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Si je tombe dans l'amour avec vous  作者: 篠宮 梢
第五幕:信じあい、助け合い、支え合い、愛し合うと言う事
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♪、51 信じ難い事実④

智視点

 拒絶がこんなにも辛いモノだとは俺は知らなかったんだ。



 車で30分弱の処に、その病院はあった。


 常ならば幸せそうな空気が流れていそうなそこは、今は上へ下への大騒動の渦中にあった。

 パタパタと走り回る看護師や、血だらけの術衣を来た医師。

 それを不安そうな表情で見やる多くの妊婦達。


「輸血はどうなってるの?」


「今問い合わせてます。」


「急いで、早くしないと危ないわよ、あの子」


 鬼気迫るその表情に、背中に冷たい汗が流れた。

 

 どうしたんですか、何があったんですかと問いかけたいのに、口が、足が、その場に根を張ったかのように動かない。


 そんな俺の横を颯爽と通り過ぎ、血だらけの医師に縋りつく男がいた。


「先生、彼女は、吉乃ちゃんは無事なんですか!?」


「・・・っ、」


「先生ッ!!」


 その声は悲壮に満ちていて、今にも絶望の淵に追いやられそうなほどな声音だった。

 

「輸血が、血が間に合わないかもしれないの・・・。最悪の事態を覚悟しておいて頂戴。」


「そんな、」


 ふらりとふらついた男が、その場にくず折れる。

 そんな彼を痛ましげに見つめていた医師は、俺と父さんに気付いたのか、鋭い眼差しを向けてきた。

 そして。


「どなたかのお見舞いですか?」


「あ、あの、綾橋 吉乃 は、こちらでは?」


 どうか、いないと言って欲しい。

 そこにいる男も他人の空似であって欲しいと、思った。

 なのに、現実はそれを許してはくれない。


 床に膝をついていた男が、ゆるゆると顔を上げ、ギリっと唇を噛み締め、凄まじい空気を醸し出し、こちらを睨んできた。


 その瞳は深い憎悪に染まり、今にも俺を刺し殺したそうにしていた。


「彼女は綾橋ではありません、今の貴方には無関係です」


「紘人君、今はそんな事を言っている場合ではないだろ。彼女の血液型は?」


 ピシャリとした父さんの声に、憎悪に満ちていた紘人の目が、僅かに正気に戻ったかのように見えた。

 が、紘人は肩を落とし、呻く様に声を漏らした。


「吉乃ちゃんの血液型はRh-のAB型です。」


 Rh-。


 それは何千何万分の一の確率でしか生まれない希少なタイプ。

 しかも国民の殆んどがA型のこの国民。

 

(それだけでも少ないのに、AB型だなんて。最悪だ・・・。)


 重い空気がその場を支配しかけた時、手術室からスタッフが蒼褪めた表情で出てきた。

 その顔色はもう土気色に近い。

 それに加え、ぶるぶると震えている細い身体が、最悪な事を予兆させる。


「先生、平さんが・・・、」


 涙をぼろぼろと流し、声も涙に濡れ。


「どうしたの、はっきり言いなさい。平さんがどうしたっていうの!?」


 そんなスタッフに、医師は状況を詳しく説明を求めた。

 スタッフはスタッフで、泣き喘ぎながらも、必死に言葉を紡いだ。

 誰しもが求めた安堵の報告ではなく、最悪な報せを・・・。


「心肺停止しました・・・――。」


おかしいな、こんな筈では・・・。

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