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Si je tombe dans l'amour avec vous  作者: 篠宮 梢
第五幕:信じあい、助け合い、支え合い、愛し合うと言う事
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♪、60 月下の物思い

更新です。

(もう、いないのにね・・・。)


 何度も撫で、何度も確かめたのに、身体はその時の事を記憶しているから、偽胎動を起こす。

 でも、もしかしたらそれさえ私の勘違いなのかもしれない。


 守りたくて、大切で、たった一つの希望の光だった小さな存在。

 体重を増やしていけば、無理なく出産できるだろうと言われていた命。


 その子は、もう私の胎内には居ない・・・。


「ごめんなさい・・・、守ってあげられなくて、産んであげられなくて、ごめんなさい」


 涙を流して、もうこの世にいない子に謝る事しか出来ないのが歯痒い。


 産まれてくる子の為に編んでいた靴下、生まれてくる子の為に厳選した布で作り上げた産着や肌着、晴れ着といった数々。その中には綾橋のお義父様から贈られてきたモノもあった。


 定期報告の為に、オーガニックレストランで食事をする度、早く逢いたい、早くこの腕に抱きたい、と、我が子のように楽しみにしてくれていたお義父様。

 性別がまだ解らない内から、男の子の様な気がするからと、男の子用のベビー服を真剣に選んでいたお義父様。


 そのお義父様の姿に苦笑しながらも、幸せを感じていた私と、真剣に選ぶお義父様を担当してくれたベビー服の店員さんには「優しい旦那さんですね」と、夫婦にも間違えられた事もあった。


 その時のお義父様の照れた顔は、今でも鮮明に思い出せる。



 ヒュウーッと、冷気を纏った風に吹かれ、物思いに更けていた私は、その風にブルリと身体を震わせ、自分で自分を抱きしめた。


 本当ならもう既に寝ていなくてはならない時間。

 でも、眠れない。

 もっと言えば、眠れないと言うか、実は眠るのが怖い。


 眠れば思い出すのはあの時の事ばかり。

 もっと悪ければ、過去の事も思いだし見てしまう。


「どうして、どうして夢まで出てきて私を苦しめるのよッ、」


 ガツン、と、ベランダ手摺を思いっきり叩けば、握りしめ、叩きつけた両拳が地味にジクジクと痛み、熱を持つ。


 苦しい。

 辛い。

 怖い。


 呼吸が自然と忙しくなってくる。

 それを自覚した途端、意識も白濁としてくる。


 そうして今にも意識を手放してしまいそうになった時、後ろからふわりと、私を気遣う様に、タオルケット越しに抱きしめられた。


 そのお陰で意識がはっきりとしてきて、安堵感から眠くなる。


 ここにいるのは私ともう一人だけ。

 つまり私を抱き締めているのは。


「今は寝よう。」


 悪夢は見ないから、と、囁かれた言葉を最後に、私は夢の国へと足を踏み入れた。



 ねぇ、智。

 私が貴方を一度拒否しながらも、また受け入れたのはね、貴方が私と違って――――だからよ。

 だから私は、優しくなんてないの。

 

 だから、智、貴方はそんなに私に対して、気に病む事は無いのよ・・・?

吉乃、物思いに更ける。

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