表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Si je tombe dans l'amour avec vous  作者: 篠宮 梢
第六幕:決別する過去と、これからの未来
90/97

♪、89 父の最愛

 仕事から帰ってきた私が見たのは、パパ改め、お父さんと智が、同居してる糸帆さんの寝顔を覗き込んでいる場面だった。


 それを少し注意した後、再会を喜んだ私は、どうしてお父さんがここにいるのか疑問に思った。その素朴な疑問を解決してくれたのは、お父さんだった。


「離婚の話をしている時に、智君が家に訊ねてきてくれてね、折角だから久しぶりに話をしようと言う事になって、ここに連れて来て貰ったんだよ。」


「え?離婚されるんですか?お義父さん」


 お父さんの離婚と言う言葉に敏感に反応したのは、実の娘の私ではなく、智の方だった。私はと言えば、お父さんの気持ちが少しだけ判るような気がした。きっとその気持ちは今の智になら判ると思う。


 お父さんが今も大切に持っているだろう、お母さんの写真。


「お父さんは、香也乃さん、――お母さんしか愛せないのよね?もう、苦しいんじゃないかな。お母さん以外の人と一緒にいるのが。」


 心を偽るのは凄く辛くて痛くて悲しくて。

 心が引き千切られるんじゃないかと思うくらい苦しい。


 心を偽って生活する苦しみは、心身ともに疲弊させる事を私は体験して知っている。


「無理、しなくてもいいんじゃない?お母さんも許してくれるよ。仕方ないわね、先生はって」


「吉乃・・・」


「お母さんも素直じゃなかったんじゃない?私と一緒で。」


 似ているのならきっとそうだと思う。

 

 幸せになってと望みつつ、ずっと自分の事だけを思っていて欲しいと言う矛盾する本心。

 どれも真実だけれど、出来ればずっと自分だけを思っていて欲しいのだ。女と言うモノは。


 お腹をゆっくり撫でていると、ポコリと蹴られたような気がした。


「この子もお父さんの想う通りにしたら?って言ってるみたいよ。」


 うふふ、と声を立て笑えば、お父さんは小さなパスケースを見て、懐かしそうな眼差しでそれを見ていた。


 智はそれを横から覗き見て、ビックリしていた。


「そっくりですね・・・。吉乃と。」


「そうだろう?ここまで似ていたのに、親子だと気付かなかったなんてね。私は何処か逃げてたのかもしれないね」


 お父さんの最愛の人、それは私を産んでくれた香也乃さんだけで。

 無理に忘れなくてもいいと思う。


 だって・・・。


「あなたの最愛は私だけで良いって、お母さん書き遺してるもの」


 私のこの言葉は、二人に聞こえてないようだったけれど、それはそれで良かった。


 お父さんの最愛の人はお母さんだけで良い。


 私は小さな欠伸を噛み殺し、目を閉じた。 


   

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ