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Si je tombe dans l'amour avec vous  作者: 篠宮 梢
第六幕:決別する過去と、これからの未来
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♪、80 堕ちた女

やっと、コイツを裁ける。


長かった・・・。

 2月7日火曜日。この日は私にとって、生涯忘れる事の出来ない記念すべき日となった。


 2月ともなれば、世の中の人達の興味・関心などは、本来なれば、すぐそこに迫っている愛のイベントに向いている。けれど、その年は例年と違っていた。


「すみれ先生、お客様です」


 保育所のそこそこ広い庭で子供たちと追いかけっこしていた私は、同じく子供たちの世話をしていたすばるちゃんに来客を告げられ、はて、と、首を傾げた。


 灯の処の週刊誌が出てから早一週間。


 発売初日こそは多くの取材陣に囲まれ辟易していたが、最近は落ち着いたのか、それとも関心が少なくなったのか、私の周りは以前の様に静になっていた。それが何故今になって・・・。


(考え過ぎよね。灯かもしれないし。)


 昨夜も灯と連絡を取り合っていた私は、すばるちゃんが言う「お客様」が、灯だと思っていた。だから特に何も心構えもせずに、子供たちの相手を他の先生に変わって貰い、お客様が待つと言う場所へすばるちゃんに案内して貰った。


「貴女が 平 吉乃 さんですね?」


 でも、そこにいたのは灯ではなく、数人の、明かに普通じゃない男の人達だった。それが判った途端、身体が無意識の内にその場で固まってしまった。


「あぁ、すみません。我々はこういうものです。」


 その私の様子に、その人達は慌ててスーツの内ポケットから、よくテレビドラマで見る、例の手帳を取り出し、私の眼前に提示した。


(ほ、本物!?)


 その日は目の調子が悪く、眼鏡だった為、何度も瞬きを繰り返し、その提示された手帳を見直し、充分納得してから、私はある程度の距離を保ちつつ、彼らの話に応じた。


「刑事さん達が、私に何の用でしょう?仕事中なので手短にお願いします。」


 それでなくとも、大人数の男と言うだけで気分が優れない。


 自分で自分を抱き締めるようにして、自分達警察に向き合う私に、彼らは困惑しながらも、今回のいきなりの訪問の理由を述べた。そして、それを聞いた私は言い様のない感情を覚えた。


「彼女は今朝、とあるクラブハウスで麻薬所持の現行犯で逮捕されたのですが・・・、」


「その、彼女には、他にも余罪がいくつかありまして・・・。」


 言い難いのか、何度か口を開いては閉じを繰り返し、やがて、彼らは。


「城花 万季 さんを訴えられますか?」


 

 ――城花 万季。


 私はその女の名前を聞いただけで、どうにかなりそうだった。現に名前を聞いただけで心臓がドクドクと早鐘を打ち始める。


「貴女が訴えなくても、彼女は法的に裁かれるでしょう。ですが「刑事さん」」


 私は胸元の服をぎゅっと鷲掴み、彼らの言葉を途中で区切り、震えながら、それでも確実に自分の思いを告げた。


「もしそれが、真実だとしたのなら、私は彼女に、我が子を殺された側です。赦せるはずもありません。それに彼女は、自分の子を虐待する様な人です。誰が彼女を守ろうと、私は彼女を許す事は決してありません。示談を提示されても応じません。」


 私のこの言葉に、刑事さん達は何故かひそひそと話しあい、そして信じられない事実を私に教えてくれた。


 それを聞かされた瞬間、私は涙が出そうになった。でも。


「それでも、私は彼女を訴えます。どうか、よろしくお願いします。」


 頭を深々と下げ、彼らに全てを託す。私のその態度に、彼らはしっかりと頷き、帰っていった。



 そして、その日の夕方、そのニュースは全国に一斉に発信された。


 それは女優兼モデルの、城花 万季の終わりを告げるものだった。

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