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Si je tombe dans l'amour avec vous  作者: 篠宮 梢
第五幕:信じあい、助け合い、支え合い、愛し合うと言う事
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♪、59 すみれ先生

万菜視点

「この役立たず!!」


 バシッと頬を叩かれる。


「アンタの顔を見てると腹が立つのよ。――なぁに?その顔は」


 痛くて、痛くて、悲しくて。

 だけど、泣くともっと痛くされるから、叩かれて、蹴られるから、だからまなはガマンするしかないの。


 ママはパパがいる時は優しいのに、いなくなるとまなを怒る。

 なんでって聞いても、まなが悪いからに決まってるって言う。

 でもまなは何も悪いことしてない。悪いことしてるのはママの方。


「気に喰わないのよ。その目が、その顔が。」


 髪が引っ張られて痛い。

 何も食べてないからお腹もすいた。

 こんなことなら、パパについて行けばよかった。


 パパ、って言っても、まなの本当のパパじゃないと思うけど、パパみたいな人だから、まなはパパって呼んでる。そのパパに付いて行けば、まなはママに叩かれなくても良かったのかもしれない。でも、その代わりに・・・。


(やっと、やっと、すみれ先生が笑ったんだもん。うれしい、しあわせ、だいすきって、やっと笑ったんだもん。)


 にこにこじゃなくて、にっこり、って。


 はじめてだから、はじめてあんな顔を見たから。

 だからすみれ先生の事は、まなが守るんだもん。


「何よその目は。あぁ、分ったわ。私がアンタをムカつく理由が。」


 お腹を蹴られて、口の中で血の味がした。

 それでもママはまなを蹴りながら、笑って言った。

 それは、パパが聞いたら、あの紘人って言うお兄ちゃんが聞いたら、ママを許さない事だった。


「アタシが突き落して、腹の中のガキと一緒に殺してやりたかった女に似てるのよ、アンタは。」


 ママが?

 ママがすみれ先生の赤ちゃんを殺したの?

 なんで?どうして?


 ママはそんなまなの顔を見て、嬉しそうに笑った。

 それを見て、いやな予感がした。


(いやだ、イヤダっ。もう痛いのはいやっ!!)


「―――――っ!!」


 まなが目を閉じる前に、誰かの叫び声が聞こえた様な気がした。

 でも、まなは恐くて、どうしても動けなくて。

 だからお湯が入ってた入れ物が、まなの横にコロコロと転がってきて、それでも熱くないって気付いた時は、しほさんがまなを庇ってくれていて、驚いた。


 しほさんはまなが無事なのを見ると、優しく笑った。

 そして、ママがそんなしほさんに驚いている間に、しほさんはまなの手を引っ張って、部屋から逃げ出して、お家からも飛び出した。


 しほさんの手には大きな鞄が一つと、何かのメモが一枚。


 走って、走って。走るだけ走って。

 途中でタクシーに乗って、お空が赤く染まる頃に着いた所は、あの紘人お兄ちゃんの住む、お家だった。


 紘人お兄ちゃんは、まなを見て、次にびしょびしょなしほさんの姿を見て、恐い顔をした。


「糸帆さん、その火傷は、もしかして・・・」


「紘人様、私の事よりも万菜様が・・・っつ、」


 まなの名前を言った瞬間、しほさんが急にまなの方に倒れてきた。それを慌てて支えようとしたけど、まながしほさんを支える前に、紘人お兄ちゃんががっちりとしほさんを抱きしめてた。


「吉乃ちゃんといい、糸帆さん、貴女という人まで・・・。全く、無茶ばかりする。だから放っておけないんですよ・・・。」


 絵本の王子様がお姫様にキスするみたいに、紘人お兄ちゃんはしほさんのおでこにキスして、まなとしほさんをお家に入れてくれた。


 そして。


「君は、あの母親を捨てる事が出来るかい?」


 しほさんの背中の様子を見ながら言われた紘人お兄ちゃんの言葉に、まなはちょっとだけ考えた。

 でも、答えはもう出ていた。

 だから。


「まなは、ママじゃなくてパパと暮らしたい。」


 パパと、すみれ先生と、まなの三人で。

 それを聞いた紘人お兄ちゃんは、少しだけ寂しそうに笑った後、分かった、と言って、まなの頭を優しく撫でてくれた。


 その撫で方は、まなの大好きなすみれ先生とそっくりだった。

時間軸としては、吉乃が退院した朝から夕方にかけてまでです。

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