第1章
「あー.....まいったな。」
本部を出てわずか15分、俺は見知らぬ土地に立っている。生い茂った木。色とりどりの花。それに群がる虫。先を見据えても木。木。木。
「あちゃー迷子~?」
背後から聞こえるおっとりとした青年の声。
時は少し前にさかのぼる。
本部を出ようとしたとき、「ーんくん!」と呼び声がかかった。おっとりとしたおばさんのような、でもハッキリした声で。
寝不足で遂に幻聴までが聞こえてきたのか、はたまた食堂のおばさんに朝御飯を食べろと呼び止められたのかとスルーしていたら、勢いよく腕を引っ張られた。
「っ!何すんだよ.........。」
そこにいたのは俺より少しばかり身長が高い同期のやつだった。名前はカルーラ。
「えーっと、蓮君だよね?君方向音痴だって聞いたから今日いっしょに行けってマスターg.........」
「必要ない。」
真顔で断る。
「そ、そんなこと言わないでよ(汗 命令なんだからぁ」
はぁ。と大きなため息を一つ。どうせここで何度も断ってもこいつは粘るだろう。面倒事は嫌いだ。ここは諦めるのが賢明か。
「........勝手にしろ。」
そして今に至る。
「あちゃー迷子~?」
物作りが得意なドワーフ族の特徴である血を連想させる赤い髪、金のペンダント、赤いシャツに黒のズボンに仕事服をマントのみ羽織っている。(ちなみに俺はちゃんと着ている)性格はいたってマイペースでおっとりしている。
.......表向きは。
そう。こいつは猫かぶり。
それも1匹どころじゃない。
「これだから蓮はいつまでも一人行動させてくれないんだよ~wま。僕は困ってる子見るの好きだから道教えてあげないけどね~」
こいつがついてきた理由はそれだけじゃないんだが。
こいつは俗に言うドSという部類だ。
言葉で責め、相手が困り苦しむ顔を見て楽しむ、そういうやつだ。
いつもなら気にも止めない言葉だが、ただでさえ寝不足で苛立っている今の俺にとってはこいつの存在自体がイライラする。
黙っていれば格好いいんだがな。
何を言ってるんだ俺は。
平常心。平常心。
「....行くぞ。」
「え、道わかるの?」
「.........勘だ。」
「....く(笑)最っ高w」
こんな馬鹿に付き合ってたらキリがない。早いところ魂を回収して帰ろう。そして寝よう。
蓮はそう心に決めたのだった。
にゃあ
「..........なにここ。」
なんとか森を抜けたどり着いた場所には猫屋敷となっている一件の小屋があった。
赤茶色のレンガに赤い屋根、黒い門にはいくらか前の英国を連想させる彫刻が掘られている。そのどれにも蔦が絡み付き、いたるところに猫が住み着いている。
「地図ではここになっている。おそらく、だが。」
「は!?地図持ってたのかよ!なんで迷うんだよ!」
「なんだよ。お前は場所わかってたんじゃねぇの?」
「わ、わかってたよぶぁーか!」
確かに地図はここを指している。とても人が住んでいるようには見えないが。
回りにはラフレシアらしきものも咲いている。
二人は意を決して重い門を開け、中へと入っていった。