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Si je tombe dans l'amour avec vous  作者: 篠宮 梢
第五幕:信じあい、助け合い、支え合い、愛し合うと言う事
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♪、64 乱入者④

ぜ、全身、筋肉痛。

 この甘くも淫靡な空気を誰が壊そうと言うのか。



 高まりかけた身体の甘い熱は、再びの乱入者の登場によって、一瞬にして醒めた。


 互いの存在を確認し合い、寂しさを和らげるために触れあう筈だったのに。

 それを邪魔した人はどういう神経をしているのだろうか。


 時計を見れば、漸く朝の7時を過ぎた所で、世間一般的に言えば、今は丁度朝食の時間帯。


「千客万来ね・・・。」


「有り難くない位にな。」


 私の諦めた顔を見て、智はお茶を淹れてくると言い、私はなんとか一人でソファーに座り直した。

 と、それとほぼ同時に乱暴に開け放たられた、リビングと玄関を仕切る戸。


 誰よ、と、半ば良い雰囲気を壊された八つ当たり紛いに、我ながら鋭い視線をその人物の方へ向けた私は心底驚いた。


 私は彼女からそんな風に睨まれる様な事はしていない。

 そんな顔で恨まれる様な事もしていない。


 真直ぐに向けられる憎悪と恨みと嫉妬の感情に、私の身体は恐怖に震えた。


 喉は一瞬にしてカラカラに乾涸び、指先は冷たくなる。

 恐怖に震える身体は、逃げたくても動かせない。


 例えるのなら、今の私は羽根をもがれた飛べない鳥、若しくは足の腱を断ち切られ、逃げる事も、野山を自由に駆ける事も出来ない無様な馬。


 振り上げられた手に、鬼の様な表情に、ストレートに向けられる憎悪に、過去を無理矢理思い出させられた私は、無意識に助けを求め、悲鳴を上げていた。


 怖い、恐い、コワい、こわい。

 嫌だ、イヤダ、いやだ。

 誰か、誰かタスケテ・・・っ!!


「いやぁーーーーーっ、やめてぇーーーっ。誰か、助け、助けてぇーーーっ」


 私は何も悪くない。

 悪いのはあの人だ。

 なのにどうして私を打つの。

 どうしていつもあの人と私を比べるの。

 どうして、私を普通に愛してくれないの・・・?


 私のこの悲鳴に驚き、お茶を淹れていたはずの智が駆け付け、そして一瞬にして状況を見て取った智は、私を守る様に、その人と私の間に立ち、私の代わりに平手打ちをその頬に受けた。


 バシッ、と、如何にも痛そうな音が部屋に木霊する。


 その音だけで私は体が震える。


 あぁ、打たれた、叩かれた。

 また私の代わりに、誰かが叩かれて、傷ついた。


 どうにもならないもどかしさと、何も出来ない自分が悔しくて、苦しくて。


「ぁ、謝るから、吉乃が悪いなら、あ、あやまるから、」


 だから、その人は許してあげて、と続く筈だった私の言葉は、智の唇で言葉になる前に消えた。

 

 智の突然のキスに、恐怖でいつの間にか溢れていた涙は止まり、代わりに絶対の安心を求めるかのように、私は智からのキスを貪る様に、与えられるままに受け入れた。


 そして私が落ち着くのを見計らい、智は私の唇を解放し、智は私の耳元で言葉を小さく紡いだ。

 その智の言葉に従うかの様に、私の意識は自然と閉ざされた。


 依存していると言われるかもしれない。

 でも、その時の私はそれに従うしかなかった。

 立ち向かうと決めたのに、そうしなければ自分が壊れてしまいそうだったから。

 だから私は智に甘え、現実から逃げた。


 

 ごめんね、有難う、智。


 沈みゆく意識の中、私は涙を無意識に流し、やがて私は完全におちた。

 

す、進まない・・・。

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