♪、57 歩み寄る、素顔。
これからどうしよう・・・。
「じゃぁ、無理はしない様にね。性交は3ヶ月は禁止よ?」
熱が無事下がった12月25日の昼下がり、私は自宅療養が絶対条件で、退院を許可された。
その際に注意されたのが夜の性生活の事。
普通はすぐに許可されたり、2週間程度で済むようだけど、今回の私の場合は安定期に入る直前の後期流産で、しかも一度は心肺が停止したので、完全に体調が元に戻るまでは絶対安静が言い渡された。
「あなた達はまだ若いんだから、焦らないようにね。だけど子供が全てだなんて、絶対思わないで?」
その言葉にしっかりと頷き、深々と頭を下げる。
きっとその言葉は、以前の私なら決して受け入れる事が出来なかった言葉だろうけど、今の私ならそれを素直に受け入れる事が出来る。
子供が全てではない。
実際、子供がいなくても仲の良い夫婦はいる。
それに子供が欲しいのなら、養子という手段もある。
何も自分が産まなくても良いのだ。
そう思えるようになったのは、私の中にあった変なプライドが消えたからに他ならない。
ギュッと、智の手を握れば智はびくりと一瞬固まった。
それを訝しみ、顔を見上げてみれば、何とも信じ難いモノを見てしまった。
(ウソでしょ?)
手を繋いだだけで紅くなる人なんて、今まで見た事も、会った事もなかった。
信じられない思いでジロジロと見上げていた私に気付いた智は、繋いでない手の方で顔を隠そうとして、それが出来ない事を思い出し、思いっきり顔を私から逸らした。
顔の色は私が今まで見た事もないくらい真っ赤だった。
けど、それを教えてやるほど私も人は良くない。と言うか、面白くて、それでいてこちらも釣られて恥ずかしくなって、何も言えなくなった。
「あまり、見るな。照れるだろう・・・。」
「だって、」
だって、手を繋いだだけなのに、どうしてこんなにも照れる必要があるのだろうか。
仮にも元夫婦で、身体を何度も重ねていた事もあるのに。
それなのに、どうして、と聞こうとした時、ふと、ある事を思い出した。
それは、初めて身体を重ねた時・・・・・、
「・・・の」
「・・・・・・(只今トリップ中)」
「吉乃!!」
耳元で思いっきり名前を呼ばれ、びくっ、と、その場で飛び上がった私を待っていたのは、顔色がまだ赤いモノの、私を心配している智の姿だった。
(イケナイ、ここは道の真ん中!!)
急いで「なぁに?」と問い返せば、そんな私に「大丈夫か?」と首を傾げて聞いてくる智。
その際に、いつもは上げている前髪を降ろしているせいか、サラリと音が聴こえるほど流れた。
その場面を見せてあげられないのが本当に悔しい。
智は髪を降ろしているせいか、普段より表情が柔らかく見え、それに若く見える。
これは詐欺だと思った。
これで30代後半だと言うのなら、ノーメイクの私は一体幾つに見える事だろうか。
一緒に寝ている時でさえ、化粧を欠かさなかった童顔の私。
(ん?化粧?)
そこで急に不安になり、どうかそれが思いすごしでありますようにと願いながら、私は智に恐る恐る確かめてみた。
「ねぇ、私の顔見た・・・?」
「ん?」
「だから、」
素顔は見たかと小さく問うた私に、智は小さく微笑んで、幸せそうに頷いた。
その返答に羞恥で悶えている私に、彼は、――智は、繋いだ手を自分からしっかりと握り直し、「二人の家に帰ろう」と、ゆっくり歩き出した。
それは今までの溝を埋め直すかのように、ゆっくり、ゆっくりと。
あまり進まなかったですね。ゴメンナサイ。