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Si je tombe dans l'amour avec vous  作者: 篠宮 梢
第五幕:信じあい、助け合い、支え合い、愛し合うと言う事
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♪、66 明かされる、過去②

続き

 ――姪の万菜は、俺が引き取る・・・。


 ちょっと待って。

 何がどうなってるの?


 智の衝撃的な告白(世間では激白と言われているモノ。)に、私の頭は、膨大な情報が処理しきれなくて、破裂寸前にまで追い込まれた。


 万菜ちゃんのパパが、智のお兄さん・・・?


「智の、智の子じゃ、ない・・・?」


 あははは、これは笑うしかない。

 笑うしかないでしょう。


「嘘つくなら、もっとまともな嘘つけよ。」


「嘘なんかじゃない。万菜は俺の姪だ。」


 心の声に応えが帰り、ギョッとした私が見たのは、智の何とも言えない、顔。と言うか表情。


 それは泣きそうな顔と、信じてくれと必死な顔を足して、更に私だけを愛していると言う眼差し・・・。



 うん、ひと先ずその瞳は止めて貰いましょうか。後で相手してあげるから。とりあえずは、最初から話を聞かないと私は信じられない。


 もう無償で信じられるほど、私は強くも逞しくもないのだから。


 私のその無言の要求に、智は私の膝を数回撫で、「笑うなよ?」と、念を何度か押してから、非常に言い悪げに、まるで蚊の様な如き声音で私の耳元で呟いた。


 その言葉に、私は眉を思いっきり上げた。そして。

 

「ウソ、それこそ嘘よ!!だって、現に私、妊娠したじゃない!!」


 そんな、智が、智が、この智が・・・!!


「EDだったなんて、大嘘よ!!」


「本当の事だ!!だから最初の時は・・・っ」


 私の非難めいた大声に、智もつい声を張り上げ、そして、顔を真っ赤に、それこそ鎖骨から耳まで染め、私から目を逸らした。


「学生の時からそうだったんだよ。でも、直す必要が感じられなかったから、吉乃と結婚するまでは治療は受けてなかった。だから、俺の初体験は・・・、吉乃だ。」


 こんな告白、誰が予想していただろうか。



 シリアスな雰囲気よ、空気よ、お前らは仕事を放り出し、何処へとんずらこきやがった!!



 私が内心で口汚く罵っていると、智は、だから、と、なおも赤裸々なカミングアウトを続けていた。


「だから吉乃が初夜を拒否してくれた時は正直助かった。」


「・・・・・・・、」


「やめてくれ、そんな目で見ないでくれ」


 信じられなくて、じとぉーっとした目で智を見れば、智は降参だとばかりに溜息を吐いた。そして信じられないのなら証拠を見せてやる、と、私を膝の上から下ろし、寝室にしている洋室に行き、透明の書類ケースを持ってきて、再び私を自分の膝の上に乗せ、器用に書類ケースから一枚の紙を取り出し、私に見せてくれた。


 それは紛れもなく病院の診断書で・・・。


「休みの日に出掛けてたのは・・・?」


「治療の一環で、集会に」


「たまに帰らなかった日は・・・?」


「・・・、友人と飲み明かしてただけだ。ただ、俺は酒がダメだからお茶だったけどな・・・。」


「女物の香水は・・・?」


 私の追及するかのようなその問いに、智は少しだけ気まずげにして、観念したかのように白状した。


 曰く、情報を聞き出す為に、何度かはキスやデート紛いはしたが、それは『男』としてではなく『経営者』としてやったことだと。それにと。


「俺は吉乃以外には反応しないし、だいたい万菜が万季の腹に宿っている時は、俺はフランスにいた。」


「フランス?」


 どうして智がフランスに。確かに指輪に刻み込まれた言語ははフランス語だったけれど。


 私のその疑問を感じ取ったのだろうか。智はそれが当然とばかりに頷き、綾橋の奥様を睨むようにして、言葉を紡いだ。


「あぁ、フランス・イタリア・イギリス・台湾・香港、18で高校を卒業してから、色々な国に行って、シェフとして、料理人として自分の力で生きてきた。最初は日本人だからと差別され、バカにされたが、それでもあちらは実力主義だ。33歳で日本に帰って来る事になるまでは、日本にはあまり帰ってこなかった。」


 それが変わったのは。


「それがアイツが、宗一が死んだ途端どうだ?利依や母さんは、俺が日本に帰ってきて会社を継ぐのが当然だと言い募る。今まで何も連絡さえよこさなかったのにな・・・。それでも俺が日本に帰ってきて、会社を継いだのは父さんの為だ。一人であの会社を支えるのはもう限界だろうと思ったから。」


「だったら、どうして、」


「母さんは吉乃を金で買っただろう!!」


 智の言葉に、私はますます綾橋の奥様を信じられなくなった。


 愛する息子に、その息子が愛する女から注がれる非難めいた視線に耐えきれなくなったのか、遂に綾橋の奥様は癇癪を起した。


「貴方の、智の為だったのよ。それに完璧で、理想的で、優しい姑にもなりたくて、」


「それは母さんの自己満足に過ぎない。俺は言葉も話せない操り人形じゃない!!」


 帰ってくれ、と、冷たくも悲しい智の声が、リビングに木霊した。


 一方、智に拒絶された綾橋の奥様は。


「許して、なんて言っても、許してはくれないのでしょうね、吉乃さん、」


「気安く私の名前を勝手に呼ばないで下さい。不愉快です」


 私は聖人君子ではない。

 それに、智の言った言葉が真実なのならば・・・。


「私をお金で買った人とは、正直、顔も合わせたくありません。ですが貴女は智さんの母親。赦せるかどうかは解りませんが、努力はしてみます」


 無理だとは思うけれど。

 けど、今は。


「帰って下さい、私が貴女を完全に憎み、殺してしまいたくなり、首を絞め殺してしまう前に。」


 簡単に許せるほど、私は出来た人間ではないのだから。


 

 この言葉に完全に項垂れた綾橋の奥様は、涙で腫れた目も構わず、一人寂しく帰っていった。

明日はバレンタインなので、少し甘くしたい・・・。(無理かも)

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