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11 森林大進撃

「きゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!?」


 ドドドドドドっと、土煙でも巻き上げそうな勢いで走るのは、俺を胸に抱いたアンナだ。

 その横を、メイド服の裾を持ち上げながら、器用に森を駆けているエミリア。

 そして、先頭を駆けるのはストームライガー。


 それと新たなランニングパートナー、巨大な猪が背後から迫っていた。


 ……なんでこんなことになったんだっけ?







 俺たちは朝ごはんを食べて、すぐに出発することにした。

 そりゃあそうだ。すでに死体はないとはいえ、いつまでもあんな所にはいたくない。アンナちゃんもエミリアさんも着の身着のまま連れてこられたようで、さして準備するものもなかった。

 唯一、いくつか果物をポケットに忍ばせた程度である。

 道具もなければ武器もない。それで森を抜けろというのだから、たまげた難易度である。道案内がいるからといっても、いくらなんでもハードモード過ぎやしないか神様よ?

 俺は神様なんて見てもないけど。

 

 そんな訳で、ストームライガー先導の元、俺たちは森から脱出することに決めた。

 

 初めて見る大自然に、最初は気をよくしていたアンナだったが、しばらくすると足が痛くなってきた。当然だ。歩行に適した靴ではないのだから。それになによりも、森の中を歩くというのは、人にとって、だいぶ体力を消耗するのだ。

 箱入りのお嬢様だったのなら尚更だろう。

 それでも俺を離さない所から、もうなんなの恋しちゃうよそんなことしちゃ、とふざけたくなる心境だった。

 まだエミリアの方は余裕がある。

 仕事をしているものとの差だろうな、と俺は思った。


 それでもそこまでは平和だった。

 歩き始めで日も高く、晴れ晴れとしていて、森林もうっすらと光に照らされて、きれいだった。

 

 だからだろう。

 

 ぼうっと疲れたまま歩いていたアンナちゃんは足を滑らせた。


 そう、巨大猪、ギガノブルのやたらと長い尻尾を踏んでしまったのだ。


 後は、想像の通りだ。


「ああっ、もうっ! ごめんっていってるじゃないの!?」

「ブフォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!」

「お嬢様! 通じてません!」

「わかってるわよ!? もうっ! ルティアくらい賢くて話くらい聞いてくれてもいいのに!」

「お嬢様、獣は普通、話しません」

「わかってるわよ!?」


 がくがくと揺れながらも、アンナちゃんは俺を落とさないように手に力を入れる。

 目の前には、植物の蔦や枝やら根っこやらでいっぱいで、とても走り抜けられるようには思えない。

 しかし火事場の馬鹿力というやつだろうか? アンナちゃんはそれでもなんとかこけることなく走っている。

 けれど、避けることのできない枝葉は容赦なく、その幼い肌を傷つける。


「もう! もう! いやぁ! 痛いし! つらいし!」

「お嬢様! 喋ると息がもちません!」

「愚痴らないと泣きそうなんだもん!」

「ですか!」


 息も辛くなっているみたいで、もはや酸欠状態だ。

 どうにか、どうにかして切り抜けなければ……前方をいくストームライガーは、相変わらず振り返りもしない。

 俺が危機的状況に陥るまで、本気で手出ししないつもりだな、あいつ。


 どうにか……か。

 俺のスキルで、どうにか……。

 あ。


『アンナ アンナ』

「ど、したのルティア!? こんな時に!?」

『イイコト カンガエタ オレ ナゲル アイツ シヌ』

「自暴自棄なの!?」

『チガウ オレ カタイ オレ ジブン ウゴカセル スキル アル』

「でも……!」

『イザトナッタラ アイツ イル ストームイライガー イル』


 そう、俺の考えた作戦は単純だ。

 アンナに俺を投げさせる。

 そして、俺は【念力】で飛びつつ【堅牢】で固くなる。

 最後に【流星】で、止めだ。

 なんといっても数々の敵……まだ二人しか倒せてないけど。


「でも、もう、腕が!」


 なんてこったい!? 

 アンナちゃんの悲痛な叫びが俺の上からする。ぽたぽたと汗を垂らしながら、それでも必死に俺のことを離さないようにしているみたいだけど、限界が近いのがわかった。だってぷるぷるしてるもん。この子、腕震えてるし。

 

 ええいくそ!

 ストームライガー! お前しかいねぇ!


(頼む、ストームライガー、俺を蹴飛ばしてくれ!)


『オウヲ ケレト イウノカ デキナイ ソレ』


(ああんもう!?)


 こんな時に忠実な家来っぷり発揮されても困るんだよなあ!?

 

「あ、も、だめ」


 ついに限界が訪れたようだ。

 アンナちゃんの手の力が弱まる。 

 俺が落下を始める。

 なんとかそれを阻もうとして、アンナちゃんの足がもつれる。

 ストームライガーが急ブレーキをかけようとして、地面にブレーキ痕を残して止まろうとする。

 全てがスローモーションに見えた。

 けれど、あと一人、あと一人だけが、俺の声を聞いていた。


『エミリア!』

「お任せを!」


 こけるアンナちゃん。

 放り出される俺。

 投げ出された俺の軌道を変えられるほど、俺の【念力】は強くない。

 それでも。


「いきますよ!」

 

 エミリアの手が俺を捕らえ、その勢いのまま回転し、俺を投げ飛ばす。

 空中で投げ直したのだ。

 

(うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!)


 俺はその瞬間、全力でスキルの操作に力を注ぐ。

 【念力】で軌道を整え、【堅牢】で固くなる。それだけでもちょっとした凶器だけど、さらに使ったことのない【流星】をプラスしてやる。

 ごっそりと身体からMPが抜ける感覚が襲い掛かってくる。

 

 それでも、俺の身体はまさに流星のように、ギガノブルの頭部を捉えたのだ。


 パカァンッ! と快音が響き渡り、猪の頭が砕ける。

 血と脳漿が飛び散り、俺が落下しそうになった瞬間、風が吹いた。

 まるで俺に降りかかる汚れを全て消し飛ばすように、疾風と共にストームライガーが現れたのだ。


 ドゴォ! と大きな音を立てて、ギガノブルの身体が倒れた。


『オウヨ ムチャ スルナ』


(……おめーつえーんじゃーねーかよ!?)


 ぷい、と俺を咥えたまま、ストームライガーはそっぽを向いた。

 いや、あの、俺を離せ。


「いつつ……あれ? 終わったの?」


 鼻の頭を押さえながら、アンナちゃんが立ち上がる。


「ええもう、お嬢様とは比べ物にならない、この私の活躍によって」

「な、なによそれ!? 私だって頑張ったんだから!」

「逃げるのをですよね、それ」

「もー! エミリアきらい!」


 和気藹々とした様子を横目に眺めていると、脳内に言葉が響いた。

 レベルアップか? 

 レベルアップなのか? そりゃあそうだろう、こんな巨大な猪倒したんだから。これまでからわかってるって、次はどんな進化がくるのか楽しみだぜ。

 やっと俺にも、自由に動ける身体がくるってのか?


【ギガノブルを倒したことにより、100の経験値を取得しました。

 ミニゴーレムのLvが上がりました。

 【念力 4】が【念力 5】になりました。

 【堅牢 5】が【堅牢 6】になりました。

 【流星 1】が【流星 2】になりました。】


 …………以上かよ!?


 え、え、なんで!? 経験値低くないですか!?

 どうして!? なんで? 俺の最強物語は?


【注 ギガノブルは魔物ではなく動物の為、経験値は低くなっています】


 こんな時だけ注釈で!?

 えー、そんなぁ……せっかく初めて倒した敵対生物だったのに……。

 うわぁ、メンタルくるわぁ……。




 種族:ミニゴーレム

 名前:ルティア

 年齢:0

 性別:

 称号:【異世界の住人……もの?】【百獣の王】【殺人者】【砕けない心】

 Lv:2

 

 HP:50/50

 MP:30/30

 

 体力:20

 攻撃:16

 防御:28

 魔力:20

 速度:9

 幸運:4

 

 スキル:【堅牢 6】【異世界語 1】【念力 5】【流星 2】【念話 1】

また翌日の12時くらいに更新します!

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