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13 覗き魔たち

 ……なにかの気配を感じた瞬間、ストームライガーは俺を咥えたまま草むらに音もなく飛び込んだ。

 なんだと疑問に思う暇もない早業だった。


(どうしたってんだよ、ストームライガー)


『オウヨ ヒトダ』


(ヒト!?)


 まじか、なんの気配も感じなかったぞ?

 それに三百六十度すべてを見ることのできる俺の視覚に入らないなんて、どんなチート人間だよ。


『モリノタミ ソウ キイタ』


(モリノタミ……森の民か、なんかエルフみたいなイメージかないなそれ)


 もしくは山賊みたいなのか、そうだな修行僧みたいなイメージかな。森で生きて、森で死ぬ。森の中から一生出ずに暮らしているような人たちのイメージだ。


『マチガッテナイ』


 ストームライガーも、そうだと肯定してくれる。

 その返答に満足して、俺は観戦に戻る。

 ふーむ、どこからともなく声が聞こえてくるのって、なんか怖いな。相手がどこにいるのか全然わからん。

 わかった所でどうすることもできないのだが。


 って、なにしてんのエミリアさん!?


 俺の見ている前で、エミリアさんが唐突に脱衣を始めた。メイド服の下から、豊かな胸やらくびれた腰が露わになる。

 ……下着の色は紫とか、年齢に似合わず大人っぽいの着てるんですね。

 そうこう思ってたら、声は焦ったように降参を示し、姿を現した。

 

 少年かな……? まだ年若い感じの子に見えるし。

 革の上下に、革の鎧。手に持った弓は未だに二人に向けられている。

 フードとマスクに隠された顔から表情を読み取ることはできないけど、少年の目元が揺れているのはわかった。


「オレはミィル。あんたらは?」


 少年期特有の甲高い声で、少年は聞く。

 それでも警戒を解かないのは、教育の賜物なのだろうか。それにしてもあんな年若い少年を、こんな場所に遣わせるなんて、どうなってんだ。


「あ、私はアンナよ。よろしく」

「そして従者のエミリアですわ」


 初対面の人に慣れていないのか、アンナちゃんは少し身体が固そうに見えた。深々とお辞儀をする。

 そして未だに下着姿のエミリアさんも同様に答える。


「あんたは服を着ろ!」


 必死に訴えると、ようやくエミリアさんはメイド服を着る。

 エミリアさんの本気度が伝わったのだろうか。負けだ負けだと言いたげな雰囲気を少年は醸し出している。


『オウヨ モリノタミ コロス?』


(なんなのお前!? 物騒だな!?)


『ジョウダン モリノタミ コロス シカエシ クル』


 一人殺すと総出で襲ってくるってことかな? なにそれこわい。


「それで、あんたらなにしてたんだ?」


 ちらりとアンナちゃんの方を見て。


「そんな恰好でよ」


 アンナちゃんの服装は、初めて会った時から変わらない寝間着のまま……というかそれしかないのだが。

 森の中を歩くには、決して適さない服装。

 靴の方も、薄っぺらで家の中で履くような靴だ。


「……ね、エミリア、どうしよう?」

「正直に話すというのは……」

「信じてもらえるかな?」

「無理じゃないでしょうか?」

「じゃ、なんでいったの!?」


 驚愕したように、アンナちゃんがツッコミを入れる。

 なんかあの二人、二人だけにするとよく漫才みたいなやり取りやってるけど、なんだろう、エミリアさんボケ側なんだ。


「その……迷子になってしまったといいますか……」

「実は同行人がどこかで迷子になってしまって……」


 おい、急にさらっと嘘を混ぜるな。


「それで探している時に、このギガノボアに出会ったのですよ」

「……それはそれでいいんだけど、どうしてこんな森の奥にいるんだよ?」

「それは……」

「いえないのか?」

「……いいたくないといいますか……」


 渋ったような顔をして、エミリアさんが俯く。アンナちゃんも不安そうにその表情を見上げていたが、決意したように一歩前に出る。すーはーと大きく深呼吸をして。

 

「私は――」


 と、いいかけて、出鼻を挫くように、少年は言葉を重ねた。


「はぁ……まさかこっちも降参するとはね。参ったよ。女二人でしかも丸腰だ。大方奴隷にでも落とされたかなんかだろう? この森、たまにそっち関係の馬車が通るんだ。勿論、安全じゃないけど」


 きょとんとしたまま、アンナちゃんは少年を見詰める。

 少年はその視線に気づかないまま、語り続ける。


「よくあるんだよ。ギガノボアに襲われてうまく逃げたんだろう? いいよ、村に来なよ。お前らみたいなの、いっぱいいるぜ?」


 いって少年は笑った。












 ……え、村にいっちゃうの?

 待ってよ、俺、なにしたらいいんだよ? 

 なにしてたらいいんだよ?

 アンナちゃんもエミリアさんもいなくて、ストームライガーと二匹だけなんて。

 おいおいおい、俺一人じゃなにもできないんだって!?


 意思を頑張って伝えようとしたら、一瞬だけアンナちゃんが振り向いてくれた。

 申し訳なさそうな顔をしたのが見えた。


(ちくしょう、あの三人を追ってくれ……)


『オウヨ ヒト キケン』


(見つからないように、静かにいけば大丈夫だって)


『ガンバル』


 俺たちは尾行を開始する。

 なにより魔物だから村に入れるかどうかも怪しいし、見つかった瞬間討伐されかねない。

 なんだこの綱渡り。

 なんだこれ、チートをくれチートを!

ちょっと気になったので、ネット小説大賞五に応募してみました! 

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