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9 夜明けと朝ごはん

 夜が明けた。

 どうやら私たちは、奇跡的に死ぬことなく夜明けを迎えることができたらしい。もぞ、と身じろぎすると、肩に重さを感じた。ちらと横目で見ると、どうやらエミリアのようだった。


「まったく、従者がそんなことでどうするのよ」


 けど仕方ないのだろう。昨日は本当に色々あったのだ。疲れていているのは、理解できるし咎めるつもりもない。そのようなことをしている暇はないと理解している故に。


「ああ、あなたも、おはよう」


 もぞもぞと胸元で動く存在を感じて、そっと羽織を開けば、やはり夢ではない。昨晩知り合ったばかりの、意思を持つ魔物だ。私が名付けた小さなゴーレム。幸運の象徴にして恩人である、ルティアだ。胸元からじっとこちらを見上げている。


『オハヨウ』

「ええ、おはよう」


 どこか人間っぽくて言動のせいか幼く感じる彼のことを、今ではすっかり信頼してしまっている自分がいるのも事実だ。現に彼は私たちを殺そうとしなかった。ストームライガーと結託して戦ってきたら、きっと私たちは無残に殺されていたことだろう。


「ここからね」


 私は呟くようにいった。

 そうだ、ここからだ。ここからが始まりだ。私は歩き出さねばならない。そうしなければ死んでしまうから。そうしなければ自分を保てないから。

 エミリアとたった二人、そして奇妙な魔物二体の奇妙なパーティだけど。

 それでも私は前に進まなければならない。

 訳もわからないまま死にたくないのだ。


「よぉし!」


 ぱん、と頬を張って気合を入れる。

 そっとエミリアを起こさないように肩から下ろし、立ち上がる。

 馬車のドアを開ければ、そこに広がるのは広大な森だった。少し肌寒い空気。生き物や土の臭いがする。

 傍には切り立った崖があるのが見える。そして昨日の騎士の死体は、もうなかった。おそらく魔物が持って行ったのだろう。

 下手したら、自分もそこに入っていたのかもしれない。

 ぶるりと身体を震わせていると、ドアの傍で控えていたストームライガーが顔を上げる。

  

「あなたも、ありがとう」

「グルル……」


 ちらりとこちらを見た後に、ストームライガーはそっと目を反らした。

 

「あなたは素直じゃないのね」

 

 いって、一歩外に出ると、ぐぅぅううううう……と派手な音が鳴った。自然に、赤面する。振り返ってみればストームライガーが目を丸くしてこちらを見詰めているのが見えた。

 両手の中から声が聞こえる。


『オナカ ヘッタ?』

「……だって昨日からなにも食べてないんだもの」


 小さく呟くようにしていった。

 どこか面白そうにルティアが小さな目で見上げてくる。

 やめて! そんな目で私を見ないで。











 いやあ、お腹の鳴る音でも、女の子のものはいいものだと俺は思うよ。赤面、ごちそうさまでした。

 それよりも、なるほど、空腹は確かに問題だわ。

 俺はこっちに来てからお腹が減るって感覚はないけど、死活問題だったことは覚えている。


(なあストームライガーよ)


『ドウシタ? オウヨ』


(朝ごはんというか、なにか食べられるものはないだろうか?)


『アル コノモリ タクサン』


 ほうほう。

 確かに、俺が上にいた時はお供え物チックにたくさんの食料が供えられていたのを覚えている。


(どこにあるんだ?)


『オク イッパイ』


 言葉が少ない。

 というか、俺の念話Lvが低いのか。

 理解できる言語じゃないからなのか不明だ。人間の言葉はよく聞こえる辺り、俺が元人間だってことを語っているのかもしれない。

 

(頼む。ちょっといくつかとってきてくれないか?)


『ニンゲンノタメ?』


 この質問は少し意地悪だ。こいつはわかっていていっているのだ。見上げる瞳は、やはり強い意思を感じる。主の為ならと思っている。けれど人間はどうだと思っているのがわかる。

 

(……そうだ)


 俺は素直に答えた。


『ニンゲン オレタチ スミカ アラシタ』


 いつの話かはわからないが、こいつらは住処を追われてここに来たといいたいらしい。

 どこにでもある話だ。開発の進んだ地域なら、どこにでも。


『ケド オウノタノミダ』


(行ってくれるのか?)


『オウ ハジメテタノミゴトシタ オレ ウレシイ』


 なんか悪いことしたみたいじゃないか、そう嬉しそうに言われると。意思疎通が取れなかったんだから許して欲しい。

 グルル、と唸りを上げて、ストームライガーは立ち上がると、のそりと森の中へ入っていってしまう。


「どうしたの?」

 

 上から頭に疑問符を浮かべたアンナちゃんが問いかけてくる。

 

『アサゴハン トリニイッタ』

「アサゴハン……朝ごはん!? それ、私たちの為に?」

『ソウ』

「わ、わわ、やっぱりお利巧さんだよこの子!」


 自分の腹の虫を聞かれたのもなんとやら。今ではすっかり嬉しそうに、俺を抱き締めてくれる。

 役得というかなんというか。こんな時でもそんな風に考えてしまう自分がちょぴり悲しくなる。

 












【現在のステータス】



 種族:ミニゴーレム

 名前:ルティア

 年齢:0

 性別:

 称号:【異世界の住人……もの?】【百獣の王】【殺人者】

 Lv:1

 

 HP:45/45

 MP:20/20

 

 体力:17

 攻撃:13

 防御:25

 魔力:14

 速度:6

 幸運:3

 

 スキル:【堅牢 5】【異世界語 1】【念力 4】【流星 1】【念話 1】



 ミニゴーレム:

 堅牢な身体を持つミニサイズのゴーレム。気まぐれな錬金術師が手慰みに作ったりすることもあるらしい。戦闘力は皆無に等しく、野生で発生したとしてもすぐに転がり落ちて砕けてしまう。その砕けた欠片から、新たにミニゴーレムが発生することもあるが、生き残るものは少数である。せめて1メル程度のゴーレムにでも成長できればその先はあるかもしれないが生き残った者はいない。

 街の出店で売られていることもあるので、愛玩用の生物として人気が高い。

 エサは必要なく、ただ可愛らしいという意味で。

 落とすとすぐに割れてしまうので、飼育には注意が必要である。

スキル欄に【念話 1】を入れ忘れていてたので追記しました。

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