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Si je tombe dans l'amour avec vous  作者: 篠宮 梢
第六幕:決別する過去と、これからの未来
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♪、88 義理の息子と③

 車が止まったのは、大きく、立派な外見の豪邸だった。

 車が止まったのなら、そこが自宅なのだろう。しかし、大き過ぎはしないだろうか。


 私と智君は車を降り、家を見上げた。その間に運転手は車庫に行ったらしく、車の形跡は跡型もなかった。


 仕事が早いな、と、内心で感心していると、智君が懐かしげな声音で呟きを洩らした。


「ここは昨年売却した筈の家なんですが、どうやら父さんが裏に手を回したらしくて。」


「・・・広いね。」


 広いとしか言いようがない。

 こんな広い家で一人でずっと留守番をしていたら、誰だって寂しくて病気になってしまうだろう。


 私の少し非難めいた眼差しに気付いたのか、智君は後悔の笑みと、複雑な心境を明確に宿した瞳で、再び家を見上げた。


「吉乃が住みたいと言わなければ、ここに戻ってこようとは思いませんでしたよ。」


「智君、君も相当に甘いね。もしかすると昔の私より甘いかもしれないよ。」


「いえ、俺は甘くなんかないですよ。きっと吉乃の方が俺に甘いんです。甘くて、優し過ぎるから、俺に我が侭を言ってくれるんです。苦手な嘘までついて。」


 似ている。本当に良く似ていると思う。

 私が香也乃と一緒にいる時と全く瓜二つなほどに、状況や心境が似ている。


 カチリ、と、玄関の鍵を開錠した智君は、重い吐息を漏らした。


 顔色を見れば少し蒼いので、疲れている事が判る。それでも娘の前では何事もなかったように振る舞うのだろう。私もそうだった。


 家に上がる様に促され、足を踏み入れれば、微かに人の気配が感じられた。智君もそれに気付いたのか、人の気配がある部屋の方へとそのまま足を進めた。


 慎重に、それでも何かを気遣うかのように。そして辿り着いた部屋にいたのは、すやすやと眠っている、見た事のない女性だった。でも、それは私だけだったようで。


「なんだ、糸帆さんか。」


 ホッとしたような声音に私は彼女が不審者ではない事を知った。おそらく知り合いなのだろう。それもかなり親しい間柄の。


 そう思い、良く良く彼女を観察してみると、妙にお腹が膨れている事に気付いた。もしかしなくとも、彼女は妊娠しているのだろうか。それも・・・。


「彼女は、糸帆さんは紘人の奥さんになった人です。今、同居してるんですよ。この家は元から広い作りなので。」


 決して自分の子ではないと、それとなく先手を打って来た彼は、自分の着ていた夏用のスーツのジャケットを脱ぐと、眠っている糸帆さんと言う女性に、その脱いだジャケットを静に掛けた。


「どうやら起きそうもないので、別の部屋に行きましょうか。」


「そうだね」


 そうしようと同意した時だった。その如何にも怒っていますと言う様に、冷たく、鋭い声が降ってきたのは。


「何してるの?」


 振り向かなくても、声の主は解かっている。それは智君も同じらしく。 

 恐る恐る背後へと振りむけば、そこには少し膨らみ始めたお腹を抱えた娘の吉乃が立っていた。


 そんな娘に、挨拶をしようとした時、その雷は落ちた。


「糸帆さんのお昼寝の邪魔したらダメでしょ!!」


 その雷は、徹夜明けの智君の頭に響いたらしく、私はそんな義理の息子の智君と並んで、暫く雷神と化した彼女に仲良く怒られていた。


 そしてその後は『逢いたかった』と言われ、二人ともに泣き付かれ、困り果てたのだった。

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