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オールドヒーロー

作者: つちぐり

 俺はヒーロー、今日もマスクとスーツに身を包み、怪人たちと戦う。子供たちは俺に憧れ、市民たちからは称賛の声を浴びる。自慢じゃないが世界を救ったこともある。

 でも俺は気づいてしまった、自分は衰えてしまった。

 仲間とともに敵と戦い続ける変わらない日常。そんな日を積み重ね続けた、そのうち子供ができ、成人し、結婚して孫もできた。息子はヒーローとしてデビューもした

 そうしているうちにヒーローやってもう五十年を過ぎた。


 若かりし頃にはなかなかアクティブな趣味が好きであったが、とっくに還暦を過ぎた俺には庭いじり、そしてかわいい孫たちを見るのが何よりの趣味になっていた。

 昔は一度のジャンプでビルを越え、摩天楼を駆け抜けたが、今では自宅の階段すらきつい。

 俺にヒーロースーツとマスクを拵えてくれた博士はとうにいないし、その昔悪の秘密結社から救い出した妻も一昨年ポックリ逝った。元相棒は今やすっかりいいじいさん、この前また関節を悪くしたらしい。久しぶりに悪の秘密結社へ行ったら、構成員たちは社員として二代目のもとまじめに働いていた。先代であり我が生涯のライバルも今や隠居の身。俺の同期の奴らはみな引退した、息子夫婦にも心配だからと引退を勧められた。


 それでも俺はヒーローを続ける、俺のいるヒーロー組合の組長はそいつが若手の時俺が教育をしていたやつだ、息子も今や看板ヒーローだ。もはや俺は過去の遺物に他ならない。

 最近怪人なんかが出ても、全部ほかのやつが先に倒してしまう、遅れて現場についた俺にみんな一律に休んでくださいだの若い者に任せろなんて言いやがる。

 ほかにやることもないから最近の俺の仕事はもっぱら河川敷のゴミ拾いだ、朝早くに起きてヒーロー姿に着替え河川敷へ向かい、そこでまだ冷える中パトロール兼清掃作業という日々、正直もう辞めたいと思うときが何度もあった、ほかのやつらみたいに朝から晩まで家でゆっくりすればいいんだ、そんなことを考えると余計寒さを感じた、俺は寒いとつぶやいた。



しかしそんなある日事件は起こった、何と子供たちが何者かにさらわれたらしい、息子やほかのヒーローたちにも一向に行方がつかめない。

 久しぶりに来たスーツは懐かしくもぶかぶかだった。俺はとある場所へ向かった。確信はあった、こんなに多くの人間の目を欺くことのできるのは奴ぐらいだ。

 そこに案の定奴と子供たちはいた、昔俺が悪の秘密結社と最後の戦いを行った連中のアジト跡だ。

 そこには一人の見慣れた老人がいて、その奥で子供たちがおのおの遊んでいた。

 「よく来たなヒーロー子供たちを返してほしくば、この悪の帝王と勝負だ」

 「ふん、お前など当の四十年も昔に倒したわ、しかしリベンジというならこの正義のヒーロー受けて立つ」

 「しかしその前に」

 「うむ」

 「久しぶりだなぁ元気だったか」

 「この通り今もバリバリ現役よ、それよりお前こそ今更世界征服か」

 「この前河川敷でお前がヒーロー活動しているのを見て、血が騒いだんだよ」

 「なんだ見られていたのか、あんなもの」

 「それより決着をつけよう、ヒーローよ今こそ雌雄決するとき」

 「うむではいくぞッ、最初はグーじゃんけんほいっ」

 「くそっ、世界征服はまだ少し足りんか」

 「バカ言え俺がいる間はそんなことはできんのだ」

 ――――おまえは完全に包囲されている無駄な抵抗はやめて投降しなさい

 「邪魔が入ったな、さて行くか」

 「どこに行こうというんだ」

 「なに、正義のヒーローたるもの悪は見過ごせん、二度とこんなことせんようにうちで授業してやる」

 「仕方ない敗者はすべて受け入れるものよ、せっかくだからこの酒を授業料として持っていこう」

 ――――おいだれか出てきたぞ、ってなんだあの老人二人

 「俺が正義のヒーローだ」

 「我こそはその敵である悪の帝王だ、そこな愚民ども子供たちは中で遊んでおる、知らない人について行ってはいけないとせいぜい言って聞かせることだ」

 「諸君任務ご苦労、この者は俺が責任を持って護送する」


 周囲があっけにとられる中俺は帝王様と二人その場を後にし、河川敷を歩きながらお互い話をした。

 俺には孫が二人いることや、実はそいつの孫と俺の孫の一人が同級生でよくケンカしているとわかり、お互い血は争えないなと言って笑いあった、俺はもうヒーローをやめようかとも思っているということも相談した、すると悪の帝王は少し黙った後、これで俺は世界征服を気兼ねなくできるなんて言い出しやがった。

 やれやれまだ当分休めそうにもないな、それに考えてみれば引退なんていつでもできるじゃないか。

 俺は明日もまたヒーローとして出動しようと思った。

 そして小さく帝王様にありがとなといった、それを聞いた友達はとなりでニッコリ笑っていた。

 河川敷の土手のタンポポが咲いていた、それにしても暖かくなってきたな。

 俺は一言そうつぶやいた。




このたびはこんな拙い文章を最後まで読んでいただきありがとうございます

少しでも面白がってもさえたなら幸いです

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― 新着の感想 ―
[良い点] 寒い夜にぴったりの温かい作品でした。 [一言] これからも楽しみにしております。
2016/01/25 02:37 退会済み
管理
[良い点] とても温かい気持ちになれる作品でした。 「ヒーローも悪人も歳を重ねると苦労するのですね」と感じました。 [一言] これからも執筆頑張って下さい。
[良い点] ほっこり心温まる話です。 [気になる点] 本来「。」がつくであろう文章の流れだと思うところが「、」であるように感じました。意図があれば申し訳ありません。 [一言] 小さな少年なら誰もが憧れ…
2016/01/21 07:38 退会済み
管理
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