♪、69 友の為に
お久しぶり、七海です。
「良かった・・・。」
透明のガラス越しに見える、今は容体が安定して、深く眠りについている吉乃。
その吉乃の傍にいるのは、その世界では『神』とまで呼ばれ、多くの人達から崇められている医師と、私の勤めている会社の社長、そして冷たそうな風貌の男の人の三人。
私がここに居合わせたのは、本当にただの偶然だった。
もし、その偶然が無ければ、今頃吉乃の命はなかったと教えられた時には、私は本当に声を失ってしまうのではないかと思うくらい驚き、ショックを受けた。
あの日以来、会社から姿を消した吉乃。
社長に拒絶され、激しく傷つき、幼児退行してしまった吉乃。
それでもなんとか立ち直り、漸く幸せになれるんだ、と、幸せになってみせると、私に言いきっていた吉乃。その吉乃が人為的流産。そしてそのショックから心肺停止。
私に迷ってる暇はなかった。気付いた時には看護師に縋りつき、必死に頼んでいた。
『私の血を、私の血を使って下さい。お願いします、お願いします。先輩を、吉乃を助けて下さい!!』
私をありのままに受け入れてくれた吉乃。
私がどんなに仕事で失敗しても、決して匙を投げなかった吉乃。
例え自分が悪くなくても、代わりに怒られ、詰られてくれた吉乃。
女としてバカにされた私を、自然に助けてくれた吉乃。
チャンスはいくらでもあったのに、中々素直になれなくて、それでも、漸く勇気を出して、やっと友達になれたと思っていたのに。
私の懇願に負けたのか、それともそれほど輸血が必要だったのか、看護士さんは私の血液型を確認するなり、輸血を開始した。
そして数十分後、もう一人の輸血提供者が入ってきた時には、私の輸血制限量はギリギリの所まで来ていた。
本当なら、私の血液を全て吉乃に上げても良かった。
でも。
ギュッと、左ひじを右手で強く掴み、私は回想を止め、ふらつく身体を無視し、ひっそりと病院を出た。
空からは、清らかな雪の結晶が大地へと降り注ぎ、一面を白銀の世界に染め尽くそうとしている。
それはまるで、何かを侵食しているかのように思わせた。
「許さないんだから・・・っ、」
意図せず知ってしまった吉乃の過去と、吉乃の悲劇。
その引き金になった家族や、吉乃を邪魔に思っている女は、今ものうのうとこの世に存在している。
その原因となった奴らを赦せない。
赦そうとも思わないし、思えない。
もし億万が一にもないけど、吉乃が許したとしても、私が許さない。
私が出来る事は限られている。
でも、やらないよりはやった方がマシ。
私は胸の奥底に仄暗い炎を宿し、揺らめかせ、ある男に連絡を入れた。
全ては得難き友の幸せの為に。
その為なら、私は魂に限らず、身体、髪の一本さえ残さず、悪魔に売り渡す。
でも心のどこかで、それを寂しそうに笑うもう一人の私がいたのも確かだった。
時間軸としては、クリスマスイブの前日。