私の愛しい人
やっと書けました_:(´ `」 ∠):_ ...
誤字脱字はゆっくり訂正していきます。
楽しんでいただけたら幸いです。
食事が出来たので呼びに来てみれば、食事の用意をする前まではソファに座って本を読んでいたのに一体どこに行ったのかしら?
「庭かしらね?」
まずはそっと足音立てないように庭が見える窓からユグノーを探さないと……ってやっぱり居たわ。
庭の少し奥、草をむしっているユグノーを見つけた。まるで隠れるかのような位置、でも私は貴方をすぐに見つけることが出来るのよ。だけど言わない。これは誰にも内緒の話。
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「ユグノー!……もう!どこよ!!」
わざと大きな声で少し怒鳴り気味に愛しい人の名を呼ぶ。ドタドタと足音も立てて、庭を見なかった事にしてガラス扉の前を通り過ぎる。
ちらりと窓から庭を見てみれば、一度顔をあげたユグノーは溜息をついて作業に戻っていた。自ら出てくる気は無いようだ。
私は再び、部屋中をユグノーの名を呼びながら走り回ってみた。もちろん、庭に近い部屋のみドタドタと足音も立てて。
二階に上がって、そっと窓から庭を見やる。作業をしている手が止まって虚空を見ているユグノーを見て、慌てて庭に向かう。
「ユグノー!!やっと見つけたわ!どうして、いつもいつもいつもいつもいつも!!!!居なくなるのよ!!」
庭に出てユグノーに呼びかける。『私がどれだけ探したと思っているんだ!』という態度で、ひとつも悪くないユグノーを責める。『居なくなる』のではなく、『わざと見つけられない』私が悪いのだけれど、気にしない。
ユグノーは私をまっすぐ見て、『またか』という顔をする。
結婚して40年以上が過ぎ、未だに自分を探し回る妻をこの人は嫌にはならないのだろうか。
「俺は別に、逃げも隠れもしてないぞ?セシルがさっき呼んでた時もここに居たが……」
「!!なんですって?それなら、さっき返事してくれれば良かったじゃないの!!」
「俺がここだと伝えれば、お前探すの止めるだろ?」
「見つければ探さないわよ。」
「だから、あえて無視して草むしりしてたんだ。」
「ばっ、ばっかじゃない!!」
こんな私を肯定して、優しく包んでくれる旦那様。さっきの虚ろな顔が気になったけど、私の事を嫌がっての事ではないみたいで良かったと心で思う。何か考え事でもしていたのかしら?
昔、一度だけ本当にユグノーを見つけられなかった事がある。何時もならすぐに視界に入る姿が一度も見えなくて、必死になって探し回った。
ユグノーの同僚達は、『またか』と言うような顔をして見守るだけで居場所を教えてはくれない。その中には、私の顔を見て苦笑いしてる人達もいた。その理由は後日、友人から聞かされて判明したのだけれどその時の私には分かる訳もなく、最終的には半泣きになりながら小さな声でユグノーを呼んでいた。
すると背後から探し求めていた声が私を呼んで、思わず抱きついていつもより覇気のない声で、泣きそうになりながらいつもの言葉を呟いて額をユグノーの胸に押し当てた。
『ユグノー、どこ行ってたのよ』
まさか、ユグノーがわざと隠れて居たなんて思いもしなかった。
けれど、あの日を境にユグノーは少し変わった気がするわね。私が探す様を楽しむようになったみたいだった。だからこの歳まで『実は貴方をすぐに見つけることが出来る』とは言えずに来たのだけど……
子供達が大きくなると、私とユグノーのやり取りに疑問を持つようになった。
『母上は何故、ほぼ目の前にいると言っても過言ではない父上を見つけられないんですか?』
一番上の息子がそうユグノーに問い掛けているのを偶然聞いてしまった。ユグノーがどう思っているのか、聞くチャンスかもしれないとその場にとどまり返事を待っていた。
『俺にも分からん』
苦笑混じりの声で、息子の頭を撫でながら返していたことを思い出しながら、ユグノーの顔を伺い見る。
「それより、俺を探してたんだろう?用事はなんだ?」
「お昼ご飯ができたから探してたのよ!!」
「もうそんな時間か」
私をなだめ透かしていた手を留めて、探していた理由を問うユグノーに、本来の目的を思い出し怒ったふりをして告げる。そして空を見上げ陽が真上にあることを確認する。私は怒ったふりをしたままの勢いで先に家の中へと戻り、後から私の御機嫌をとる為に優しく声を掛けてくれるユグノーにニヤつきそうな顔を抑え幸せだなと実感したのだ。
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「俺にも分からん」
苦笑混じりの声で、息子の頭を撫でながら返した答えを聞いて私は考えていた。
困っていただろう。迷惑だったかもしれない。でも、今まで面と向かって『いい加減にしろ』とは言われてないし、見つけた後は嬉しそうに抱き締めてくれるからユグノーの中では消化できていると思っていたのだが……と思い自室に向かって歩いていると背後から小さな足音がして振り返ると、息子が頬を赤くして私に向かってきていた。
「母上は、父上のこと嫌いなんですか?」
「何故?」
「いっつも、父上の事見つけてあげないから……」
「ねぇ、ユージン。これは内緒よ?」
幼い息子になら言っても大丈夫だろうか。ずっと隠してきた私の思い。
「本当はちゃんと、お父様の事は見つけられるの。でもね、お母様はお父様が大好きだから……だからわざと探すのよ。」
「えぇ?」
「ふふっ、今はまだ分からなくてもいいわ。だけど、楽しんで見ていなさい。お母様の顔は怒っていてもお父様の前に行けば赤くなるから分かりやすいのよ?」
恥ずかしいけれど子供に誤解されるのだけは嫌だから、初めて告げるユグノーへの態度にたいする本当の事。
顔が赤くなって恥ずかしいから照れ隠しだなんて誰も思わないわよね?