♪、68 仕組まれたスキャンダル
漸くです。
だいぶ元の話とは変わりましたが、大筋は変わってない筈・・・。
今年も残りあと僅かとなった12月30日、私はその日、マンションで一人で留守番をしていた。
智はと言えば、仕事の面接がある為、朝早くから部屋を出て行った。
幾ら二人に充分な貯金があるからと言っても、それはそれ。それに一日中二人で何処にも行かず、マンションに閉じ籠っていたら、近い内に派手に喧嘩してしまう恐れもあった。だから渋る智を一日がかりで布団の中から説得して、経験を生かせるレストランか、小さな洋食屋さんの調理師の仕事をする様に進めた。
智は最初こそのらりくらりと話を避けてはいたけど、私の強固な意志が本気であると解ったのか、それならばと、絶対残業はしないと約束してくれる店で働くと言ってくれた。その面接が今日だった。
今時、そんな店あるワケないのにねぇ~?
呆れてモノも言えない位、今の智は私に過保護だ。時折、本当に妹か子供扱いされるので、私は智の子供じゃないと言えば、子供にこんな事はしない、と、シラッとした顔で私の胸を軽く揉む。その手付きは相当馴れていて、私は簡単にそれに呆気なく陥落した。
昨日もそうだった、と、思い出した所で、インターフォンが鳴った。きっと智だろう。私はなんの疑いもなくチェーンと鍵を開け、玄関の扉を開け、そのままその場で固まった。
目が眩むほどたかれるカメラのフラッシュと、私に向けられるマイクの多さ。それにあれは・・・。
すぅーっと、体中の血液が冷えていくような気がした。
「貴女が綾橋さんの愛人ですよね。」
「父親と息子の二人を股にかけたとか」
「奥様に悪いとは思わなかったんですか?現に息子さんの奥様はショックのあまり倒れられたとか。」
私を攻め立てる人達の目が、私の心を深く抉り、貫く。その傷からは目に見えない血が一気に流れ、溢れ出す。
そんな私に容赦なく向けられる言葉の刃。
誰も助けてくれない。誰も私を・・・。
泣きそうになり、涙が零れると思った時には、既に涙が零れていた。それを非難がましく見返し、映像に収める人達。
私じゃない、私は愛人なんかじゃないと、言いたいのに言えない。
「泣けば許されとでも?」
「貴女に泣く資格は無いかと、」
責め立てる取材陣の言葉が不意に途切れたと思えば、私の足に温かい温もりがピッタリと寄り添っていた。一人は万菜ちゃんで、もう一人は。
「すみれ先生をいじめるな!!」
両手を広げ、私を守る様に小さなバリケードになってくれているあやめちゃん。
あやめちゃんは私を部屋に入る様に言うと、更に大人数の大人たちに喰って掛った。
「ヨワイ者いじめするなんて、あやめ達よりこどもみたい。ね?べんごしのお兄ちゃん?」
そのあやめちゃんの言葉に、私は無意識に言葉を発していた。
いつもいつも、私が苦しい時に現れ、そっと助けてくれた、優しいお兄ちゃんの様な人。
急にいなくなった時は、裏切られたんだと思っていたけれど。
「ひろ君!!」
私のこの言葉に、彼は驚きと懐かしさの感情を瞳に宿し、大丈夫だと、あの時のままの笑顔で笑ってくれた。
彼は、いつでも私の傍にいてくれた。
智と同じくらい、いつも私の傍にいてくれた。なのに私は。
「積もるお話は後にしましょう。」
暗い思考に沈みかけた私を、強引にマンションの部屋にあやめちゃんと万菜ちゃん事押し込み、一人で押し掛けてきた報道陣らの相手をすべく、向かいたった。
う、また美味しい処を取られた智・・・、哀れ。