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Si je tombe dans l'amour avec vous  作者: 篠宮 梢
第五幕:信じあい、助け合い、支え合い、愛し合うと言う事
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♪、50 信じ難い事実③

智視点

 頭が動かない。何が何だか解らない。

 アイツは、紘人は、何と言っていた?


「な、何よ、大袈裟なんだから・・・。」


 利依のひび割れ、戸惑い交じりの声音に、何故か万季は微笑んでいた。


「そう、大袈裟ですし、あの人はもう他人なのでしょう?心配する義理はありませんわ。流産は可哀想ではありますけど。」


「・・・、れ」


 おかしそうに、まるで他人事のように言い、笑う万季。

 その態度に、普段は穏やかな気性の父さんが、憎悪の光を宿した瞳を、万季と利依に向けた。


 父さんは会長職に就任したとはいえ、未だに綾橋一族の総帥である。

 その父さんに逆らうのは、綾橋一族に喧嘩を売ると同意でもある。


 今やその眼差しは、それだけで人を殺してしまえそうなほどに鋭い。


「万季さんといったね?」


「え、あ、はい。」


 その父さんの気迫に呑まれた万季にも構わず、父さんは震える右手を左手でなんとか抑え、それでも何かを伝えようとしていた。


「君は堕胎手術を何度も繰り返した女性が、妊娠する大変さを知っているかい?知らないだろうね。ただでさえ妊娠出来る確率が低かったのに、今回の流産で更に難しくなっただろうね。そんな彼女を心配する必要はない?ふざけるなッ!!」


 そこには、20代で綾橋一族をまとめ上げ、今も尚政財界に深い影響と太いパイプを持つ『氷の鬼』と言われる父さんがいた。

 

「と、父さん?」


「お前もお前だ、智。吉乃さんは一人でいつも苦しんでいた。お前が会社で徹夜しているときはそうとも知らず、悩み、苦しみ、一人で泣いてた事も知らないのだろう。お前が女性社員と一緒にいる時も、彼女はいつも一人で泣き、強い孤独を耐えていた。」


 前から父さんは彼女に、――吉乃に対して、実の娘である利依に対して甘い所があった。

 その答えが、父さんが今語った通りなのなら、俺は本当に何も解っていなかった。


 一人で泣いていた?

 一人で苦しんでいた?

 父親に、母親に、姉に虐待されていた?


 そんなのは知らなかった。

 いや、違う。

 何も知ろうとはしなかったんだ。


「お前はいつまでそんな風にぐずぐずしてるんだ。今彼女は生死の淵に彷徨ってるんだろう?逢えるのも、謝れるチャンスも、最期かも知れないんだぞ?良いのか?このまま独りで逝かせても良いのか!!」


「良い訳ないだろう!!俺には彼女しか愛せないんだからッ」


 父さんに反論して、改めて俺は気付かされた。


 彼女と別れてモノクロに戻ってしまった世界。

 カラフルだった世界は音が消え、色彩豊かだった景色も荒野同然もなった。

 味覚も嗅覚も、全てが狂ったかのように機能しなくなった。


 彼女に出会って初めて自分を自分だと認識できたのに、一時の感情で俺は彼女を孤独にしてしまった。


 それを一言逢って直接謝りたい。


 まだ間に合うだろうか。

 まだ彼女は俺を求めてくれるだろうか、赦してくれるだろうか?


(いや、そうじゃない。)


 例え赦して貰えなくても。


「父さん、俺、」


「何も言うな、行くぞ」


 俺の覚悟と決意を読み取ったのか、父さんは表情を和らげ、踵を返した。


 外は雪が降り、何かを覆い隠すように静に淡々と降り続けていた。


 


描写が少なく、すみません。

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