18 村とそこで生きている人たち
「この村はね、通称:奴隷村って呼ばれてんだ」
歩き出したシルルが言ったのは、随分と重い言葉だった。
奴隷。
労働力なんかに使われる、人。
いや、人という身分さえないのかもしれない。実感はないけど、知ってる。
「どっかの商人さんが言ってたの、聞いたから間違いないと思うよ」
シルルはなにも気にしていないとでも言いたげに、けらけらと笑っている。
正直、理解できなかった。
どうしてそんなに平然と笑っていられるのだろうか?
平然としていると言えば、村に住んでいる人たちもそうだ。
さっきからすれ違う人たちの中で、悲壮な表情を浮かべているものは一人もいない。みんな笑顔だったりを浮かべて、シルルに挨拶の声をかけてくる。
働いていても、楽しそうに。
それに、すれ違う人には、たくさんの種族がいることがわかった。
ぱっと見ただけでも、文献でしか知らない種族がたくさんいた。
竜人や獣人、ドワーフにエルフ、ヒト、ゴブリン人やオーク人。ぱっと見ただけではわからないけど、ハーフなんかもいたのかもしれない。
多種の種族が、ここでは混在しているのだ。
ちらちらと周りを見ている私が珍しいのか、シルルが声をかけてくる。
「ん、珍しいよね、ここ。こんなにいっぱいの人種がいる」
「うん……でも仲が悪いって言われてる種族もいるわ」
有名な所で言えば、鉱山に住むドワーフと森に住むエルフは仲が悪いと言われている。けど、ここじゃどうだろうか? それは当てはまらない気がする。
エルフとドワーフが一緒になって畑仕事をしている光景を見ると、そう思えるのだ。
「あー、よく言われてるね。でもさ、ここじゃみんな一緒だったんだよ」
「一緒?」
「人間以下の家畜ってことさ。そこから解放されてね、私たちは今の生活を作ってきた。捨てられて、放り出されて、絶望して、それでも諦めなかったから、今の生活になったんだ。種族同士で争ってるなんて馬鹿らしい。私らは、同じなんだ」
「同じ……」
その言葉に、共感してしまう自分がいた。
私はものを知らないけど、物語は知っている。だからそんな風に、捨てられた人の末路も、なんとなく想像できる。
きっと絶望する。
そして諦めてしまうのだ。
けど、違うのだ。諦めなかったから、ここまでこれたのだ。
それは素敵なことじゃないだろうか。
「ほら、ついたよ、ここだ」
周囲の家々と少し離れた丘に建っていたのは、大きな屋敷……と言っても、周りと比べればというレベル。正直、あんまり大きいとは感じない。
「いるんでしょ? ミィル!」
ごんごん、とドアの下部を叩いて、シルルはミィルを呼び出す。
程なくして、ドアが開いた。
出てきたのは憮然とした顔のミィル……?
「そんな顔だったのですか?」
エミリアが驚いたように言う。
確かに、ミィルの顔は、隠していたのが勿体ないくらいにはきれいだと思う。白いし、きめ細かな肌をしている。そして印象的なのは瞳。まるで硝子玉みたい。
それを不機嫌そうに歪めているせいで台無しなのだけど。
「そうだよ。悪いか。あとシルル、てめー人んちのドアごんごんしてんじゃねーよ壊れるだろ?」
「知らないわよ。早く出てこないのが悪いんじゃない」
「うるせ、こっちだって色々あるんだよ。随分早かったじゃねーか?」
「こんなとこ、どこを案内しろってのよ?」
「確かに」
そのことには同意できる。
別になにかある訳ではなく、入り口から一直線に歩いてしまえば、村のほぼすべてが見ることができたのだ。
「……まあいいか。村長には話、通してあるぜ。あがれあがれ」
手招きするように、ミィルが家の中へ引っ込む。ドアは開けっぱなしだ。
どうしようかと、エミリアと二人、顔を合わせる。
「とっととこいよ」
と、シルルが一人、ぱっと入っていってしまう。
「あ、まって!」
私たちはその後を追って、家の中に入った。
応接室なのだろう。
真ん中にテーブルと粗末なソファがあるだけの部屋に、三人で入った。
シルルはまるで自分の家のようにくつろいでいる。脚をぷらぷらと行儀悪くぶらつかせて、暇そうにしているのだけど、私はそうもいかない。緊張しているのだ。
有権者に会う時のような雰囲気に似ている。絶対に失敗できないと、固く自分を作り上げる、あの雰囲気に。
「緊張すんなって。別に取って食やしねーよ」
「だけど……」
「いいからいいから、村長っても、みんなのオヤジみたいなもんだよ。この人がいたからここまでこれたってね」
……それは逆にすごい人なんじゃないだろうか?
どういう顔すればいいんだろう?
今更だけどお風呂とか入ってないし、汗まみれだし、埃まみれだし……。
「お嬢様、大丈夫ですよ。リラックスリラックス」
エミリアが緊張を解すように言う。
「ま、寝間着ですけど」
「ちょっとぉ!? なんでそんなこと言うの!?」
「いえ、リラックスしてもらおうかと……」
「恥ずかしいわ!」
今更だけど、それだ。
寝間着のままだ、私。まるで夜逃げでもしたみたいじゃない……。
うう、と頭を抱えていると、がちゃ、とドアが開く音が聞こえた。
慌てて頭を上げると、すでに目の前にその人物は移動していた。
「これはこれは……お疲れでしょうに。初めまして、私が村長のエシルです」
対面に座ったその村長――エシルさんは、長い耳を持った、老エルフだった。
長い時を生きたであろう年季を感じさせる皺を顔に刻んだエシルさんは、にっと笑って会釈をした。
人好きのする笑顔は、彼がエルフであることを忘れさせる。
「どうぞよろしくお願いします」
そう言って、もう一度、にっと笑うのだった。
すみません、28日に更新できればと思っていたのですが、帰るまでアクセスができないので、申し訳ないですが、12月の頭に次話公開となります




