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Si je tombe dans l'amour avec vous  作者: 篠宮 梢
第四幕:新しい生活と命
38/97

♪、37 新しい職場①

更新。

 胸がズキズキと痛み、疼くのは、心を偽っているせいで、どうしようもなく寂しく、罪悪感があるから。


 昨日のあやめちゃんが最後に見せたあの表情は、私が望んだものだったのに、心は血と涙を流し、荒れた。


 まだ小さいのに、あの憎しみと悲しみが内交じりになった、傷ついた瞳と表情かお


 それを望み、実行したのは私だと言うのに、心が声なき悲鳴を上げた。


 許して、本心じゃないの。

 本当は愛してるの。

 戻りたいの。

 抱きしめて、抱きしめられたい。


 なんて自分勝手で、浅ましく、醜い黒い気持ちを持ち、償いきれない罪だと知りながらも、まだ許して欲しいと願っている。


「愛してるなんて・・・、どの口が言うのよ・・・。」


 ポロリと、口から洩れたのは、暗い、暗い、淀んだ本音・・・。


 そんな私の背後から、ドンっと、勢いよく抱きついて来たのは数人の園児達。


「すみれせんせ~い。ピアノ、弾いてぇ~?」


 ピンク色のエプロンにまとわりつき、「ねぇ、ねぇ」と、甘えるのは、あやめちゃんよりまだ小さな女の子達。


 その子達の近くにいた、まだハイハイを覚えたばかりの赤ちゃんを抱き上げ、音楽室に移動し、せがまれるままピアノの前に座った。


「何が良いの?」


 私のこの問い掛けに、みんなは一斉に口を開いた。と、途端に、音楽室は賑やかで、幼く、拙い声で溢れた。 

 

 その間に私は赤ちゃんを背に背負い、おんぶ帯で固定した。


「せんせい、決まったよ~」


 にっこりと微笑むのは、明るい女の子。

 男の人が近づくと、怯えたりするけど、とても愛らしい女の子。


 私はその女の子に、嘘も偽りも、何もない笑みを向け、ピアノを弾いた。


 

 本来、私は事務員としてこの保育所に雇われた。

 それが今、どうしてこんな事になっているのか。

 答えは簡単。


 元々、人員が足りなかった所に、保育士の資格を持った人が現れたら、経営者の誰だって事務員と兼務させるだろう。


 そして止めは、誰もいないと思って弾いた、月光のピアノのソナタ。


 昔はする事がなく、檻のような閉じ込められた家の中で、嫌々に弾いていたピアノ。

 だけど皮肉にも、そのピアノは、いつしか類以外では、最も私を癒やしてくれる存在になっていた。


 完全な恋人となれなかった類と初めて喧嘩した時、学校で虐められていた時、そしてあの獣に穢された時。


 今となっては、悔いても、悔い切れない苦い過去と、思い出したくもない過去を思い出しながら・・・。


 最後の一音をポーンと響かせ、指を鍵盤から離した時聞こえたのは、パチパチと、小さな音を立て拍手していた小さな観客の思いの詰まったエールの音。


 その時の小さな観客達がここの所長に報告した事で、私は時々(と言ってもほぼ毎日。)保育士として働くようになったのだった。

短いけど、ここまで。

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