目はないうえに口もない、さらには鼻や耳さえもないのっぺらぼうだ。


 自分がなにものであるのかさえ、認識できていなかった。つまるところそれは混乱の最中にあったのだ。


(な、んだこれ? え、ちょ、まって、まって)


 誰に待てと言っているんだ自分は、と自分自身でツッコミを入れながらも、それは現状を把握しようと思考を巡らせる。


(落ち着け。落ち着けぇ、俺! 俺は、俺だ。それは認識できてる。えらいぞ俺! どうでもいいわ!)


 重要じゃないと慌てるようにしているのが滑稽だ。そうしたところで事態は好転などしないのだから。


(ええと、昨日、俺は布団に入って寝た。ここまではオーケー。で、起きたらこれだ)


 まさか自分は植物人間にでもなってしまったのかと恐怖を想像する。あっているのかもしれないと思いだした。手足は動かないし、見れないし嗅げないし聞こえないし。事故にあったか死んでしまったのかもわからない。


 だいたい自分はなにもしていなかったのだ。なのにこうなっている。

 理不尽だ。

 実に理不尽である。


(ええいくそ! こういう時、ゲームみたいにステータスなんかが見えたら便利なのに!)


 やけくそである。思考できるだけましだとでも思うべきか。それはステータスを見ることを望んだ。ならば世界はこう答えるだろう。そら、これがお前のステータスだと。何故ならこの世界は、彼のいた世界とは違うのだから。


 なにもかもが決定的に違うのだ。

 ぽこん、と彼の視界に暗闇以外のものが初めて入り込む。 

 それは青色のプレートのようなもので表現されていた。実にわかりやすく、彼の現状を指示していた。


(ええ!? おい、まじかよ……? これ異世界ものなのかよ……)


 彼にとってそれは見たことはないものの、知識的にはよく知ったものだった。異世界ものの小説やゲーム、漫画なんかは彼のいた世界ではありふれたものだった。彼ももちろんそれにハマっていたこともあった。しかし仕事ばかりの日々に埋もれ、漠然とした希望だけが残ったのだ。異世界に行ってやり直したいと。そんなものは日常に埋没し、いつかの想いでしかないのだけれど。


 さておき。


(……衝撃は少ないな……ってか、自分が植物人間だとかよりは全然マシな気がする……まあ、なんだ。こうなる前の所だって、生きている意味があるのかないのかわからない仕事場だったじゃないか。それだったら、どうにかこうにか生きているだけありがたいのかもな……ま、いいや。それはおいといて、これが俺のステータスか……)


 プレートを眺める。

 

 種族:丸い石

 名前:

 年齢:0

 性別:

 称号:異世界の住人……もの?

 Lv:1

 

 HP:15/15

 MP:2 / 1

 

 体力:3

 攻撃:4

 防御:4

 魔力:2

 速度:1

 幸運:1

 

 スキル:堅牢 1 異世界語 1


(低ッ!? それ以前に突っ込みどころしかねぇ!? んだよ『丸い石』って!? それもはや種族じゃねえよ!? ものだよもの!? 名前が空白なのはいいとして! ものってなんだよものって! いいだろ住人で! 人をものにすんなよ! 石だけど!! あとその他のステータス……高いか低いかこの世界での基準はわからないけど、低いんだろうな……だって数字ちっちゃいもん)


 彼は心の中で涙を流す。


(石って……石ってなんだよ。普通こういうのって、神様とか出てきてチートスキルで無双状態がデフォじゃねぇのかよ……石って……お前……神様なんて見てないけど、見てたら爆笑もんだろーよ。俺はちっとも楽しくないけど……)


 彼は、どうにかしようと思う。

 けれどやはり身体はぴくりともしない。


(どうすんだよ……これ。身動きできないし、死ぬまでこのままとか……そもそも石って死ぬのかよ。もうやだ異世界。なんだこのハードモード……夢なら覚めてくれ……)


 彼は諦めた。


 三日後。


 彼はまだそこにあった。

 どうやら夢ではなかったらしい。


(夢じゃないよ……つかこれ真っ暗で時間の感覚もわからないし、どこにいるのかもわからない。はは……こりゃお手上げだよ。手なんかねーけど……)


 だいぶ心が疲弊してきた。暗闇に加え、話す相手もいない。いっそのこと狂ってしまった方が楽なのではないのかと思い始めた時だ。

 どこからか、身体が揺れる感覚があった。

 暖かいなにかが身体を触っている感覚もだ。生暖かなそれを全身に感じる。


(う、おお……? 気持ち悪い。え、なにこれ? 野生動物の舌? なにそれ、俺食われんの? つーか食えるの?)


 次の瞬間、彼は自分の身体が転がり始めたのを感じた。


(う、お、うおう!? 跳ねる!? 跳ねるっ!? ま、止まって止まって!?)


 目隠しをしてジェットコースターに乗っているような気分だった。

 どこにいるのかもわからないまま、彼の人生は転がり落ちていく。


(く、砕けたら死ぬって!? け、堅牢! 堅牢を使う! 俺は堅い! がっちがちだ! 砕けるはずなんてねぇ!)


 使ったこともないスキルを思い描き、自分が堅いと彼は願う。

 そして願いが通じたのか、彼の身体からなにかが抜け落ち、自分の身体が堅くなるのがわかった。


(おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!?)


 心の中で雄たけびをあげ、そして。


(うおうっ!?)


 なにかにぶつかって、止まったのがわかった。


(いてて……痛くないけど、なんだ……?)


【ストームライガーを倒したことにより、11096の経験値を取得しました。

 丸い石のLvがあがりました。

 丸い石のLvがあがりました。

 丸い石のLvがあがりました。

 丸い石の……

 

 丸い石は成長限界です。


 「百獣の王」の称号を獲得しました。


 進化しますか?

 Yes/No】


(……え)


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